第9話 不正の改ざんと”教皇”
校舎内にある生徒会室にて、保管してある経理帳簿を私達四人全員で手分けして調べていたが…
「駄目です。殆どの帳簿記録が改ざんされています」
「それどころか、一部期間の帳簿が抜き取られてます…」
「なんて事なの…」
学校の生徒会における活動費などの経理が全部数字が改ざんされており、その殆どが用途不明で流れが不透明になっていた。
それだけではなく、私の断罪されていたとされる経理帳簿などは、その帳簿の紙ごと引き千切られた痕跡があり、抜き取られて処分された可能性があった。
「だから言いましたでしょ!?異端尋問員の騎士達も来て、僕達が納める経理帳簿をごっそり持っていかれても証拠が見つからないと言ったんだし…!!」
「貴方は黙ってなさい!…これじゃあ、私どころか他の貴族令嬢に対しても、幾らでも断罪し放題だわ」
エメルダ様の言う通り、こんな経理改ざん状況なら責任転換は幾らでも出来る。
特に、エメルダ様が在任中にやったといえば、それだけでなすりつけられるからだ…
ただ、今回ばかりは、そうはいかないだろう…
「…生徒会役員全員に言います。本日を持って全役員を執行停止、以後改ざんが修正されるまでは生徒会その物を機能停止します」
エメルダ様のその言葉に、生徒会の令息令嬢の生徒達からどよめきが立った。
「そんなぁ!?じゃあ、文化祭とか校内パーティーは!?」
「そんなものしてる状況では御座いません。今回の件により、生徒の行事の決定権は教師達に一時委任。無論、在籍している全生徒には連帯責任を取って貰い、万が一改ざん分の不正金額があれば…親である各ご領主様に返還請求を致しましょう。異端尋問会に行くならば…」
その最後の一声を聞いた生徒達は全員沈黙をし、私とエメルダ様達が去った後も凝視し続けていた…
幸い、例のアンリとアーサー殿下が登校していないだけ、マシであったが…
その後は、学校の校長と理事長と対面して学校の運営帳簿も拝借し、四人で調べていた…
「こちらも異端尋問会が調べられました?」
「はい、そうですね…ここにあるのは写しでございまして、本物は全て尋問会へ持って行かれました…」
「そうですか…」
向こうが先に持って行かれたとなるならば、既に結論は決まっていた。
こちらも改ざんもしくは証拠隠滅されていると…
「校長」
「は、はい…なんでしょうか?ローレライ公爵嬢」
「帳簿の不正が改善するまでは、我が公爵家は学校に対して納付致しません。もし、これを不服とし、我が家に報復するのであれば、この学校全体を横領の巣窟として異端尋問で裁判致します」
その言葉に、校長と理事長は頭を下げて従う以外なかった。
恐らく、この二人も横領の見返りに賄賂を受け取っていたに違いない。
…我々の師でありながら、情けない。
結局、この日は収穫無しのままで学校を去る事になった。
「良いのですか?このままで」
「構わないわ。それに、乱れた風紀が異端尋問会が来た事で元の学校に戻りますでしょう。アーサー殿下とアンリが帰ってこなければ」
確かに、あの二人が帰ってこなければ安泰であった。
なお、取り巻きの令息の二人…ライラ様とヘンリエッタ様の元婚約者も今回の異端尋問会の介入があってひたすら沈黙をしていた。
不貞は働いてはいなかったものの、アンリに対してアプローチしていたのと、正教にて交わした婚約を破棄してる時点で、当分は監視対象に入るであろう。
その事については、ライラ様とヘンリエッタ様のお二人はご満悦にされていた。
一方、迎えに来られたセバスさんの話では、王族と貴族領主の会議は碌な物ではなかったと、ゼネテス公爵様からお話を聞いたそうだ。
この数日は、私の…生前のセレニア・ボローニャ伯爵令嬢の断罪処刑に関する不正の議論はなくなり、各領主からの税収の滞りに対して、領民に更なる課税をして絞ろうかと言う議論ばかりであった。
その上、王族との社交パーティーの質を落とさないように如何にどうするかの議論ばかりであった。
無論、領民を守る側を主張するゼネテス公爵様の正教支持派は反対されていたが、王族支持側の貴族は聞く耳を持たぬばかりであった。
それどころか、公爵様を支持する正教に対し、王族と王族支持側の貴族が正教の権限剥奪を主張してきた。
特に、つい先程…駄犬以下の我が愚兄リチャード・ボローニャに連行された事に、愚父のクラウス・ボローニャ伯爵は激怒し、我が子を連れ戻そうとお気に入りの騎士達を大聖堂まで派兵したらしい。
血が繋がっているとはいえ、何処まで愚かしいのだ…あの父親は。
