第10話

 ルイスは、練兵場に背を向けて、敷地の外を目指す。


 だが、そんなルイスの前に一人の男が立ちはだかった。


「おっと、その槍は置いて行ってもらおうか」


 赤っぽい髪の小柄な男。

 ルード・ネバールだ。


 テッドをはじめ、騎士たちは、まだねばねば状態で折り重なっている中、どうやったかは分からないが、ルードだけがねばねばから抜け出していた。


「そういう訳にはいかねぇな」


 ルイスは氷の魔槍ジーリアスを中段にかまえる。対するルードは、片手直剣を上段にかまえた。


 先に動いたのはルード。

 わずか一歩で一息ひといきにルイスとの間合いを詰めると、上段から直剣を振り下ろす。



 速い。



 すさまじい剣速を誇るそれを、ルイスはギリギリのところでかわした。


 激しい剣圧けんあつがルイスを襲う。


「くっ、まじか。強いじゃねぇか」


 ルイスの口の端があがる。


 瞬間、ルイスは槍の穂先を跳ね上げる。

 明確な殺意を持ってルードの腹を狙ったその一撃は、ルードの直剣によって防がれた。


「はあああああっ」

「おおおおおぉぉぉ」


 二人の気迫きはくがせめぎ合う。

 ルイスの槍による三連突きを、ルードは連続して直剣ではじく。


 ルードの渾身の横薙ぎの一撃は、槍の柄によりはじき返えされた。


 半回転しながら放たれるルードの下段からの剣撃をルイスはジャンプして躱すと、空中からの2連撃によりルードを串刺しにしようとする。


 それをルードは体を捻って躱し、空中のルイスを捉えようと剣を振るう。


 槍の柄で受けたルイスは、剣圧により吹き飛ばされる。


 空中でバランスを取り一回転して着地するルイス。


 ルードはルイスを追うために地を蹴った。



 激しい剣撃が繰り返される。

 金属と金属がぶつかり合う激しい音が響く。それは徐々に速さを増していった。


「おおおおおぉぉぉ!」

「はあああああっ!」


 ルードの渾身の上段からの斬り降ろしを、ルイスは体を捻って紙一重で躱す。

 剣圧でルイスの髪が激しい風にあおられる。

 ルイスは、その態勢のまま短く持った槍を跳ね上げた。槍の切っ先がルードの右肩を深く切り裂く。


「ぐぅ」


 痛みでうめき声を漏らすルードだが、傷ついた肩を無視して下段からルイスを追撃する。右肩に激痛が走る。

 それは、ルードの動きをわずかだが鈍らせた。


 その隙をついて、ルイスは槍の柄を剣に叩きつけた。


「ぐあっ」


 ルードは痛みに耐えられず剣を落とす。



「兄さん!」


 ルードの後ろから、弟テッドの叫び声が聞こえた。

 同時に何かがルイス目掛けて投げられた。


 それは一本の小瓶だった。

 小瓶はゆるい放物線を描きながらルイスに迫る。


 その時、空中で小瓶が砕け散った。

 ちょうどルードの真上。


 砕けた小瓶から液体がルードに向かって降り注ぐ。


「あああ。くそぉ、またか」


 ルードは悔しそうに叫ぶが、既にねばねば液にまみれ、地面に張り付いていた。


「あわわわ。兄さん、ごめんなさい」


 弟のテッドが情けない声をあげる。




「ぷっ。あははは。じゃあな」


 一瞬、何が起こったのかついていけず口を開けていたルイスだが、すぐに状況を理解すると、思わず噴き出した。


 そして、ルードたちを置いて走り出す。



 そんなルイスを待っていたかのように上空からロープが降りてくる。


 ルイスがジャンプしてロープを掴むと、一気に夜空へと引き上げられた。

 ロープの先には、滑空凧グライダーが海から来る風を受けて高く高く昇っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る