第31話 儀式と混沌
王城内は謎の生物で覆いつくされたと言える位に、脈動を打っていた…
まるで、城全体が一つの生き物みたいに…
…数ヶ月前、パーティーを開いていて、人が暮していた場所が嘘みたいな光景だ
「気をつけろ、死神。湧き出るぞ」
「ああ!」
壁から謎の触手と融合した人間の死体を、私は切りながら進み続けた。
元から魂の消えた器なのか、切れば切るほど動きを停止した後、解けて消えていった…
「実に不快…わ主もかなり来ているのは理解出来る」
「アンリと王子は何処だ?」
「どうやら、王座に居る。そこで何かしらの儀式が…ぅ!?」
「どうした?」
「傀儡であった王…いや、先王の生命が消えた。次の王となる奴と混沌の手によって…」
「どういう事だ…?」
「行けば分かる。もうすぐ目の前だ」
悪魔の言葉通り、私は蠢く床を走って王座を目指した。
王座の間に辿りつき、剣を扉に叩きつけて開けるや…そこはおぞましき光景が広がっていた。
壁中に謎の肉壁で覆われてる上で、肉の檻と呼べる中にアーサーとアンリの姿があった。
そして、その先の王座にて、椅子を変わりに生贄の台座みたいな物に、国王の亡骸が置かれていた。
無論、その狂気に満ちた儀式を行っていた犯人も、そこにいた…
「ラインハルト殿下…混沌を呼び寄せようとしたのは貴方だったのですね」
かつて、このセントレア国の王位継承第一位であった第二王子ラインハルト殿下が、あられもない姿でブツブツと小言を続けていた。
「お、おい!そこの貴様!早く私達を助けたまえ!!」
「そ、そうです!早く助けてください!!」
と、ラインハルトの前に、この二人をどうにかしないと。
その前に、亡き”元婚約者”だと言うのに、顔も分からないとは…
蘇って以降、今まで二人の前では素顔を晒した事が無かった私は仮面を外した。
「やれやれ…元婚約者と好敵手の声と顔を忘れるとは、よっぽど頭の中が花畑であったな」
「おっ、お前は…セレニア!?」
「嘘ッ!?お化け!?なんで!!?」
流石のこの騒ぎっぷりには少しうんざりするが…ここで死なれても困る。
とりあえず、私は肉の檻の柵を光の剣で薙ぎ払い、二人を脱出させた。
「そんな事はどうでも良い。元はと言えば、貴様等は目の前の男…ラインハルト殿下の中に居る何者かの生贄の為に生かされたに他ならない。その生贄の儀式を妨害しに来て、貴様等に償わせる為に個々に参ったまでだ。我が主、エメルダ様の為に」
「嘘よ…私達を殺しに来たのでしょ!!」
檻から出てきて喚くアンリに、あの時
張倒された衝撃なのか、城内が響くほどの叩いた音が鳴り響いた。
「なっ…!?」
「笑わせるなよ、この甘ったれがっ!!死ねば楽になる?簡単に罪が賞賛できる?そう思ってからそんな言葉出ているんだろ!!貴様等の狂った物語の主役どもの所為で、どれだけの国の人間、どれだけの脇役が被害を受けたと思っているんだ!!楽に死ねると思うな!貴様等二人は、私達以外の人間に詫びなければならないのだ!!混沌と繋がりしあの男を増徴させ、この無間地獄と呼べる
胸の中で溜まっていた物全てをアンリにぶつけた。
本当、自分達の身勝手でこれ以上何度もやり直しされるのは嫌だった。
漸く、100年前の私の記憶も戻り、本当の真実を知った上で、もう一度一からやり直しなどやりたくもない。
こんな地獄、あってはならないものだ…
本人達にとっては悪い夢だと思って簡単に思えるが、巻き込まれる側は堪った物ではない。
その終わりの無い悪夢の劇を永遠と繰り返されるのだから…
「な、何よ…あんたに何が分かるっての…前世で惨めに生きた事も無い人間だったくせに!!」
「ああ。分からんさ…だが、守るべきものを失った気持ちなら分かる。貴様にも有るだろ?己が守ってくれた男を目の前で刺し殺され、自分も殺された事を」
私が”死神”として知りえた二人の前世の最後を暴露した時、アンリとアーサーは目を見開いた。
「何故…それを知っているの?」
「既に私は本当の意味での
そう言いながら、私は
「無くした物は戻らない…悪魔はそれを誰よりも知っていた。神ですらも先に知っていた。それゆえに、一瞬の時を誰よりも愛し、見届けてきた。二度に渡る亡き友の本当の死を見取って…そうだろ?悪魔よ…」
「然り。…死神よ。永遠に終わらぬ悪夢の理、これほどおぞましき物はない。肉を喰らい、魂を弄び、何度も繰り返し続ける…前の世界を全てを破壊して無くし、そこで暮していた人間達を自分の思い描く為に作り上げるこの諸行。
