第7話 決着

「むぐーっ!むぐーっ!」


学園長室に入ると学園長がロープでしばられて寝ていた。


「学園長っ?!」


騎士の男が駆け寄って学園長の拘束を解いた。


それから学園長は話し出した。


「や、やばいぞ!」


全員の視線が学園長に注がれた。


「アークの奴が裏切りやがった!」


今までに見せたことない口調でそんなことを口にする学園長。

俺たちは顔を見合せて学園長から細かく話を聞くことにする。


すると事件の全容が見えてくる事になった。


「私がいつも通りファイルの整理をしていたらだな。アークが急に私をロープで拘束して、『禁断の書』を持ち去った!」

「禁断の書?」


俺は学園長に聞いてみた。


「あぁ、そうだ!『禁断の書』だ!あいつあれを持って魔帝大陸に向かうつもりだ!」



(魔帝大陸。魔帝という存在が支配する大陸だったな。原作では行くことがなかったけど)


そういう大陸があるのは知っている。


「あいつは『禁断の書』を使って魔帝の封印を解くつもりだ!やばい、やばいぞ手を貸してくれレイン」


そう言いながら学園長は俺の手を引いて部屋を出ていく。


「ナイト。車の手配をせよ」

「御意」


騎士風の男はナイトというらしい。


ナイトはスマホを取りだしてどこかに電話をする。

そしてしばらく待っていると校庭に車が現れた。


「乗り込めレイン。時間が無い」


扉を開けて素早く俺は車に乗りこんだ。


(初めてだな、この世界の車に乗るの)


ナイトは運転席に座りエンジンをかけていた。


「飛ばしますよ。ふたりとも。しっかり捕まっていてください」

「ええぃ!早く出せぃ!」


学園長がそう言った時勢いよくアクセルペダルを踏みこんだナイト。


ブォンと車が浮かんで空に向かって飛んでいく。


(おぉ……車も異世界仕様なのか)


そんなことを思いながら車に乗っていると数分で目的地に着いたようで車は着陸した。

目的地は砂浜だった。


近くにはもう1台車が置いてあった。

誰かが乗り捨てたようだが、その誰かは今の流れで言うならアークだろうな。


そして視界の先の海の上には一隻の船。

既にかなり遠くにあった。


「くそ!遅かったか!あんなに距離があるのでは手が出せない!」


ダン!


学園長が四つん這いになって拳で砂浜を殴っていた。


それほど状況は緊迫しているようだな。


「魔帝が甦ればこの世界は終わる……」

「それは大変だな」


俺はそう言いながら左手を前に突き出して。


ブォン。

弓を作り出した。


そして構えながら右手には弓矢を作る。


その様子を見て学園長は聞いてきた。


「な、何をするつもりだ?レイン」

「分からないか?あの船を撃ち落とす」


ギリギリと弓を引き絞る。


「な、何メートル離れてると思ってるんだ?!この距離からあんな小さな船を狙うのか?!出来るわけが」

「ちっちっちっ」


そう言って俺はクイッと弓矢の先端を水平から空に向けた。


「俺の名前がなんでレインなのかを知ってるか?」

「な、なぜなんだ?なにか由来があるのか?」


俺は笑って口を開く。


血の雨ブラッディレインを降らせたからだよ」

「え?」


口を開けて俺を見ている学園長の前で俺は弓矢を放った。


ビュン!

飛んでいく光の矢。


それは一定の高さまで上昇すると落下し始めるのだが。

そのとき。


バラバラパラバラ!!!!!


突然1本の矢が幾千もの矢に分裂した。

視界を覆うのは。


矢。


矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢矢


「な、何だこの矢は」


学園長に答える。


「矢の雨さ。レインの名に恥じぬ矢の雨」


俺は学園長の顔を見て口を開く。


「1本の矢をあの船に当てるのは難しいが。でも、それが数千になれば​───────​─────


学園長から海に目を戻すとアークを乗せた船は矢に貫かれていた。

そして


ドカーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


海の真ん中で船が大爆発を起こした。


粉々に吹き飛ぶ船。

それから


ゴォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!


