第4話これが強すぎて実装されなかったDLC

指示された場所に向かう。


「息も荒れない、か」


結構走っているつもりなんだが、息が荒れる様子がない。


走った距離は数百メートルとかそんな単位じゃないだろう。

数キロ、もう走っているはずだ。

それでも息が荒れない。


「こりゃいいな」


にやり。

笑う。


前世の俺はたかだか数百メートルを全力疾走しただけで疲れて息が上がってた。

でもレインはこの程度じゃ息が乱れる様子もない。


これが原作最強と呼ばれた男。


(さすが、有料DLC)


けっきょく販売されることはなかったけど。

たぶん強すぎてあまりにもバランスブレイカーだったせいで実装が流れたんだと思うんだが、俺は運良くそんなキャラに転生できた。


スマホが音を鳴らした。

どうやら着信したらしい。


電話に出てみると向こうから学園長の声。


「あれ、地図が壊れているのか?お前が今いるはずじゃない場所にいるんだが、まだ出ていって数分。それなのにもう数十キロメートル離れたところにいるなんて、ありえなことが起きてる」


そう言っている学園長に答える。


「壊れてない。俺は今その地点にいる」

「はぁあぁぁあぁあぁあぁあっ?!!!」


声が聞こえてきた。


反射的にスマホのスピーカーを耳から遠ざけてから話しかける。


そんな状態でも向こうの声がバッチリと聞こえる。


「なるほど。加速魔法も使える、といったところか」


と納得していたが俺はそんなものを使っていない。

ただ走っているだけだ。


しかし


(訂正する必要も無いか)


そう思いながら走っていると学園長が指示を出してくる。


「その先だ。その先に行方不明の生徒がいるはずだ」


そのときだった。


「きゃあぁぁあぁあぁぁあ!!!!!」


女の子の叫び声。


俺はビデオ通話にモード変更して、先の道を映しながら進んでいくことにした。


「その道をまっすぐだレイン」


見えていないだろうが頷いてそのまま走っていく。


すると、やがて拓けた広場のような場所に出た。


そこには


「ウガァアァァアアァァァァ!!!!!!」


吠えているミノタウロス。

そしてその近くには女の子が倒れているようだった。


スマホから声が聞こえてくる。


『あ、あれはミノタウロス?!な、なぜこんなところに?!』

「ごたくはいい」


そう言って俺はミノタウロスに向かって走っていった。


スキルを使う。


【鑑定】



名前:ミノタウロス

レベル:352



『ばか、よせ!レイン!1人でミノタウロスに勝てるわけがない!今すぐ応援を送る!』


スマホを左手に握ったまま走って俺はミノタウロスの眼前にジャンプして飛び上がった。


目と目があった。


「ウガァァアァアァァァ!!!!!!」


ミノタウロスが右拳を引いて、次の行動は


「パンチ、だろ?」


ブン!

ミノタウロスはパンチを放ってきた。


ニヤリ。


口をゆがめて笑った。


そして呟く。


「カウンター」


俺の体の目の前に障壁が展開された。

グニョッ。


それを殴り付けるミノタウロス。

これから起きることをミノタウロスに教えてやろう。


「お前が今俺を殴ろうとした攻撃力の2倍で殴り返される」


次の瞬間だった。


ビチャッ!

ビチャビチャッ!


血が飛び散る。


ミノタウロスは弾け飛んだ。

内側から破裂した。


スタッ。

俺は地面に着地。

ここまでの間わずか数秒。


だったがそれでケリがついた。


俺の、勝ちだ。


ザッザッ。

歩いて倒れた少女に近寄って声をかける。


「あ、あなたは……?」


聞いてくる少女に答える。


「名乗る名はない。ただの通りすがりさ」


そう答えると気を失う少女。

左手で抱き抱えて俺は右手でスマホを耳に押し当てる。


「任務は終わりだ」


学園長にこれまでのことを話す。


『か、勝ったというのか?ミノタウロスに?ひとりで?』


驚いているらしいが当たり前だ。

レインにできないことはない。


通話を切って俺はそのまま学校の方に戻ることにした。

その道中だった。


俺の視界に文字が浮かぶ。


【レベルが上がりました。レベル1→レベル2】


それを見て俺はポカーンと口を開けた。


「え?は?え?」


これは予想外すぎる。


え?ま、まさか……


「い、今のでレベル1の強さだったのか?こいつ」


レインは作中最強とは言われていたし、とことんバランスブレイカーとして実装しようというコンセプトだったのは知っているけど


「れ、レベル1でこれ、なのか?!」


右肩が下がった。

力が抜けた。


「あ、あのさぁ……これ」


俺は自分の右手を見た。


自分の右手なのに、なんだかとんでもなく恐ろしいものに見えてくる。


「レベル上げたらどうなるんだ……これ?」


ゴクリ。


原作ではいっさい説明されなかったというか実装すらされなかったんだけど、


「うし、レベルあげてみるか」


この先にどんなものが待ってるのか。

俺はそれを見てみたい。


遥かなる高みから見下ろす景色はどんなものなのだろう。


目指すは、最強のその先。


楽しくなってきたな。


これからの学園生活。

楽しませてもらうことにしようか。


そうして帰り道を歩いていると


「んん……んぅ?」


抱えてる女が呻き声を出していた。


「目が覚めたか」


俺はそう言ってゆっくりと女を下ろした。

それから女は俺を見てきた。


礼のひつとでも言うのかと待っていたら


「へ、変なことしてないですよね?」

「はっ?」

「私が気を失っているからって変なことはしてないですよね?」


いわゆるお約束みたいな質問が飛んできた。


「するかよ」


鼻で笑って答えてやる。


本来であれば



→必死に否定する

・ごまかす



とかっていう選択肢なんだろうけど。


この女の俺への印象なんてどうでもいい。

だから喧嘩腰のような対応をしてやることにした。


「お前の貧相な体なんて触る気にもならん」


そう言ってやるとショックを受けたような顔をしていた。


「ひ、貧相な体?」

「あぁ、そうさ。触る気にもならないね。それからお前助けてもらっておいて人様に言う言葉がそれかよ」


ニヤッと口を歪めて言ってやる。


「命を救われた時でも気絶してる間に何もしていないかを確認せよ。お前の親はそうやって教育したのかい?まず、言うべき言葉があると思うのだが」


そう言ってみると落ち着きを取り戻して頭を下げてきた。


「これは失礼いたしました」


下げていた頭をあげて俺を見てくる女の子。


「私はマリーというものです。ご無礼をお許しください」

「マリー……」


俺は名前を復唱した。

聞き覚えがあるぞ。

その名前は。


「どうかしましたか?」

「あ、いや」


思い出した。

マリーと言えば


(原作のヒロイン、だっけか)


そう思っていたらマリーはこう言ってきた。


「あ、あの。このお礼は後日必ずいたしますので」


そう言ってにっこりと笑ってきた。


本当はストーリーに関わるつもりなんてなかったし。


(早いうちにフラグをへし折っておくか)


俺はそう決意した。


そういえば、今の時系列、どれくらいなんだろうな?

こいつが学生をやってるってことは近そうだが。


寮に帰ったら確認してみようか。

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