第11話

 ティトは灯台の上から遠見筒スコープ越しにルイスを見守っていた。


 何か不測の事態が発生した場合は、ルイスを援護するためだ。

 と言っても、ルイスが危機に陥ることなどそうそう無い。従って、ティトの仕事はせいぜい逃走の手助けをするくらいだ。



 今回のシュトラウス伯爵との戦いは激しいものだがティトは手を出さなかった。



 予定通りにルイスは、ターゲットである氷の魔槍ジーリアスの入手に成功している。だから、ここからがティトの出番だ。


 まずティトは、灯台に取り付けてある、いくつかの滑車が組み合わさったワイヤーを引っ張る装置を操作して、ワイヤー緩めた。


 ワイヤーの先にはルイスが乗っていった滑空凧グライダーが繋がっている。

 ワイヤーを緩めたことで、滑空凧グライダーはゆっくりと練兵場の方へと流れて行った。



 次に、ワイヤーを緩めながらティトはもう一度、遠見筒スコープを覗き込む。


 ちょうどルイスが練兵場に背を向けて逃げ出すところだった。


 ティトは、ルイスの後方を狙うと、迷わず長距離射撃用魔銃アキュラスの引き金を引いた。

 銃声が夜空に響く。


 狙い違わずルイスの後方に着弾すると、同時に白い煙幕をまき散らす。


 すぐにティトは長距離射撃用魔銃アキュラスのボルトハンドルを起こした。

 キンッという小さな音と共に空薬莢からやっきょうが落ちる。


 ハンドルを一度、手前てまえに引いてから押し出すように戻す。

 ガシャンという音をたててからボルトハンドルを倒すと、再び遠見筒スコープに目を当てる。


 一拍おいて、ティトは引き金を引いた。

 再び銃声が夜空に響き、銃弾はルイスの後方に着弾する。


 先ほどと同じようにルイスの後方に煙幕をまき散らす。

 これで、ある程度は追っ手の足止めが出来るはずだ。


 念のため、もう一度ボルトハンドルを操作して次弾を装填すると、滑空凧グライダーのワイヤー操作に戻る。



 だが、その直後、ルイスの前に立ちはだかる人影があった。

 急いで遠見筒スコープを覗き込むと、ルイスの前にはルードが立っていた。


 すぐに二人は戦いを開始するが、先ほどの伯爵との戦いよりも苦戦している。

 ティトは遠見筒スコープを覗きながら、ワイヤーをゆっくりと伸ばしていった。



 戦いは、ルイスの槍がルードの肩を切り裂く形で決着がついた。


「兄さんが、相手にあんな怪我を負わせるなんて。ルードさん、かなり強かったんですね」


 ティトはそんな感想を漏らした。

 実際、ルイスは貴族相手でもあまり相手を傷つけることを好まない。必要な時は躊躇ちゅうちょしないが、余裕があるときはだいたい加減しているのだ。


 その時、ルードの背後から小瓶を投げるテッドの姿が、遠見筒スコープ越しに見えた。



 放物線を描いてルイスの方へと飛んでいく小瓶に、ルイスは反射的に引き金を引いた。

 銃弾は、狙い違わず小瓶を貫き、粉々に砕いた。


 運よく命中したことに感謝しつつ、ティトは滑空凧グライダーのワイヤーを伸ばしていった。


 ルイスが滑空凧グライダーから垂れ下がるロープを掴んだのを確認すると、ティトは滑車を使ってワイヤーを巻き取る。


 引っ張られたことで、風を受けた滑空凧グライダーは、一気に上空へと舞い上がり、ルイスを夜空へと引き上げた。



 煙幕のおかげで、もうルイスを追う者はいない。


 ティトは滑車を使って、ワイヤーを巻き取っていく。灯台の近くまで来たルイスはロープから手を放して着地した。


 ティトも滑空凧グライダーを回収して灯台を降りる。


「兄さん、お疲れ様です」

「おう、ティトもお疲れさん。それにしても、最後のあれは助かったぜ」

「あれは、さすがにまぐれですよ」


 そう言いながら、合流した二人は笑顔で拳を打ち合わせた。



 その後、二人は『船乗りの酒樽亭』へと向かった。


「らっしゃい」


 店に入ると店主の威勢のいい声が迎えてくれた。店内を見渡すと、ドナテロとサンチョの姿があった。


 ルイスはドナテロに近づくと、テーブルの上に布で包んだ『氷の魔槍ジーリアス』を置いた。


「取り返してきてやったぜ」


 ルイスの顔を怪訝そうに見た後、ドナテロが布を開く。


「こ、これは?」

「魔槍ジーリアスじゃないっすか」


 ドナテロとサンチョが驚いて目を見開いた。


「もう、取られるんじゃねぇぞ」


 そう言って背を向けたルイスをドナテロが引き止めた。




 結局、ただで受け取るわけにはいかないと言うドナテロの主張により、話し合った結果、ルイス達が、魔槍ジーリアスを相場の半額で買い取ることになった。


 その後、4人で酒を酌み交わし、ルイスとティトは、大好きな魚料理に舌鼓を打つ。



 また少し、怪盗ナバーロの名が人々の記憶に刻み込まれた。





「そういやぁ、怪盗ネバールの二人って、どうなったんだろうな?」

「さぁ、捕まったんじゃないんですか?」


 後日、ルイスとティトはそんな言葉を交わしていたが。その時には、またネバールの二人に会うことがあるとは思っていなかった。


(おわり)



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 最後までお読み頂きありがとうございます。


 ルイスとティトの活躍、如何でしたでしょうか?


 もし気に入って頂けましたら、この二人が活躍する長編小説


 『貴族に虐げられてきた猫獣人の兄弟。怪盗になって、悪徳貴族たちを懲らしめちゃうかもしれません。【ツインズソウル 2(Immoral cats)】』


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怪盗ナバーロの奮闘 『氷の魔槍ジーリアス』 ふむふむ @fumufumu0721

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