第9話

 再び2メートルほどの距離を挟んでにらみ合う二人。


 先に動いたのは、またもシュトラウスの方だ。


 連続した突きがルイスを襲う。

 ルイスは左右に体を振って、その突きをかわすが、槍の穂先が肌を掠めるたびに、強い冷気に襲われる。


 その冷気は、ルイスの肌を凍らせて徐々に体力を奪おうとする。


 突きを全部回避されたシュトラウスは、今度は槍の向きを少し下げ、その穂先をルイスの足元に突き刺した。


 その瞬間、地面から氷柱つららがせりあがる。そして、その先端は何本もの尖った氷の槍となって、ルイスの体をつらぬかんと伸びた。


 ルイスは跳び退すさりながら短剣を振った。

 赤く光る短剣は、まるで抵抗を感じさせず氷柱つららをスパスパと輪切りにしていく。


「ほぅ。なかなかの性能だな。その性能なら800万リルは超えそうだ」

「まだまだ本番はこれからだ」


 シュトラウスは槍の穂先をルイスに向けると、魔力をめる。


「はあああああああぁぁぁ」


 『氷の魔槍ジーリアス』のまとう青白い光が増していく。

 直後、穂先の周辺に無数の氷のつぶてが出現した。小石サイズのつぶては、次の瞬間ルイス目掛けて殺到する。


 ルイスは一瞬ニヤリと口の端をあげた。


 そして足を止めると、真っ向から氷の礫を迎え撃つ。

 高速で振られる両手の短剣。

 それは、すべての氷の礫を叩き斬った。



「なっ、全部斬っただと!? そんなバカな」



 シュトラウスは、信じられないという様子で目を見開いた。


「次は、こっちの番だ!」


 そう言うと、ルイスは一瞬で間合いを詰める。

 既に短剣の間合いだ。

 ルイスはシュトラウス伯爵の足を狙って短剣を振った。


 短剣がシュトラウスの足を切り裂く瞬間に、槍の柄がそれを防ぐ。


 その瞬間、シュトラウスの口元が一瞬緩む。

 そして、伯爵は槍の石突で地面を叩いた。


 嫌な予感にルイスが後ろに飛び退くのと、伯爵の周りに円を描くような氷柱つららえたのは、ほぼ同時だった。


 一瞬でも遅れていたら、ルイスは氷柱つららに串刺しにされていたかもしれない。

 

「あぶねぇ!」


 今のは、さすがのルイスも肝を冷やした。

 だが、それだけでは終わらない。

 飛び退いたルイスを追うように、氷柱つららが伸びる。


 ルイスを追尾するように何本も伸びていく氷柱つらら

 それから逃げながら短剣を振って氷柱つららを斬り落とす。


 バターのように斬り落とされる氷柱つらら

 その切断面は、まるで熱で溶かされたかのように水がしたたっていた。


 すべての氷柱を斬り落としたルイスに、シュトラウス伯爵の槍が迫る。


「おおおぉぉぉおおっ!」


 裂帛れっぱくの気合と共に、ルイスは右手の短剣を渾身の力で跳ね上げた。

 ぎぃいいんという音と共に槍の穂先が天を向く。


 その隙にルイスはシュトラウス伯爵の懐へと潜りこむ。

 そのままの勢いでルイスの膝が伯爵の腹へと叩き込まれた。


「ぐはぁっ」


 伯爵の身体はくの字に曲がる。

 さらに後ろにまわって伯爵の膝を蹴りつける。伯爵の膝が折れ腕が下がる。


 間髪入れずに、ルイスは『氷の魔槍ジーリアス』を蹴り上げた。

 魔槍まそうはゆっくりと回転しながら宙を舞う。



 伯爵は動けない。


 ルイスは走りながら短剣を腰のベルトに戻すと、落ちてくる魔槍まそうを掴んだ。


「俺の勝ちだ。こいつは貰っていくぞ」


 振り返って笑みを浮かべるルイスを、動けないシュトラウスは悔しそうににらみつけることしか出来なかった。


 ルイスはポケットから少し大きい宝石を一つ取り出すと、シュトラウス伯爵に向かってほうった。


「それで、50万リルくらいにはなるだろう?」


 そう言うと、ルイスは伯爵に背を向けて走り出す。




「何をしている! そいつを逃がすな!」


 シュトラウスは、慌てて周囲の騎士に命令を飛ばす。

 騎士たちははっとしてルイスを追おうとする。

 だが、その時、ルイスの後ろの地面が抉れ、白煙が立ち上がる。


 白煙はみるみる広がって、騎士たちの目からルイスを隠してしまった。

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