第22話 礼拝堂跡地へ

次の日の朝…

ライラとヘンリエッタの”仮”埋葬が決まっていたが、取り止めになった。


私が安置しているとされるあの礼拝堂が火事で焼け落ちたという報せが届いた。


その事を教えられた私とエメルダ様は、従者となった不死者三人を後からつけさせる形で馬車に乗って急ぎ辿り着いた。


そこには焼け落ちた石壁のみ残して崩れた礼拝堂の姿があった…


「察するに、これも混沌の仕業ですかな…」

「いえ、違うわ…強大な炎が扱えるのは、ティアと教皇の赤騎士ルベドだけよ」

「最後の戦いで、ティアと戦っていた女性ですか…?」

「ええ。100年前の王女エカテリーナの傍に居た従者の一人よ」

「と言う事は、その彼女が…?」

「あるわね。むしろ、これは何かのメッセージかも知れないわ。今までの回帰の中でこんな事無かったんだし…」


そう良いながら、エメルダ様は瓦礫の中を歩き、地下の安置所の入口を見つけられた。

以前見た時と違い、何か異質な感じを覚えていた。


「…三人を呼びますか?」

「まだ潜ませて。どうやら、物陰で見ている奴が居るみたいだから」

「大丈夫ですか?万が一…」

「大丈夫よ。貴方も見ていた通りに”剣”は引き抜いて、私の中にあるのだから…」


あの黄金の剣を引き抜いて”物”にしているならば、大丈夫か…

元より、あれは自ら”主”を選んでいたから、エメルダ様以外は触れない物。

そうでない者が触るか、もしくはその刃を切られれば意図も簡単に壊れてしまう代物。


現に、引き抜いた後に血晶石から解放されたあの愚弟愚妹を切り捨てた時、愚弟と愚妹の中にいた”何か”が消滅し、ただの人間に戻ってしまったのを見届けたのだから。

だが、精神までも破壊してしまう代物でもある為、廃人のように笑い続ける二人…


その姿に見かねたライラとヘンリエッタの二人が血晶の剣と槍を作り、一滴残らず血を絞り終えてミイラとなった亡骸をティアが燃やしていたのは何とも言いがたいが…

その”剣”を持っている以上、余程の事が無い限りは大丈夫だろう…




ただ、本音を言うならば…エメルダ様ではなく、私がその運命を引き受けて…

エメルダ様は生者として真っ当に生きて欲しいと願ってはいた…





地下墓地の中を歩いてはいたが…こちらの中の方がよほど酷かった。

何処も炎による真っ黒な焼け跡だらけで、燃えていないところを探すのは苦労をするばかりであった。

ただ、柱に関しては巨大な石柱で立てられていた為、崩落の危険はなかった。


むしろ、まず危険を考えるならそこなのだが…


「遺体を安置していた扉が木製だから、扉と遺体の入った棺が燃え尽きたって感じね」

「しかし、教皇達は何を訴えてるのでしょうか…私にはさっぱり分かりません」

「私もだわ。むしろ、これは彼女の傍に居る騎士達の独断かもしれないわね…」


なるほど。

そう考えるならば、確かにそうかもしれない。

現に、私とティアが眠りに付いてる時に黒騎士が訪れたりなど、彼は一体何をしたいのだろうか…



そのような考えを頭の中でグルグルと悩んでいたら、私が安置されていた場所まで辿り着いた。

むしろ、個々が一番焼け落ちの具合が激しく、真っ黒に焦げていた…


「中の棺ごと、灰にされているわ」

「証拠隠滅にしては、これはありがたいのですが…」

「無論、彼らがそんな単純な事をするわけないでしょ…手伝って、セド」

「仰せのままに」


エメルダ様の命の下、私はエメルダ様と共に”かつて眠っていた場所”を探ってみた。


…数分ぐらい調べ続け、焦げた石壁のうち一つだけ違和感がある場所を見つけ、軽く手で払ってみた。

すると、そこだけ何か違う材質で出来た石で、何かの文字が書かれていた。

抜けるのかもしれないと思い、私は引っこ抜いて見る事にした。


…どうやら、ここだけ意図的に外れる仕組みであったらしく、簡単に取れた。


「何か見つけたのかしら?」

「ええ、コレを見てください。私には読めませんが、何かの文字で書かれた石で御座います」


そう言って、私は持っていた石をエメルダ様に渡し、エメルダ様はその文字を読まれていた。


「これ、日本語だわ…それも私が生きていた時代の…」

「何故、私の眠っていた場所にこんなものが…文字はなんて書かれてます?」

「待って、久々の文字だから読むのに時間掛かるわ。…”この場より少し歩く場所、汝と幽世の者だけの世界あり。そこにこの石を当てよ”。どうやら、これが何かの鍵らしい」


ふむ、鍵か…

しかし、何故個々まで回りくどい事を仕掛けるのだろうか…


「…?待って、続きが書いてあるわ。”その先の世界にて、首落とされ、首無し亡霊として生まれ変わりし女、究明されし”…セドがデュラハンになった訳もわかるかもしれないって」

「なん…ですと…?」


私がデュラハンになった理由も分かるのか?

どうやら、このメッセージを書いた者は誰なのか…私が低級不死者である屍鬼グールではなく首無し不死者のデュラハンとして幽世から蘇った謎も分かるのか…


何にせよ、ここで愚図って何もせずに帰り、また同じ結末を辿り、やり直しされてはいけない。

エメルダ様もそれを理解されたらしい。


私とエメルダ様は互いに頷き、陰に隠れていた三人も此方に呼び出して奥へと進んでいった…






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る