第2話 三流魔法使い?
俺はシャーロットと共に学園の中を歩いていた。
キラキラとした目で俺を見ているシャーロット。
(なんで、こうなった)
俺としてはこいつのフラグをべきバキにへし折ったつもりなんだが……。
だってそうだろう?
あんな喧嘩腰の言葉でフラグが成立するなんて話聞いたことがない。
だというのにシャーロットは俺にピッタリとくっついていた。
(なんでフラグ立ったっぽいんだ?)
理解不能だ。
そう思っていたらどんどん説明をしていくシャーロット。
「記憶がない、とのことですが。どこからどこまでないんですか?」
「全部ないと思ってもらっていい」
原作知識がどこまで使えるのか、その確認も込めて説明は多めで頼もうと思う。
まぁ、基本は他のファンタジーゲームよろしく、固有設定みたいなものはないはずだし特段説明もいらないんだが。
一応、ね。
そうしていたらベラベラと説明を始めるシャーロット。
「あ、私のことはシャロとお呼びくださいレイン様」
と、何故か俺のことは様付けで呼んでくるらしい。
そのときシャロが俺の全身を見てきた。
「ごめんなさい。制服のご用意ができてなくて」
「別に気にしてないさ」
今の俺はシャロが言った通りみすぼらしいかっこうだ。
ボロボロの服の上から薄いローブを1枚被っただけの男。
「でもその姿も歴戦の魔法使いという感じがしてすてきですっ☆」
そう言ってくれるシャロ。
どうやら相当俺の事を気に入ってくれたみたいだけど、
(なんでフラグ折れてないんだ、あれで)
フラグをへし折りにいったのに、困ったもんだ。
次の説明に入るシャロ。
「ちなみにですがこの学園には貴族しか通えないのですよ。そのためそんな学園の敷地内にレイン様のような部外者が倒れていた。だから問題になっているのです」
と、あの学園長室で尋問されていたことの理由を話してくれるシャロ。
なるほどな。
そりゃ問題にもなるよな
「そんな学園に実力を買われて実力のみで入学なさるなんてさすが私の婚約者様ですよね☆」
無視だ、無視。
俺はこいつと婚約なんてしたくないしな。
でも、気になったから聞いてみる。
「なんでそんなに俺と婚約したいんだ?俺じゃなくても優秀な貴族なら他にいるだろ?」
俺がそう言った時だった。
カツン。
カツン。
革靴が床を叩く音が俺たちの視線の先から聞こえてきた。
そっちに目をやると。
金髪の男が立っていた。
(うげっ)
見たまんま悪役です、みたいな顔のヤツがそこにいた。
というより
(原作で敵だったやつだなあれ)
たしか名前は。
思い出そうとしているとその男が口を開いた。
「シャーロット。貴様なぜそんな男の隣にいる?この俺ヴァイスとの婚約を蹴ったくせにな」
そう言って名乗ってくれたヴァイス。
思い出す手間が省けたぞ。
俺の服の裾を握ってくるシャロ。
「レイン様。ごめんなさいあなたを巻き込んでしまうかもしれません」
そう言ってから彼女はヴァイスにこう言った。
「このお方は私の婚約者です」
そう言うとヴァイスは笑った。
「ぶはっ!」
それからギロッと俺を見る。
「くだらん。どこぞの3流底辺魔法使いが婚約者?笑わせるなよ。不快な冗談だ」
そう言ってヴァイスは俺を見て口を開く。
「名乗れよド底辺魔法使い。誰の女に手を出したか教えてやろう!」
「レイン」
「そうか。レインか、教育の時間だ」
パチン。
指を弾くと廊下だった場所は姿を変えた。
「アーノルド魔法学園。序列─────────────第一位ヴァイス。ヴァイスである。許す。武器を抜け。レイン。教育してやろう。この学園で一番偉いのが誰なのかを!」
そう言ってきたのを聞いてシャロが慌てる。
「待ちなさいヴァイス!誰の許可を得てここで戦闘を?!勝手に闘技場モードにするのは禁止されてるんですのよ!」
「戦闘?笑わせるなよシャーロット!これから行われるのは戦闘ではない!」
スっ。
動いて俺はヴァイスの顔をぶん殴った。
バキッ!
その場でひっくり返って床に寝転ぶヴァイス。
「戦闘?そんなものは行われない。これは一方的な俺からお前への暴力である。三流底辺魔法使いはお前のほうだ」
パンパン。
言葉の続きを勝手に喋りながら俺は手をはたいた。
そうしてからシャロに目をやる。
「さ、こんなバカほっといて続きの案内でもしてくれよ」
ポカーン。
口を開けているシャロ。
「ヴァ、ヴァイスを一撃で?!」
驚いているシャロに答える。
「言葉聞こえなかった?案内してくれよ?」
そう言うとニンマリ笑って答えるシャロ。
「レイン様はすてきですっ☆」
◇
案内が終わって俺はこの日の夜寮を割り当てられた。
原作通り生徒のほとんどは寮で暮らすことになるらしい。
一応男女で寮は別れているらしいのだが俺は特別扱いとしてシャロと同じ高級な寮に連れてこられた。
「自由にお使いください☆」
俺に鍵を渡してきたシャロ。
(これで住む場所は確保出来たが……)
そう思いながら俺は部屋の中に入った。
フカフカのベッドの上に寝転ぶ。
「疲れたな……」
額に腕を乗せて目を閉じる。
今日一日でいろいろと起きすぎたな。
やっとゆっくりできる。
気付けばゲーム世界で、そんでもって拘束されてた、か。
一日目からハードな異世界転生だよな。
まったく。
でもこんな世界も悪くはないかもしれない。
なにより俺はレインの扱いに不満を持っていた。
考えても見てほしい最強のキャラが設定だけ用意されててストーリーにいっさい干渉しないんだから。
でも俺はそんなキャラに転生した。
ならやる事は決まっている。
ストーリーなんて無視してどこまでも傲慢に。
自由に生きていこう、そんな生き方もいいんじゃないか?
原作では主人公が辿らなかった道だったり、ストーリーだったり。
俺だけのストーリーを。
俺はそんなことを思いながら眠りにつこうとした時だった。
コンコン。 扉をノックする音。
「レイン」
この声は学園長か。
「なに?」
「もし良かったら風呂掃除をしてもらえんだろうか?風呂掃除の当番が連絡がつかんのだ。他に出来るものがおらんのだ」
なんで俺が、とも思ったが。
(そういえばこの世界は基本的に男の身分が低いんだっけ?)
ベッドから立ち上がって返事をした。
「今行く」
それに他に風呂掃除が出来るやつがいないなら最悪風呂なしにもなりそうだし。
俺としてはそれは避けたいことだ。
日本人としてはね。
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