第4話 再会

まさか、いきなりご本人が目の前で立っている事に、私の頭は凍結してしまった。


無理も無い、向こうは死人が勝手に蘇ってきたのだと。

そして、私の方はいきなり再開した事に驚きを隠せなかった。


と、とりあえず…


「え、エメルダ様…おはようございます」


私が言葉を発した瞬間、エメルダ様は気絶して倒れてしまった…





数分後。

気を取り直してくれたのか、エメルダ様は再び起きて、私と対面していた。


「そ、そう…生き返ったのですね」

「厳密には、不死者でありますから…」


こればかりは仕方ない。

ここは死人が安息で眠る神聖な場所。

死人が目覚めてはいけない場所であった。


それはともかく…


「エメルダ様。何故このような場所でお一人に?」


と、私が問いかけた時、エメルダ様は私の手を握って泣き始められた…


「良かった…!二度と謝れないと思って…」

「エメルダ様…下々に涙を流す事はお止めください。貴方は高貴な身分の方、おいそれと涙を流してはいけません」

「う、うん…恥ずかしい所お見せしてすみません。セレニア様…」

「呼び捨てで構いません。今の私は、死人。貴族の籍から外れた平民です。…と申しても、淑女として教育されてる身としては、酷で御座いましたね」



公爵家、侯爵家、伯爵家あたりでは、例え相手の身分が低くても女性は敬意を称しなければならないと、淑女としてのマナーを叩き込まれている。

ゆえに、下々だから呼び捨てにしろなんて言う事は、貴族の令嬢として品のない行動だとされている。


さて…それはともかく、何故一人でここまで来られたのか…



その後は、精神的に落ち着かれたエメルダ様が、冷静にお話してくださった。


処刑直後の私の遺体は、数日間は野ざらしで放置される予定であったが…

エメルダ様ご自身が貴族としての権限と、国賊アンリに毒された王族と取り巻きの貴族達に”貴族としての品位を欠く愚か者”と釘を刺した事により、私はこの郊外の礼拝堂に収められる事になった。


その時のアンリの顔は凄い剣幕だったらしいが、直ぐに怯える小兎の顔に戻したらしい。


その後は、私の霊を鎮めると言う理由で何度も此方に足を運び、祈りを捧げるという行事を一人で行い続けていたらしい。

本当に、申し訳ありません…


「しかし、私が蘇ったという事が広まれば、忽ち立場が悪くなりますでしょう…」

「それならば、考えが御座います」


エメルダ様はそう言われ、私に提案を話され…私もまたそれに了承し、行動を開始した。





二度目の…不死者としての生を受けて地上に出た時、外は雨が降っていた。

従者である侍女達がエメルダ様の傍まで近付き、傘を差してきた。


「エメルダ様。お風邪を引かれる前に此方…この方は?」


ボロボロのローブで頭を隠し、包帯で顔中グルグル巻きにされた私の姿を見た侍女達は思わず身を引いたが…


エメルダ様の一声で終わった。


「ご安心ください。この方は身寄りの無い方ですが、死んだセレニア様を祈りを捧げていた信仰深いお方です。私の家で丁重持て成し致します」

「しかし…公爵家として有るまじき…『それとも、私の言う事が聞けませんの?』いえ、失礼致しました」


流石、エメルダ様…物語の悪女らしい演技を行い、従者を言う事聞かせた。

あとで、感謝をせねば…

ひとまず、私はエメルダ様の馬車に乗り込み、共に礼拝堂から離れていった…


私の遺体が、無くなるという事実を消した上で…




先程、エメルダ様の提案の下、私は死後もつけていた貴族のドレスと宝石類を全部脱ぎ、同じ首切断されている身元が分からない女性の遺体にドレスを着せ、ドレスの代わりにその女性が纏っていた衣服とローブを拝借し、他の遺体からも包帯など拝借して顔を隠した。


安直ではあるが、ある程度ならば大丈夫であろう…

それに、エメルダ様には公爵令嬢という特権がある。

逆らえば、どうなるかというのも従者達に理解している…



”これから、どうされますか?”


声を発して、バレテはいけないので…私は小さな紙で筆談で話す事にした。

無論、エメルダ様の次の考えまでは…


「とりあえず、貴方に部屋を与えねば…ともかく、これからは従者として宜しく。”セド”」



セド。

それが、私とエメルダ様の間以外で使う事になった名前。

その名前で呼ばれた私は、粗末な糸で身体と首を繋いだ頭で素直に頷き、ひたすら沈黙をしていた…





アンリを含む物語乙女ゲームの主役が動くまで…







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