第7話
「そろそろ日が暮れます。この混乱に
「そうだな。いっちょ行ってくるか。ティト、お前はここに残ってフォローを頼む」
「はい。任せてください」
ティトの返事を待たずして、ルイスは三角形の黒い凧のような物を広げている。
長さは、ティトの身長よりも少し長い。
それに三角形の翼のようなものがついている。翼は、骨組みに薄い布のようなものが張られているだけだ。
この凧、名を
ティトによって風の魔法が込められていて、これを使えば少しだけ空を飛ぶことが出来る。
ティトが創りだしたものだ。
骨組みは、ユグドラシルの枝から
羽を形成する布の部分はアラクネの糸を編んだもので出来ており強度と軽さは折り紙付きだ。
ルイスは真剣な表情で風を読む。
海から吹く風を羽の部分で受けながら、体を預け空中へと滑り出していった。
灯台からシュトラウス伯爵の屋敷までの距離は200メートルほどだ。
ほんの数十秒間の空の旅。
ルイスは尻尾をピンと立て、背後からの風を感じながら、伯爵邸の練兵場を目指して、夜空を滑るように滑空していった。
狙い通り練兵場の上まで来たルイスは
5メートルほどの高さがあったが、軽い身のこなしでほとんど音も無く着地する。
「なっ? どこから来た?」
「こいつらの仲間か?」
口々に叫んで集まってくる兵士。
「ああ、そいつらの仲間だ」
ルイスは兵士たちの言葉を肯定してみせた。せっかくなので、ネバールの仲間だと思わせておくのも悪くないだろう。
ルイスは腰の短剣は抜かずに、近くにあった訓練用の木剣を2本手に取る。
「ちょいと遊んでやるか」
本物の剣で襲い掛かってくる兵士を、訓練用の木剣だけで
ルイスにかかれば、兵士など何人集まろうと敵ではない。あっと言う間に兵士達を抜いて、先に進んだ。
その先で待ち構えるのは、精鋭騎士5人。
ネバールの巻き添えを喰らって動けなくなった騎士は3人だが、その3人を助け出そうとして、さらに2人がねばねばの
今も折り重なるようにしてもがいている。
近くで見ると、ネバールたちの使っていた液体の効果が分かった。
ねばねばの粘着力のある液体で何にでもくっつく。そして、引き離そうとすると、ねばぁという感じに伸びるのだ。しかも、そのねばねばは、もがけばもがくほど、ねばねばしてくる。
そう簡単には取れない。
たとえ取れたとしても、何かに触れるたびに、ねばぁっとくっつくのだ。
それだけでも、かなり動きを阻害される。
おそるべし、ねばねば液だ。
ルイスは、ねばねば液に巻き込まれないように、ネバールたちを大きく回り込むようにして練兵場の中央に向かう。
そこには、氷の魔槍ジーリアスを肩に担いで、ニック・シュトラウスが待ち受けている。
今は、じっとルイスを見据えていた。
まるで、早く騎士を倒してこっちに来いと言っているかのようだ。
「ちっ、生意気だな」
ルイスは吐き捨てると、騎士たちに向かって突貫する。
一人目の騎士の剣に、微妙な角度で右手の木剣を合わせ受け流す。
そのまま騎士の後ろへと抜けると、左の木剣で騎士の首筋を叩く。
「うっ」
騎士は小さなうめき声を発すると、その場に倒れた。
すぐに次の騎士が斬りかかってくる。
その剣を、ルイスは体を捻って躱して騎士の後ろに抜けると、後ろから騎士を蹴り飛ばした。
騎士はバランスを崩してたたらを踏むとその場に尻餅をついてしまう。
その騎士は置き去りにして前に進むルイス。
「こいつ。ちょこまかしやがって」
今度は二人同時に斬りかかって来た。
一人目の剣は、ぎりぎりのところで横に動いて躱す。だが、すぐに二人目の剣が来る。
躱せないで、ルイスは木剣で受け止めようとするが角度が悪い。受け止めきれないで木剣はあっけなくへし折れた。
それでも、一瞬だけ騎士の剣を止めることが出来た。
その隙にルイスは姿勢を低くして、一気に加速する。
二人の騎士は置き去りにして、さらに加速。最後の5人目の騎士に残った木剣を投げつける。
騎士が木剣を盾ではじいている間に、その騎士も抜き去った。
そして、ルイスは走りながら腰の剣を抜くと、シュトラウス伯爵に斬りかかった。
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