「分かるさ…お前が見せてくれたこの奇劇の幕引きであった悪夢を何度も見せられるものは無い。何度も首を切られ、蘇り、そして討たれ、闇に消える…。そう言う風に脚本を変えようとした所、悪魔に気付かれ、その上”
その時、ラインハルト殿下は独り言を止め、私達の方へと視線を向けて口を開いてきた…
その顔は、かつての美貌で勇敢な王子の威厳はなく、瑞穂らしく憐れな黒魔術師みたいに病んでいた…
「さっきから煩いと思えば…エメルダの子飼が来たか」
「随分とやつれて仰るな。危険な薬でも使われたのですかね?」
「誰に口を聴いている。僕は王国の王子だぞ。お前の様な身分の分からん下賎な輩が口を利いて言い訳が無い」
「それが、目の前がセレニア・ボローニャ伯爵令嬢の亡霊であってもですか?」
「逆賊に用は無いなぁ…早くエメルダを寄越せ…そこの糞売女や愚弟など要らんわ…ケヒ、ケヒヒ…」
…どうやら、あの時の服毒死は演技であったが、逃避の為に飲んでいた薬は劇薬であったのだろう。
恐らく、
「…エメルダ様の中身の人物、貴方の探してる人物ではないと断言したら、どうされますか?」
「嘘だぁ!エメルダこそが”美香”だ!!僕の知っている”美香”だぁ」
「残念ながら、貴方の知っている”福原美香”ではない。そこにいるアンリ男爵令嬢こそが、貴方の探している”福原美香”だ」
「口の利き方に気をつけろぉぉぉぉ!!僕は王族だぁ!!
ラインハルト殿下…いや、ラインハルトだった男は錯乱しながら、禍々しい本を手に取りながら筆を持って書こうとする前に、私は光の剣でラインハルトごと切り裂いた。
「ぎぃひぃ!?そ、その力は…!?」
「これで、お前が愚かしい物語を書く事は出来ない。本来のあるべき姿に戻させて貰おう」
再び私が切りかかろうとした時、ラインハルトは台座の方へと近付き、口を開いてきた。
「こ、こうなったら道連れだ…お前達…いや、この国ごとに生贄にして神様を降ろしてやる!!リセットしてやるぅ!!」
「待て!ラインハルト!!」
その儀式をしても、回帰などが行われず、無駄に終わるだけだ。
流石にこれ以上の手間を避けたかったが、既に遅かった。
私がすぐさま光の剣を展開し、奴を切ろうとしたが…私だけの力では奴の纏った結界を切り裂く事が出来なかった。
「”赤キ地平ヨリ至リシ幽世ノ門ヨ。我、血ノ分ケタ王ノ魂ヲ対価ニ、ソノ門ヲ開カン。顕現セヨ!幽世ノ神!!”」
国王の亡骸と魂を生贄に、ラインハルトは魔方陣を展開させ、無理やりに幽世の門を開いてきた。
だが…こちらとして切り札を用意していた。
「来たか…」
玉座の後ろから二重の爆炎が起こり、魔方陣の中心にあった王の亡骸を魂ごと燃やし尽くした。
「なっ…!?貴様等は!?」
ラインハルトは驚愕した顔をし、後ろからやって来た二人の人物へと目線を向けた。
「残念だったな。ラインハルト殿下」
「全くですわー。私を殺したときみたいに誤算だらけですねー」
赤騎士ボレアスと、同じく赤い甲冑を纏ったティアの二人が燃え尽きた玉座を踏みながらこちらにやってきた。
「遅かったじゃないですか。ボレアス、ティア」
「ふん。貴様としては随分と事が進んでいたが、詰めが甘いな。”ランスロット”」
「ちょっとー、セドを前世の名前で呼んではいけないですよー。先生ー」
「黙れ馬鹿弟子。それよりも…」
赤騎士はそう言いながら、フラフラと立つラインハルトに睨みつけていった。
「貴様は…ボレアス!?貴様が、何故、ここに…ふざけるなぁぁぁぁぁ!!おんどりゃあああああああ!!また100年前と同じく邪魔するのかぁぁぁ!!憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ラインハルトは絶叫上げながらフラフラと歩き始めたので、私はアンリとアーサーを方に向かってくるかと思い剣を構えたのだが…奴は自ら魔方陣へと歩き始めた。
それに気付いた悪魔は…
「いかん!早く奴の足を止めろ!!」
と声を上げたのだが…既に遅かった。
そして…
「”わ主の願い…しかと聞き届けた…”」
悪魔とは別の…二度目の幽世の世界から去る時に聞いた、あの奇怪で歪な声の主が魔方陣から発し、無数の触手と瘴気を放ちながら、異形の者が顕現した。
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