第14話 愚者の末路、”教皇”の処断

太陽が沈んで夕食が終わった頃、公爵邸の玄関扉に荒々しく叩く音が鳴り響いていた。


「何事でしょうか?」

「分かりません。ですが、急用の可能性がありますね」


セバスさんの返事を聞いた私は、心配に駆けつけた公爵様ご一家とヘイソンさんを除く従者の皆を後ろに下げ、私とヘイソンさんの二人で扉に近付いた。


普段は防音を施している為、外からの罵声は遮断をしているが…扉の近くになってその罵声が聞こえてきた。


”ラインフォード子爵令息のヘンリーだ!!公爵邸に入れてくれ!!緊急事態なんだ!!”


…ヘンリエッタ様の元婚約者で、アンリの取り巻きの一人となった男。

ヘンリー・ラインフォード子爵令息の訪問であった。

こんな夜更け前の時間に来るとは、どういうことだ?



「ヘンリー・ラインフォード子爵令息でありますが…どうされます?」


私の問いかけに、公爵様はエメルダ様とモニカ様に目を合わせられた後、二人の無言で縦に頷いたを見て入れる事に。

その前に、不意打ちが無い様…ティアに結界を頼んでおいてから、私とヘイソンさんの二人で玄関を開けた。


「うわっ!!…っと、どうなっているんだ!ここの従者『お静かに。公爵様が直々の前だ』…うっ」


開けた反動で倒れそうになりながらも、こけずに突っ込んできたヘンリーは暴言を吐き続けようとした所、公爵様の御前だと忠告したら黙りこんだ。

相変わらず、父親と同じく小物臭い…


「用件は何だ?ヘンリー・ラインフォード。王族派の貴族の息子が何しにここに?」


ゼネテス公爵様が口を開いてきた事に、ヘンリーは公爵様の前で跪いて口を開いてきた。


「ロ、ローレライ公爵様にお願いがございます!!どうか、我がラインフォード家の領地で起きた暴動鎮圧に、兵を貸して頂きたいです!!」


ああ…ついに起きてしまったか。

ラインフォード子爵領にて農地を持つ領民が反旗を翻し、主であるラインフォード家を襲ってしまった。

恐らく、今年の不作にも拘らず税を取り立ててしまったのだろう…


しかし、公爵様は冷静…いや、冷酷で鋭い目付きをしてヘンリーを見下していた。


「その方。此度の原因は何なのか分かっておろう?」

「そ、それは…」

「先日のアーカム国による汚染により、セントレア国全体で今年の穀物高が不作に落ちておる。それを気にせずに王族派の貴族は贅を尽した社交場の為に従来の課税金額で徴収しようとしたではないか?違うか?」


公爵様の言葉に、ヘンリーは目を泳がせながら身体を震わせていた。

それに、アンリへの贅沢なプレゼントを送る為に、ラインフォード家の名義で私的徴収を行っていたのも、調べによって分かっていた。


「それに、我が領土内には私兵は居らず、領民全員が有事の際のみに剣を握るという習慣をつけておる為、我が公爵家に正規の私兵など居らん。兵を貸す以前に、大事な我が領民を他の領地に送るなど言語道断。早々に他に当たられよ」

「しかし!この公爵領以外に近隣の貴族は何処も…」

「くどいぞ。自分の蒔いた種は自分で始末しろ…その男を摘み出しなさい」


公爵様に頼まれた私とヘイソンさんは、ヘンリーの両側に立ってから腕を掴み、抵抗する彼を余所に公爵邸の外で放り出した。


「き、貴様等!どうなっても知らないぞ!!僕がエルラージュ伯爵家を通して王族に頼めばどうなるか分かっているだろうな!!」


知りません。

むしろ、王族も無能なラインフォード子爵家を切り捨てるのではないか?