爆発によって生じた波が俺たちに向かって押し寄せてくる。


「おっ?!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!波がぁぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!溺れるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


そう言って慌てている学園長を見てから俺は呟く。


「万里の長城」


ズアッ!


砂浜の下から壁が出てくる。


何メートルもの高さの壁。

それは長さもあった。


万里の長城の名に恥じぬ長さがあり波は全てそれが打ち消してくれるようなそんな長さの壁。


押し寄せる波が落ち着いた頃魔法を解除して元の砂浜に戻した。


相変わらず俺をポカーンとした顔で見てくる学園長。


「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!!!」


叫んでいた。


「な、なんじゃ今のはぁあぁあぁぁあぁ!!!!」


ザッザッザッザッ。


砂浜で足音を鳴らしながら右に左にと歩いている学園長。


それをナイトが宥めていた。

やがて落ち着きを取り戻す学園長。

それからこう聞いてきた。


「し、しかしあんな爆発が起きてしまえば『禁断の書』の回収は難しそうだな」


そう言ってきた学園長に俺は手に持っていた『禁断の書』を見せる。


「い、いつのまに?!」

「爆発させる前に取り寄せたのさ」


そう言いながら俺は学園長に本を返した。


「で、でかしたぞ!レイン!これでこの世界は救われた!」


俺はただあの時のモヤモヤを消しに来ただけなんだがついでに世界を救ってしまったらしい。


まぁそんなことはどうでもいいや。


「学園長、これで終わりだよね?帰らないか?」


ふぁ〜。

眠くなる。


「う、うむ。そうだな。帰るぞ」


その前に俺は乗り捨てられた車に向かって中を漁った。


【アークの日記】が見つかった。


それを取ってから俺も車に乗りこんだ。


その車内で学園長が話しかけてきた。


「なぁ、レインよ」

「ん?」

「これからは私の事をパパと呼んでくれてもいいぞ」

「呼ぶかよ」


背もたれに思いっきり背中を預けて答える。


「なんでぇ?!パパはなぁ!お前のこと息子同然のように思ってたんだぞ?!」

「少なくとも俺はあんたのこと父親とは思ってないよ」


そう答えるとニンマリとした笑顔を浮かべる学園長。


「なにさ?」

「いや、そのだな。お前と出会ったあの日。シャロの奴が言ったろ?お前を婚約者にする、と」


忘れたかったことを蒸し返す人だな。


「パパは。シャロとお前の婚約を認めるぞ!こんなに優秀な男が婿になってくれるなど!パパは安心だ!」

「あ、いや。俺にそういうつもりはないんだが」


助けを求めるようにナイトに目を向けたら


「ぐすっ。おめでとうレイン。シャロ様を幸せにしてやってくれよ?あの方は本当はとてもいい人だぞ。大きくなられたものだな!」


泣きながら祝って(?)くれているようだった。


(……。なんでそうなるんだぁぁぁぁあぁぁぁ?!!!!!)


そう思いながらさっき手に入れた日記を開いてみることにする。






学園長はバカだ。

だから私が次の学園長になる。

今の学園長に不祥事を起こさせる。

ミノタウロスの準備ができた。

こいつに生徒を襲わせる。

事故が起きるのが楽しみだ。





やばい。

失敗した。

レインというやつに邪魔された。

ミノタウロスのテイムの形跡もバレたかもしれない。

逃げる必要がある。

どこに?魔帝大陸しかないようだ。

盗賊団を雇って少しでもレインの足止めをさせよう。その間に逃げる。




(なるほどねぇ、そういうことがあったわけだ)


だが、その計画も失敗に終わった、というわけか。


(俺の知らないところでこんな計画が動いてたなんてな)


だが、知らないことにもちゃんと対応できる。


やはり、レインはぶっ壊れキャラなようだ。



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