第18話 相対する者達
深淵なるこの世界にて、昔の王族の娘らしく悠長に座っている教皇エカテリーナ様…
いや、王女エカテリーナは私とティアに椅子に座るように促してきた。
”掛けたまえ。貴殿等とはゆっくりと語り合いたいのです”
”その善意に、敵意はないという前提ですかね?”
”無論、そのつもりよ。ここではその意味は無い…一時休戦と言うものでしょう。過去と未来を行き来するどころか、時間と言う概念がないこの幽世の世界では、争う必要も無いのです”
毅然の態度で取る彼女に、私達は席に着くしかなかった。
”飲み物は如何かね?”
”いえ、ご遠慮致します。むしろ、魂だけの者にそんな概念があるとは思えないので”
”意外と思考が堅いな。だが、それが貴殿の本質なのだろう”
エカテリーナは依然として落ち着いた様子で語りながら、いつの間にか用意されていた紅茶を飲み、静かにカップをソーサーに置いた。
それと同時に、彼女の後ろから物凄い振動が響き、カップの中に淹れられた紅茶が波打つどころかテーブルその物が揺れていた。
”今日の我が
”友?それはもしや…”
”そう、貴殿等がよく言っている「幽世より至りし者にして、赤き地平より参りし者」の事だ。私は彼を
”なるほど。だから、貴方も不死者だったのか…そして、
”そう。私は
ローレライ公爵家の中にあった歴史物語にすら書かれていない真実を、彼女自身が語ったというのは…恐らく本物であろう。
むしろ、聖女認定にされた紛い物の男爵令嬢に、配下に勇者とは…どれだけ稚拙な三流作家が描いた物語なんだ。
”そして、友人が語ってくれた。この世界を作ったのは、神ではなく人間の稚拙な妄想が集合して生み出された意思を持った「混沌」が招いたものだと。その混沌の性格と言うのが、貴殿達でもあの男の性格を見たらこういうだろう…「糞喰らえ」と”
”それほど、性悪なのですか?”
”ええ。現に、貴殿の隣に居る少女…貴殿の主の姉であるシスティア嬢は奴の脚本通りなら、どうあがいても死ぬ存在であった。この幽世の地で何度も見させて貰っているからね…”
”やっぱり、私は死ぬ運命だったのですね…”
”それだけじゃない。ローレライ家の人間、関わる従者全て、死は免れない…彼女を
”それが、あの夢で貴方とエメルダ様が対峙する結果に…”
”彼女もまた、私と同じく世界に
”しかし何故、未来の事が分かるのですか?”
単刀直入に、この方は未来先の事を知っているのか…
同じく転生者としての知識なのか?それとも…
”言ったはずです。私はこの100年を「何度もやり直している」と”
戦慄が走った。
この方は何度もこの”悪夢を繰り返してる”のだ。
それも、数え切れないほど。
”私の前世の世界に居たフリードリヒ・ニーチェという哲学者は言った、「
”そ、そんな…そんなのって…”
”そんな理論が有るなら、悪意のある者が構築し続ける場合は…”
私とティアは悟った。
この世界は、悪意を持った
”何度も思ったはずよ。この国の100年前より以前の歴史を語り継ぐ者、語り継げる本もなく、他国の歴史も曖昧。ゆえに、作られた世界ということに”
その事を知ったティアは、静かに顔を手で覆って泣き…私は拳を握って怒りに満ちた。
しかし…次の一言でまた変わった…
”だからこそ、私はこの世界を
”ふざけるな。何がもう一度だ。貴方はただの破壊者だ。…確かに、貴方やエメルダ様、そしてアンリの主役を含めた主役と悪役に無作為で選ばれ、世界の歯車として動き続けた境遇や逃げ出したい気持ちは分かる。しかし、脇役や無関係の人間を巻き込んで破壊を望んだりはしない!”
”貴殿や彼らもまた、同じ無作為で拾われ、偽りの配役で動き続けたとしても…ですか?”
”ええ。一度死しても、魂は生きているのだから!!”
そう言って、私は腰元にあった剣で構えた。
同時に見かねた黒騎士もまた、前に出て剣を抜こうとしたが…エカテリーナは手を上げて制止した。
”やはり、どんなに語り合っても私の
”セレニアちゃんと同じく、私達の魂は生きています…世界を壊し、全てを壊そうと望む人など…!”
”残念だ…だが、良い輝きだ。友よ、これが信念という渇望に満ちた人の魂だ…”
エカテリーナは、満足そうな笑みを浮かべながら静かに笑い始めた時、重圧を感じた。
それと共に、エカテリーナの後ろから異形の人型が立っていた。
”如何かな?
”悪くは無い。わ主が選んだ娘達だ。実に
悪魔は私達を見た後、もう一度後ろを振り返った。
その悪魔の様子に、エカテリーナは問いかけていた
”奴はどうした?”
”逃した。あやつはしつこい物だ。真なる肉と骨を得ない限り、倒すのは不可能”
”思念体という物はそういうことだろう…彼らと共に帰るとしよう”
”次こそは、我とあやつを現世に呼び起こす事を信じよう。我が友よ”
”同感だ”
彼女がそういい終えた瞬間、私とティアは宙に浮いていく感触に囚われた。
”次の黄昏の時に大いに語ろう…首無しの白騎士”
”ま、待て!まだ話がっ!!”
”きゃああっ!!”
ティアの悲鳴を最後に、私達の意識は途切れてしまった…
―――――――――――――――――――――
二人の客人が居なくなった狭間で、エカテリーナと悪魔はテーブルに座っていた。
”奴はなんと言っていた?友よ”
”白痴の娘による策謀よって騙される男により引き起こされる歪な人間同士の争いが実に滑稽…との事だ”
”面白い、何時までも胡坐を掻きながら笑い続けてると言う事か…人間を舐めるな。あの軟体異形が”
”同感だ。だが、わ主等の渇望のぶつかり合いは、我から見ても面白いと思う”
”それは力がある者同士だ。友よ。あの白騎士とその主は力を持つに値する魂の輝きがある。それは、誰よりも私が知っている。だからこそ、ワザとたきつけさせる様に見せて、対峙するとその時を楽しみにしているのだよ”
”なるほど…”
”それに…貴殿と私だけでは、この既知感からの乾きを潤す事は出来まい。そうであろう?”
”然り。完成された悪魔では限度がある”
”ならばこそ、不完全な人間による足掻きを見せようではないか。では、行きましょう…私の黒騎士”
”御意”
エカテリーナは残っていた紅茶を飲み干し、カップを置いた瞬間に黒騎士と共に現世へ舞い戻っていった…
”真に…人間と言うものは分からんものだな。
悪魔はひっそりと呟いた後、エカテリーナ達がいたテーブルを元の光に変え、自身もまた身体を揺らいで消えていった…
―――――――――――――――――――――
あの幽世の世界から意識が戻った時は、朝であった…
「…夢ではないのか」
私はそう呟きながら、隣で心配そうな顔をしながら寝息を立てるティアの頭を撫でた後、彼女が起きるまで横になってゆっくりする事にした…
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