罵声を浴びせながら扉を開けようとするヘンリーを無視して、私とヘイソンさんは二人係で扉を閉めて、鍵を掛けた。


「ふぅー…優男にあんな力があるとはな。お嬢、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、ヘイソンさん。それと、お嬢と呼ぶのは…」

「何時もの癖ですぜ、セドお嬢」


この人の腕前と忠義心は認めますが…未だにお嬢と呼ばれる事と口の悪さには一度死んだ身としては慣れないな…

それはともかく…


「どうされますか?公爵様」

「うちも人事ではないかもしれないな…冬の争いが起きるかもしれない…」


公爵様の言葉に、私達は暗く考えるしかなかった…

争いは避けられないか…






二日ほどして…ラインフォード家は滅亡した。

領民の反乱は成功し、ラインフォード子爵領内にいたラインフォード一族と関係者は全員反乱した領民によって一人残らず絞殺された。


そもそも、敗因が王都の兵に頼りきって私兵を減らしていたのがまずかった。


「呆れるばかりだわ…自分の領民に殺されるなんて」

「仕方ないです。あんな領地経営を愚策で運営され、苦しませれば誰だって反逆します」

「だからと言って、調子に乗って他の領地にまで反乱の種を蒔くのは頂けないわ」


鎧で武装したエメルダ様とそんな会話をしながら、私達はラインフォード子爵領と我らローレライ公爵領の境界線を見ながら、公爵領内にいた領民全員を武装して前に出ていた。


本来は王族が責めてきた時用に、隠していたんだけど…

まさかこの形で半農半武の兵を出すとは…


「セド。反乱分子の数は?」

「農具で武装した農民が400、農耕馬などで使った建造破壊用の改造馬車が20、ラインフォード家の保有していた私兵装備を強奪して身につけた人間が300って所ですか」

「対する、こちらは兵士訓練を受けた大人が500人、一般学校で魔法学科を受けていた学生が10人、中距離用移動弩が10、短距離用投石機が15です」

「向こうが人の数は多いけど…魔力のない平民でも扱える兵器を非戦闘員の女子供に使わせれば、なんとかいけますね」


エメルダ様にそういいながら、全身鎧を付けた私も兜を被り、公爵様を確認した。


「準備、完了しました」

「宜しい。では、我が愛する領民達よ!反乱革命を謳う愚かな異端分子から領土を守ろうではないか!!」


公爵様が剣を掲げ、高々と宣言されたローレライ公爵領民は一斉に喝采を上げ、侵攻をしてきた反乱分子と戦争を始めた…









反乱分子による侵攻は…日が落ちる夕暮れ時に終わった…


「あっけないものね…」

「所詮は戦闘経験を積んでいない素人です。長年、自領内を守る為に訓練を受けてきたローレライ領民には敵いません」


エメルダ様に返事を返した私は、投降してきた反乱分子の人間達を見ていた。

彼らは数は多かったが、連携は全く出来ないほど素人であった。


一斉突撃してきた馬車に、弩や投石器の飛び道具で混乱を生じた時、私とヘイソンさんが率いる騎馬兵少数が敵陣の横から突き、反乱分子の大将である主犯格を取り押さえた事で敵全軍は混乱、あとは前衛に居た武装した500のローレライ領民によって全員鎮圧、約700名の反乱分子を取り押さえた。


ただ、その際に一部の領民が鎮圧の際に重傷を多い、モニカ様やティアを含めた魔法使いや薬学を学んだ学生によって手当てを受けていた…


「公爵様。如何なされますか?」

「無論、主犯格は我が領内で尋問し、残りの者達と一緒に正教騎士団に引き渡そう」

「仰せのままに」


公爵様の命の下、私は指揮を取るエメルダ様の元へ行き、公爵様の裁断を伝えた後、反乱分子の彼らを連行していこうとした…


だが…同時に厄介者達がやって来て、私とエメルダ様は減滅していた。


「ローレライ公爵!それにエメルダ嬢!これはどういう事だ!!」

「そうよ!ヘンリーの領民を全員捕えるなんて!!」


…あのぅ、何故ここにアンリ男爵令嬢…今は伯爵令嬢か。

と、私を勝手に殺してくれた元婚約者アーサーが来るとは…


突然の早馬に乗ってやって来た二人を余所に、私はエメルダ様に耳打ちをした。


(これもアンリからの予定調和なんですか?)