「それどころでは御座いません。王族支持派の貴族達は正教の教会に対し嫌がらせを行っておるなどしております」
「自分達の国教を個々まで潰そうとするのは…前世の日本を思い出しますね」
馬車に揺られながら、エメルダ様は溜め息混じりで愚痴を言われた…
エメルダ様の言う日本とは…遥か東方の国ジパングと呼ばれる辺境の島国とあるが、その国の数百年後の未来では、宗教は自由とされるが…
先程も脳裏で考えていたが、若い世代は毛嫌いして排除しようするものがおれば、中には古い世代でも宗教どころか思想すらも統一し、それ以外は否定すると言う赤い労働者一派もいたそうだ。
その考えを持つ一派の先駆けは、その時代から百年前に起きたとある某国の王族に対し、農奴や下層労働者達が武器を構えて革命を起こして王族を滅ぼし、自分達の平等思想以外の宗教などを排斥して独裁に走ったとか…
はっきり言えば、このセントレア国の100年以上前に起きた腐敗した貴族の領主達が領民の謀反により一族郎党滅ぼされたという小戦争が起きた事があった。
しかし、その当時は王族による絶対的支配にあった為、反旗を起こした領民一派は全て処刑されたが…継承権第一位であった第一王女が王族の愚行に嘆き怒り、継承権を捨て、その時代では権限が弱かった正教の教皇と結婚をし、王族との同等の権限を持たせる事に成功された。
「アーカム国みたいな絶対王政などの権力の一極集中を防ぐ為に、正教側に力を入れたと思いますね…」
「ええ。ですが、あの小娘で流れが変わってきてますね。それに…」
「それに?」
「正教側も力付け過ぎても行けないという本音もあります…」
エメルダ様のその言葉に、私は沈黙するしかなかった…
―――――――――――――――――――――
セントレア国の王都中央部に設置されている大聖堂…
その大聖堂の地下礼拝堂にて、黒騎士はゆっくりと歩んでいき、祭壇の前で祈りを捧げている女性の前で跪いた。
「只今戻りました。教皇様」
黒騎士の言葉に、女性の教皇はゆっくりと振り返り、黒騎士の方へと眼差しを向けた。
「お帰りなさい、私の
「はっ。亡きセレニア嬢の断罪不正に関する証拠物は、校舎内のあらゆる書類を押収を試みましたが、既に隠滅済みであり、集めるには不十分でございました」
「そう…」
「それと、今日の尋問会の裁決にて処遇されたカタリナ嬢の件により、リチャード・ボローニャを拘束し、今は尋問会の取調べを受けている最中で御座います」
「宜しい。代々のボローニャ家の男は女に対し不貞を働く事が多く、今は亡き先代伯爵テオドア・ボローニャ様以外は正教の教義において重罪に値する男ばかりです」
教皇はハッキリと告げながら、ゆっくりと両手を組みながら祈りを捧げた…
「しかし…そんなボローニャ家の中で純潔を守り、第三王子アーサー殿下との婚約を待つばかりの娘であったセレニア嬢を、王族側が作り上げた無実の罪と我が正教における背教者によって、貴方の刃で処断させてしまった。これは我ら正教の罪で御座います」
「真に、その事に付いては自分も恥じております」
黒騎士は自分の過ちに不甲斐無く悟り、鉄仮面を外して首に巻かれた包帯を外した…
彼の首にも、斬首されて胴体から離れた痕跡と、離れた頭を固定する為の縫合がされていた…
「…100年前の王族が犯した過ちが、また繰り返されるのでしょうか?」
「分かりませぬ。だが、我ら
「その物語の為に、新たに斬首された娘がいた事に、私達はその罪を背負わねばなりません」
「その娘の事でございますが…教皇様」
懺悔を送る教皇に、黒騎士は更に口を開いた。
「亡きセレニア嬢は、我らと同じ幽世の住人となり、現世に舞い戻って来ました」
「まぁ…これも
「あるいは、自分と同じ信念に、赤き地平より参りし者に認められて導かれたか…です。今ではローレライ公爵家のエメルダ嬢を守護する
黒騎士のその言葉に、教皇は静かに祭壇へと身体を向け、嘆きながら懺悔した。
「赤き地平より参りし
「…如何なされますか?復讐目的の為に血を浴びて赤騎士になるなと忠告は致しましたが」
懺悔を終えた教皇は再び黒騎士の方へ向き直り、冷静に告げた。
「今は静観をなさい。そして、我ら正教を邪教とする愚者達が攻めて来るならば、剣を持ちて払いなさい」
「仰せのままに。我が主、教皇様…いえ、先々代の元第一王女エカテリーナ様」
黒騎士の忠誠に、現教皇エカテリーナは黒騎士に祝福の洗礼を与える為に手を差し出し、黒騎士は洗礼を受けていた…
その教皇の手の肌は、まるで死人のように青白く染まっていた…
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