第3話 お決まりの展開からお決まりじゃない展開へ

風呂掃除をしにした。


ゴシゴシ床を磨いてると日本にいた時を思い出す。


「いや、もう日本じゃないから思い出さなくていいな」


日本にいた時はあまりいい扱いを受けていなかった。

顔は悪いし運動神経も悪くて……んで、出来がったのがこの根暗な性格なんだが。


「ネガティブだなほんと」


そう言いながら床を擦っていると脱衣所に繋がる方から声が聞こえる。


「ふんふふ〜ん」


陽気な感じで鼻歌を歌っているらしい。


「ま、まさかな」


ちゃんと清掃中の立て札はしておいたんだが、入ってくるなんて言わないよな?


って思ってたら。

ガラッ。


(普通に入ってきてんじゃねぇよ!!!)


俺とそいつと目があった。


入ってきたのは女の子だった。

けっこう巨乳な


「な、なんで?!」


叫んでいる女の子。


俺は思い出していた。

こういうときのテンプレの選択肢を。



→見てないと言う

・褒める

・出ていく

・誤魔化す


まぁ、こんなところだろう。

と思う。


思っていたら女の子はパニクっているのか口を開いた。


「い、いつまで見てんのよ!早く出ていけ!」


ポーン。

ポーン。


俺に向かって桶を投げつけてくるが当たったら痛いので


「バリア」


障壁を目の前に作り出して俺に当たらないようにしておく。


それに当たって床に落ちていく桶。

それを見てから俺は口を開いた。


「お前が出ていけばいいだろう?」


あくまで冷静に堂々と対応する。


俺に落ち度は無い。


(そうだ。なにひとつ悪いことは無い)


ビジネス的な機械的な対応をしていれば向こうも自分に落ち度があると思い直すだろう。


ギャルゲーとかそういうジャンルだとこういう対応は厳禁だろうが、今の俺にはどうでもいい。

こいつを攻略するつもりはないんだから。


よって、正論攻めだ。


「見ていないのか?清掃中と札を置いていたはずだが、誰でも見えるところに。目に入るところに。見ていないお前の落ち度だろう。俺のせいにするなよ。人を悪者にしようとするお前の態度は不愉快だ。見るに耐えん」


そう言ってみると女の子は脱衣所に向かって直ぐに戻ってきた。


服を着て。


「ほ、ほんとに書いてあった。ごめんなさい」

「言っただろう。人のことを悪く言う前に自分の行いを恥じることだな」


俺はそう言ってから掃除を再開しようとしたのだが、ふと気になって聞く。


「なんか慌ててたのか?」

「えっ?」

「あの清掃中が目に入らないくらい慌ててたんじゃないかって思ってさ」


そう言ってみると女の子は口を開いた。


「そ、その。友達がいなくて、それで心配で」

「行方不明なのか?」

「かも」


と返してくる女の子。


「って、何言ってるんだろ私。君には関係ないのにね」


俺は掃除していた手を止めた。


ちょうど磨き終わったからだ。


「乗り掛かった船という言葉が俺の世界にはあった」

「乗り掛かった船?」

「その話を聞いてこれからスヤスヤ寝ようという気にはならないという話だ」


掃除道具を閉まって俺は女の子に目をやった。


「その友達はどこに行った?」

「な、何をするつもり?」

「無論。その人探しを手助けしてやろうかと思ってな」


そう言って俺は風呂を出ていく。

そのときに止めてくる女の子。


「待ってよ。君奴隷じゃないの?風呂掃除なんて雑用をやってるなんて身分が低いんじゃないの?」

「違う。俺は奴隷じゃないよ」


そう名乗ってこう続ける。


「通りすがりの一般人モブさ」


風呂を出て俺と女の子……ルナは歩いていく。


目指すは学園長の部屋だ。


コンコン。

扉をノック。

中から返事がくる。


「入りたまえ」


無言で中に入る。


「レインか」


俺はいい意味でも悪い意味でも学園長の記憶に残っているらしい。


ルナに目をやると学園長に話をしだした。


「というわけで、友人が演習にいったっきり帰ってこないのです」

「ふむ。その件は把握している。あの子は掃除当番だが連絡がつかないからな」


どうやら連絡がつかないといった掃除当番の子がルナの友達らしい。


「ですので助けに行きたいのです」

「ならん」

「どうしてですか?!」

「君たちの外出には許可が必要になる。だがその許可は気軽に出せるものでは無いからだ」


たしか、原作にもあったな。その許可というシステムは。

だからこそ知っている。

その許可を出すのにどれだけ面倒なことがあるのか。


ルナに外出許可は出ないだろう。

だが


「俺ならすぐに出るだろう?学園長」


俺を見てくる学園長。


「知ってるよ学園長。外出許可には生徒の保護者の同意も必要だということ。しかし俺に保護者はいない」

「……」

「俺に許可を出してくれたらいい」


そう言ってみるとそばに控えていた男が口を開いた。

胸のプレートには副学園長と書いてあった。


「学園長なりません。まだ行方不明と決まった訳ではありません。待っていれば帰ってくる可能性もあります」


俺は学園長に言う。


「もし、なにか起きているのだとしたら?」


副学園長が学園長に言う。


「なりません。学園長。この男は助けに行くと見せかけて暴行を企んでいるのかもしれません」

「企むわけないだろ」


鼻で笑って言う。


「いいんだよ?学園長。このまま学園をやめても。俺としては学園を続けなくてもいいわけだし。なんなら許可なしで出ていってもいい」


元々俺を入学させたのは学園長が俺を欲しがったからだろう。

ということはこの辞めるという脅しは効果があるはずだ。


現に


「分かったレイン。外出許可を出す」


こうして外出許可を出してくれることになった。


だが副学園長の方はまだ食い下がる。


「学園長。この男がもし……」

「心配するな。レインは信用できるだろう」

「しかし」


そう言っている副学園長のネームプレートを見た。


名前を呼んでみようか。


「それともアーク副学園長?俺に外に出られたら問題でもあるのか?」

「そ、そんなわけでは……」

「話は決まったな」


学園長に目を向ける。


「朗報を待っておけばいい」

「まかせたぞ」


ゴソゴソ。

机の引き出しから学園長はとあるものを取りだした。


「魔法道具だ。【スマホ】というものだ。持っておけ。連絡が取れる道具だ」


それを見て俺は受け取った。


使い方は何となく分かってしまった。

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