(いえ、これはアドリブよ。恐らく、私とのイベントが立たないから自分の株上げに殿下を出汁にしたかも)


そんな私達のひそひそ話に、アンリは一瞬だけ舌打しをして直に悲哀に満ちた顔で泣きそうにしていた。

実に女々しく、そして腹黒いな…

まぁ、そんなアンリはここぞとばかりにエメルダ様に責めていた。


「な、なんでこんな酷い事をしたの!!彼らは悪くないじゃない!!」

「何が悪くないと申しますか?私達は火の粉を払ったまでです。しかも、見てください。誰も彼ら一人も殺さずに居るでは有りませんか?反乱分子かつ侵略者の対応としては破格です」

「何を…!?」

「報告書を見て分からないのですか?元はといえば、王族派であったラインフォード子爵領内にて、領主のラインフォード子爵が凶作にも拘らず重税を課せ、餓死者を出したのが原因ではないですか。余りの対応に領民達は怒り、領主とその一族を滅ぼすべく武器を取って反乱を起した。しかし、彼らは貴族と平民の本来の役割を忘れ、他の領民共にセントレア国全土に革命を起そうとした。ただ、それが目の前が我らローレライ公爵領であり、領民を手厚くしていた我がローレライ家にとって、その恩恵を受けていた領民からすれば青天の霹靂であって、紛れもない侵略です。これを非道と言うのなら何だと言うのですか?アーサー殿下」


エメルダ様の猛抗論により、アーサー殿下は何も言い返すことが出来ず、顔真っ赤にしながらエメルダ様を睨んでいた。

正に赤っ恥である…


「それに…王族直々の裁判でも、彼等の訴えは何時も退け、領民を絞り上げて苦しませている一部貴族に手厚くされている。それを踏んだ上で、王族から独立して正当な裁判を行っている正教の異端尋問会に対し、かなり批判をされているそうですが…殿下とアンリ嬢、これをどう捉えられますか?」

「き、貴様…」

「それに、殿下の出る幕ではないようですな」

「お父様…あっ」


公爵様の口出しと共にエメルダ様が何かに気付き、私と共にその先を見た。

正教の旗を掲げた騎士達…正教騎士団が到着した。

その中でも、黒い甲冑を来た騎士と騎士の前を歩く法衣を着た女性が居た。


黒騎士ニグレドと教皇エカテリーナ様であった…


「此度の反乱鎮圧、協力に感謝いたします。ローレライ公爵閣下」

「教皇様自らこの地に…このゼネテス、感謝いたします」


公爵様が教皇様の前で跪かれ、公爵家と領民全員が跪いた。

その一方、アンリとアーサー殿下は馬から下りずに目を泳がすだけであった。

なんせ…正教の最高責任者自ら現れた事に、何をして良いのか分からずにいたからだ。


「さて…件の反乱分子の主犯格はどちらに?」

「はっ、あちらで取り調べております」

「宜しい。黒騎士、こちらに」

「はっ」


教皇は、ヘイソンさんの尋問を受けていた縄で縛られた主犯格の青年男の前に立ち、顔を見られた。


「あ…きょ、教皇様…」

「本当、私の祈りが足りませんでしたね…この度の騒動を起させてしまい。大変苦しませてしまいました…」

「も、勿体無きお言葉です…教皇様…」

「そうでしょう…では、救済を与えましょう」


青年は涙を流しながら懺悔をし続けていた…

普通なら、ここで終わり…あとは正教の方で裁判をするだろう。


「黒騎士、彼の者に救いを」

「仰せのままに」

「では…貴方の来世に、期待しましょう」


教皇様の言葉と共に、黒騎士が主犯格の青年を一刀両断し、血飛沫一つ上げずに処断した。




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