第21話 尋問と”操り人形”

あの後、駆けつけたヘイソンさんに事情を説明し、邸の中に戻った私は…先程不死者として目覚めたばかりライラ様とヘンリエッタ様と共に、地下室にてエメルダ様とティアと話し合っていた。


「なるほどね…予想よりも目覚めていなかったのね」

「はい。恐らくは、精神的に未熟であったのかと」


そう言って、私は吸血鬼になった二人による魔力で作られた手の平サイズの魔石の中で、未だに苦しみ続ける愚弟ヨハン愚妹シンシアの姿を見た。


血晶石と呼んでいるこの魔石の中にあの愚かな二人を閉じ込め、血を吸われ続ける拷問を与えてる。

それほど、ライラ様とヘンリエッタ様の二人がお怒りなのだ。


「して、ライラ様」

「そんなに畏まらなくて良いです、セド。今日から私はただのライラとして生きていきます」

「同じく、私ヘンリエッタもです」

「承知。では…ライラ、ヘンリエッタ。この二人から、他に何か聞きだせましたか」


その私の問いに、二人は少し難しい顔をしてから答えてきた。


「”自分達は選ばれた勇者なのだ…”」

「”本来なら脇役モブの癖に、なんであんなに強いのよ”…とずっと繰り返してるだけでしたね」

「あの方というのが何者なのかは、出なかったのですね?」

『はい…』


どうやら、名乗りも上げない混沌かみからの恩恵を受けた気分で暴れていたのか…

なら、エメルダ様の言う”ちーと”ではないかもしれない。


「しかし、困りましたわ」

「何がですか?」

「以前の記憶では、この二人もあの動乱の中でライラとヘンリエッタと戦っていたわ。勿論、教皇エカテリーナ側の白騎士アルベドと共に乱戦していたわ」

「…?私以外にも白騎士と呼んでいたのがいたのですか?」

「ええ…でも、今回の時間軸には居ないわ。どういうことかしら…」


その言葉に、私とティアは首を傾げたのだが…ライラとヘンリエッタの二人は思い当たる事があったらしい。


「その事についてですが…私達の独自で調べた結果、既に死亡している事が判明しました」

「と言うと…?」

「予め貴族籍を調べましても、私生児の可能性の線を含め…死産以外は残っておりませんでした」


ライラの報告に、エメルダ様は少し考えていた…

私からもすると、もしかすると色々と変わっているかもしれない…


「もしかすると、パラドックスが起きているかもしれない」

「パラドックス?」

「そう、パラドックス。言葉を変えれば逆説ね。本来の事実から反する説が、何らかの要因によって正論の説になってしまい、事実になってしまった可能性の事ね…ライラ、ヘンリエッタ。現在の転生者はどのくらい居る?」


エメルダ様の問いに二人はメモ紙を取り出し、エメルダ様に差し出した。

紙に書かれた内容をエメルダ様が読まれた後、渋い顔をされていった…


「死んだ主要人物を含めて、殆どが転生者になりつつあったのね…」

「ですが、今回のこの二人みたいな中途半端な加護付き転生者になるのは極めて稀ですかと…」

「はぁ…個々まで来ると原作知っている私の予測は不可能になるわ」


確かに、エメルダ様やアンリの予測を超えた出来事が起きている以上、もはや予知夢の結末から離れてしまっているようだ…


今後は、警戒しながら日々を過ごさないといけない…





―――――――――――――――――――――






その頃、深夜の郊外にて…


「アンリ…こんな夜更けに何を考えているのだ?」

「しっ…!こんな夜じゃなければいけないのよ…!」


アーサーとアンリは密かに馬に乗り、護衛も付けずに街道を進んでいた。

アンリ自身が、本来のゲームの道筋とは違う流れに疑問を持つあまり、そもそもの原因である脇役モブであったセレニアを処刑してから全てが狂ってしまったと考えた。

それに、セレニア処刑後にエメルダの傍に現れた男装の従者の正体に違和感を覚えていたのだ。


もしかすると、エメルダを含めたローレライ家全員を、死んだセレニアに何らかの細工をしており、それを暴けば断罪できるのではないか?

だが、正直に言えば、今更エメルダを断罪した所で何も変わるわけが無いが、死んだラインハルトを含めた逆ハーレムイベントを、台無しにしてくれた憂さ晴らしになる意味で、どうしても暴きたかった。


「最近だと、ジェラールも行方不明になったんだし…このゲームのイベントを台無しになったのは、あの脇役を処刑してからなのよ。絶対に暴き出して、一家や従者全員処刑してやるわ…!!」

『だけどよぅ美香。これ以上行動しなくても良いんじゃね?じゃないと、俺達いつ死ぬか分からなくなるぜ?』

『うっさいわね!たかし!!これはあたしの憂さ晴らしなのよ!!そもそも、あんたまで転生していたことでもこのゲームの世界が狂っているのよ。というより、まさかラインハルト様が私をストーカーしていたキモメン憲光のりみつだったなんて…ああ!気色悪いったらありしない!!』

『まぁ、あのイケメンチート兄貴が、俺と美香をぶっ刺して逃げたストーカー憲光だったとはなぁ…』

『しかも、エメルダの事を死んだ私だと勘違いしていたし、本当に迷惑だわ!!ああ、リセットしたいわ…』

『落ちつけよ美香。まぁ、俺も死んだリチャードとかでエメルダを断罪したいけどさぁ…あの真面目男女なセレニアの死体を暴きに行くのは御免なんだけどな…』

『あっそ。なら、ここで帰る?私が殺されても知らないよ?』

『ごめんごめん。そう機嫌悪くするなよ…あとで、お前の言う通りに演じながら可愛がってやるから…』

『はっ。精々そのイケメン王子アーサーを演じてなさい』


途中からアンリとアーサーは、中身を前世であった福島美香と古庄隆の状態で会話しながら、セレニアの死体が安置している礼拝堂へと向かっていった。




しかし、二人が礼拝堂に辿り付いた時…二人は予想外の光景が広がっていた…


『な、なんでこうなるのよ…』

『お、俺だって聞きたいよ…!!』


アンリ福島美香アーサー古庄隆が見たのは…全体的に炎に包まれて燃え盛る礼拝堂の姿であった…



その燃える礼拝堂の前に、黒騎士と赤い全身鎧を着た騎士が立っていた。


「奴を燻り出す準備は出来たな」

「ああ、あとは焼け落ちたここの地下に、彼女達が調べに来るだけだ」


二人の騎士の行動に、アンリとアーサーは声を荒げた。


「ちょっとあんた達!何燃やしてるわけ!?」

「お、お前達!ここはセントレア国管轄の建物だぞ!!」


二人の怒声に気付いた騎士二人は、慌てる様子もなく振り向いてきた。


「…混沌の人形マリオネッテか」

「こんな奴らが、混沌が作りし箱庭を縦横無尽に行動をしていたからな」

「どうする?燃やすか?」

「いや、ここでこいつ等を相手し、誤って殺せば再構築リセットされる。前回までの白騎士アルベドが決まっておらぬし、放って置け」

「ふん、運が良い奴等め…」


女の声を出す赤騎士ルベドは、目の前の二人を台詞を吐き捨てながら両手から湧き出る炎を自分達に放ち、炎と共に姿を消した…


後に残された二人は、ただ茫然と燃え続ける礼拝堂を見続けるしかなかった…





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