第8話

 シュトラウス伯爵は、ゆっくりと『氷の魔槍ジーリアス』をかまえると、ルイスの一撃に対し、槍をげてはじく。


 ルイスは、その力には逆らわず受け流した。そして、倒れるほどに体を傾けると、シュトラウス伯爵の足を払う。


 シュトラウス伯爵は、それを跳んでかわすと下に向かって槍を突き出した。


 ルイスは地面を転がってそれを避けると、その勢いのまま跳ねるように飛び起きた。



 約2メートルの距離をおいて睨み合う二人。



 先に動いたのはシュトラウス伯爵だった。

 槍のリーチを生かして、穂先ほさきを突き出す。ルイスは、横に跳んでそれをかわすが、すぐに2撃目が来る。

 さすがに躱しきれないと踏んだルイスは、短剣ではじいて穂先をらした。


 槍が引き戻されるよりも早く、ルイスは一気に間合いを詰めようとする。

 そんなルイスの腹を目掛けて、魔槍の石突が跳ね上がった。


 迫り来る石突を、ぎりぎりのところで体をひねってけるが、そこを狙ったようにシュトラウス伯爵の蹴りがルイスに迫る。

 その蹴りを避けようと、ルイスは後ろに跳ぶ。


 だが、その距離は槍の間合いだ。

 槍の穂先が横からルイスの頭目掛めがけて襲い掛かる。遠心力も乗ったそのスピードはかなりのものになる。


 咄嗟とっさかがんでそれをかわした。

 槍の穂先が頭をかすめ、ルイスの髪を数本斬り飛ばした。


 伯爵は、すぐに槍を戻すとルイスの顔面目掛けて突き出した。


 かがんだ分だけ反応がおくれる。

 ルイスは、それを仰け反るようにして回避すると、そのまま後ろに一回転し距離を取った。


「ほぉ。泥棒猫にしては、やるじゃないか?」


 シュトラウス伯爵は嬉しそうに口元を緩める。


「そっちこそ。くされ貴族にしちゃあ、いい腕してやがる」


 ルイスもニヤリと口の端をあげた。


くされ貴族とは、聞き捨てならないな」


 心外だと言わんばかりに、シュトラウス伯爵の目に怒りの色が宿る。


「ふんっ。民から、その槍を無理やり召し上げた貴様がよく言う」


 ルイスも怒りの滲んだ声で静かに言った。


「ああ、そんなことか。この槍、『氷の魔槍ジーリアス』は彼らには過ぎたる代物だ。私の方が、この槍に相応しい。それに、これは奪ったのではない。買い取ったのだよ」


 悪びれることもなく言うシュトラウス伯爵に、ルイスの眉は吊り上がった。


「はっ、たったの50万リルのはした金で、買い取ったと言えるのか? その槍、少なく見積もっても500万リル以上はするぞ」

「ふっ、50万リルとて、彼らにとっては大金だろう。それだけ渡せば充分じゅうぶんじゃないか」

「なんだと!」


 ルイスが怒りのにじむ低い声を出した。


「それに、私のような強いものが持ってこそ、この槍が世の中の役に立てるのだよ。彼らもその方が本望だろう?」

「ほぉ。その理屈なら俺が貴様に勝てば、その槍を持つのは俺の方が相応しいってことでいいんだな?」


 ルイスは怒りを抑えると、シュトラウスを挑発するように口の端をあげて笑った。


「ふっ、私に勝てればな。そんなことはあり得ないが。見せてやるよ。この槍の力を」


 シュトラウス伯爵は、再び『氷の魔槍ジーリアス』を構える。


「いくぞ!」


 そう言うと伯爵の手にある魔槍が、薄っすらと青白い光をまとった。

 その瞬間、周囲の温度が下がったように感じる。


「そんじゃ、俺もちょいと本気出してみるかな」


 ルイスはそう言うと、両手に持った短剣を構える。両手を開くように構えたその短剣は、薄赤い光をまとっていた。

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