首無し亡霊になろうとも

名無シング

第1話 その日は突然

その日は突然にやって来た…


「セレニア嬢、貴殿との婚約は本日を持って破棄する」


セントレア国王城内における貴族同士の社交場にて、第三王子アーサー様からとんでもない言葉が私に向けて飛んできた。

それと同時に、城内の警備をしている衛兵によって私の身柄は抑えられてしまった。


突然の事で思わず動揺いたしましたが、私は貴族の端くれ。

無闇に騒ぐようなはしたない真似はせずに、衛兵の拘束に大人しくし、殿下を冷静に問いただした。


「これは一体どういう事でございましょうか?殿下」

「貴殿は伯爵家の子女にして有るまじき行為を行った。同じ貴族でありながら身分の低い男爵令嬢アンリに対して侮辱する言葉を送り、社交場に行けぬ様に平民以下の下手人を雇い、暗殺をけしかけたとある。こんな罪を犯す愚か者が、私の妻に相応しくない。よって、貴殿との婚約を破棄したまで…」


殿下のおっしゃる言葉から、私は理解できなかった。

男爵令嬢のアンリ様とは、伯爵家と男爵家の身分の差があり、互いにおいそれと交わす事はありえない。

それは、私が公爵家の令嬢様にお声をかける際に繊細になるぐらいに神経を使う事である。


しかし、相手が身分が低い物でも侮辱するような言葉を送るなど、貴族として品のない行為などするわけが無かった。

そして、平民以下の下手を自らの手で暗殺者として雇うというおぞましい行為など、あってはならないはず…


殿下は、それすらも冷静に判断できなかったのでしょうか…


と、私が推理している最中、殿下の後ろには件の男爵令嬢アンリ様が立っており、丸で狐に追われた小兎の如くに震えながら、私を見ていた…


「そして…アンリは私に教えてくれた。貴殿の家では我が国の財産を横領し、贅沢をしていたとの事。これは、貴殿の父母である伯爵夫妻も証言されている。よって、これの罪を含めて、伯爵令嬢セレニア…いや、罪人セレニアを拘束し、後日処刑を行う!連れて行け!」

『はっ!!』


私自身が横領…?

そんなはずが…?

私が必死に考え、弁明しようとしたが…口が開く前に衛兵の一人が力づくで連行し、そのまま王城の貴族用の牢屋へと連れて行かれた。


その時、アンリ様の顔をすれ違い様に拝見したら…今にでも泣きそうな顔の下には、口元を弧の字に歪めて笑っていた…




衛兵に乱暴に連行された為、清楚に仕立てられたドレスのスカートは所々が破れ、放り込まれた際にそのままこけてしまい、掃除されてない床の埃で汚れてしまった…


一体、私が何をしたというのだ…




もう一度冷静に考えても、私はアンリ様とは全く面識は無かった。

以前、貴族の学園内ですれ違い様にお顔を拝見した時でさえも、明るく活発な女性としか認識はなく、身分が一番高い王族に平然と近寄る新参者としか認識してなかった。


無論、アーサー殿下はおろか、公爵家令嬢エメルダ様の婚約者である第二王子ラインハルト殿下にも近寄っていたという話もあった。


この、あまりにも不自然すぎる光景に私は色々と考えてみたが…私の知る限りでは限界であった。


ただ…エメルダ様も、アンリ様も、良く分からない単語を独り言で呟いていたのは知っていた。



これは「乙女ゲームだ…」っと…


以前、同じ王族の婚約者同士という形で、エメルダ様の何度かお茶会に招かれた際、エメルダ様からその言葉をポロリと言われた事があった。

そして、同じくして、アンリ様もアーサー殿下やラインハルト殿下が去った後にその言葉を呟いていた記憶もある…


一体、なんでありましょうか…



一方、横領の罪に関しましては…本気でこれついては身に覚えの無いことであった。

我が家では質素倹約をモットーにしていたはず。

元より領民の暮らしが悪く、税を取るのが厳しいのでお父様とお母様に税の有り方について散々進言を致したのに…


だが、その一方で姉上や兄上、弟達が浪費しているという話も聞いており、もしかすると考えるならば…あの二人とお父様達の穴埋めに横領し、全ての責任を私に押し被せてきたのか…




どちらにしても、弁解はあるはず…

何か打開策は無くては…



そんな風に考えていたら、牢屋の外から慌しくヒールを叩く音が響いてきた。

そして、ランプの光で照らされて一人の人物が映し出された。


まさかの…エメルダ様ご本人である…


「セレニア様!」

「しっ…お声が大きいで御座います…エメルダ様」


貴族が大声を上げては成らない。

例え、罪人であろうと、どんな場所であろうと、私はそれを守りたかった。


それをご理解されたのか、エメルダ様は我に返り、そして私に語りかけてくださいました。


「申し訳ありません…あなたの無実の断罪を止める事が出来なくて…」

「やはり、無実でありましたか…」

「伯爵家には忠告を入れてフラグを回避したつもりでしたが、アンリ様の行動が早くて…」


やはり、例の言葉でありますか…


「エメルダ様…ここは貴方と私しかおりません。どうかお話を…」

「分かりました。全てお話しましょう…」


エメルダ様がお話を始めた時、私はとても理解できない事であった。


今私のいる世界は、エメルダ様の前世(私からすれば遥か数百年後の未来)における「乙女ゲーム」と呼ばれる劇場物語と遊戯を混ぜた娯楽のお話で、私はその物語の登場人物の悪役側の一人であり、主役の男爵令嬢であるアンリ様の行動力によって、最初の断罪で処刑される運命であった。



何の取り得も無く、真犯人であるエメルダ様の駒の一人として動き、冷静に悪事を働く小悪党の娘として動き、国の財産を横領している人物としてしか書かれておらず、実家は全ての悪事を私だと押し付けて、私だけが処刑されるという幕引きであるらしい。



そして、私は明日にて広場で公開処刑によって、騎士の剣で斬首されると言う運命であるとの事。


「申し訳ありません…!貴方のフラグを止める事が出来なくて…!!」


普段の学園では気丈に振舞うエメルダ様とは思えないぐらいに、私に対して涙を流しながら謝罪する姿に居た堪れない気持ちで一杯でした。


「エメルダ様…貴族の娘で御座いますなら、はしたなく泣かれるのはお止めください」

「セレニア様…」

「私は運命から逃れられませんでしたが…貴方様がご無事でありますなら私は嬉しい限りで御座います…。今ある生を、お大事にされてください。そして、私の無念を晴らしてくださいませ…」


私はエメルダ様に告げると、エメルダ様は泣くをお止めになり、静かに礼をされて後にされました…

願わくば、エメルダ様の第二の人生を…






翌日。

エメルダ様の教えてくれた物語の台本通り、私は城下町の中央広場に鎮座する高台にて木枷によって拘束され、何時処刑されてもおかしくない状態であった。


「最後に言う言葉はあるか?罪人セレニア」


アーサー殿下は、私に対して冷たく言い放って見下しておりました。

完全に、アンリ様…いや、国賊アンリに毒されております。


「いえ、御座いません。手短にお願い致します」

「ふん。アンリへの謝罪はなしか…始めろ」


殿下の声と共に、膝をついていた黒い甲冑の騎士が立ち上がり、断頭用の剣を持ちて私の首の横に立ちはだかった。



そして…


黒騎士は無言で剣を振り上げた後、私の首目掛けて振り下ろした…



意識が途切れる寸前まで、視界が転がっている事から首が切断されたと認識が出来た。

そして、例の国賊であるアンリの前で転がり、そこで止まった…


皮肉な物だ…

最後の最後で、追い落としてくれた女の前に転がるとは…


しかし、私はこの女からとんでもない言葉を聞いた…


「うん、やっぱり処刑されてざまぁされる光景は気持ち良いわね♪男を取られ、無実の罪で処刑されるモブに相応しい最後だわ」


やはり、中身は下衆な平民の娘か…愚かな。

ただ、私が侮辱されるぐらいなら…問題は無かった。

だが、次の言葉に、私は魂の奥底から炎が湧きたった。


「しかし、この世界の悪役令嬢である大元であるエメルダっておかしいのよね。一向にフラグが回収できなくて、ラインハルト様を含めた逆ハーレムが出来ないわ。もしかすると、あっちも転生者かもね…そうだ♪何か落ち度が無いか調べてから、同じ様に嵌めて追い落としちゃおう♪私ってば天才ね♪」


やめろ…!

それだけはやめろ…!!

あの方を…いや、あの人は幸せに…!!


エメルダ様の前世の最後を聞いて、私はせめて、エメルダ様の今生だけは幸せを願っていた。

しかし、この女はエメルダ様の幸せも奪うつもりだ。

止めなくては…


しかし、そんな決意を虚しく、私の意識は深淵へと落ちてしまった…





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