第5話 初日の授業
マリーを助けた翌日。
俺はシャロといっしょに俺が倒れていたという場所に連れてきて貰ったのだが。
「なにも思い出せないな」
「そうなのですか」
シャロが悲しそうな顔をしていた。
俺はレインの過去について知らないし、なんでレインがいきなり拘束されていたのかも分からない。
初日の前後の流れを確認するためにここにきたんだけど、何も思い出せなかった。
ここに来たらなにか思い出さないか?と思ったが無駄だったらしい。
「まぁ、思い出せないようなことならどうでもいいことだろう」
俺はそう言ってシャロを連れて教室の方に移動することにした。
今日から俺も晴れてこの学園の生徒だ。
授業にも出ないといけないしな。
と、その前にやることがある。
制服だ。
学園長が無理を言って昨日の今日で用意してくれていた。
そういうわけで学園長室に入るとシャロが俺に制服を着せてくれた。
「似合っていますね☆」
そう言ってるシャロに腕の腕章について聞くことにした。
「この【E】って書いてる腕章は?」
「それは生徒としての優秀さを表すものですよ。結果を残せば上がっていきます」
「ふーん。なるほどね」
答えて俺は学園長室を出ていく。
「レイン様と同じクラスだなんて私も嬉しいです」
そう言いながらその後の案内もシャロがしてくれた。
それでどういうわけか俺は教室に入る前にその扉の前で待たされていた。
「なんで中に入らない?」
「レイン様のご紹介があるからですよ」
「あー。お約束なのね」
「そうです。転校生のお約束ですよ。紹介は」
そのあとチラチラと時計を見てからシャロは口を開いた。
「時間です。では入ってください」
頷いて扉を開けて俺は教室の中に入った。
全員の目が俺に突き刺さる。
これもお約束ってやつかもな。
転校生に視線が注がれるというのは。
そう思いながら俺はシャロに案内されて教壇に立って自己紹介に入る。
「レイン」
名前だけを口にして俺はそれで自己紹介を終えた。
こういうのってなに喋ればいいか知らないし。
そう思ってシャロに目を向けると。
目をぱちくりさせてからこう言ってくれた。
「あ、席は自由席ですので」
俺は適当に後ろの方の席を選びに行った。
特段勉強熱心というわけでもないし。
(なにより勉強しなくても強いからなレインは)
そうして席に座る。
そこで先生がやっと動き始めた。
ちなみにうちの先生はアーク副学園長らしい。
つまりアーク先生、ということだな。
昨日はじゃっかん険悪なムードだったがそんなこと気にせずアークは授業を進めて言った。
そんな中アークは質問をしてきた。
「レインくん。君の知識を確かめるためにも質問します。戦闘においてもっとも大事なことはなんでしょうか?一気に高火力を叩き出すこと、それとも戦い続けることのできる継続力、か」
俺は答えた。
「高火力。目の前の敵を潰せればそれで全部解決するんだからな」
そう答えると教室の中からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「おい、あいつなんなんだ?常識も知らないのか?大事なのは継続力。答えなんて出てるのにな」
「見ろよあいつの腕章。E級だ。そんな一般常識すら知らないんだろう」
なんて言葉が聞こえてきた。
どうやら俺は答えを間違えてしまったらしい。
まぁ仕方ないよな。
こっちの世界のことはあまり知らないんだから。
アーク先生が口を開いた。
「いえ、違います。大事なのは継続力です。最初に全力を出してしまえば後に強い敵が出てきても対処できないでしょう?だから余力を残すのです。これは常識です。以後覚えておくように。でないと常識がないと恥をかきますよ?」
「なるほどな」
そういうことなのか。
一理ある。
でもその理論は俺には当てはまらないかな。
「アーク先生。俺からもひとつ教えてあげよう」
ピクリ。
眉を動かすアーク先生。
「それはいったい?」
「世の中にはあなたの常識では測れないものがある、とね」
俺とアーク先生の間で視線がぶつかり合う。
先に目を逸らしたのはアーク先生だった。
「ふむ。そうですか」
そうしてクラス全体に目をやった。
「皆さん聞きましたか?」
そう呼びかけてからビシッと俺を指さしてくるアーク先生。
「レインくんが私も知らない常識を教えてくれるそうですよ。聞きましたよね?」
「誰も教えるとは言っていないのだが」
そう言ってみるとこう続けてきたアーク先生。
「逃げるのですか?恥という言葉を知らないのでしょうか」
ガタッ。
椅子から立ち上がった。
「忠告のつもりだったんだがな。アーク副学園長。あなたの名誉、プライドというものもあるだろうし」
「忠告?あなたが、私に?はは、御冗談を」
そう言って笑い始めたアーク先生。
「ふはははは、あなたのようなE級の劣等生がこの王国でもトップクラスの私に忠告?私を誰だと思っているのですか?!私はアーク・エルドロード。エリート中のエリー……」
俺は呟く。
「グラビティ」
瞬間。
ドタッ!
アーク先生の体は大の字に床に伏せられた。
ザワザワ。
教室中が騒がしくなる中俺はアーク先生に問いかける。
「エリートならこの程度の魔法、抜けられますよね?」
「あ、あが……」
必死にもがいているアーク先生に更にたずねる。
「さぁ、授業の続きといこうじゃないかアーク先生」
「う、うぐぅ……」
声が聞こえにくいので俺は教壇の方に近寄っていくことにした。
「劣等の魔法くらいエリートのあなたなら効きませんよねぇ?普通は」
「こ、こんなもの……」
なんとか解除しようとしているが無駄だ。
そんなことは俺が一番知っている。
"レインの魔法はどんな奴でも必ず通り、防げない、更には解除できない"
それがレインという男の性能。
知っていて俺はアーク先生に続ける。
「さぁ、アーク先生。見せてくださいよ。俺の魔法が劣等という証拠を。そして、大切なのは継続力だということを。そうすればいつかは抜けれるでしょう?」
「はぁ……はぁ……」
アーク先生は苦笑いしてこう聞いてくる。
「劣等生というのは言いすぎました。あなたのこの魔法は優秀だ。しかし、これをあと何時間継続できるのでしょうか?」
どうやって答えようかと悩んだが俺はアーク先生にもっと苦痛の顔を浮かべて欲しくてこう答えることにした。
「あー。これなら一生続けられるよ」
「は、はったりを。こんなに強力な魔法を使っているのにほんなに魔力がもつわけがない。それに魔力はいずれ切れる、、、」
「はったり?そんなわけない。俺はほんとうのことしか話していないよ」
そう言いながら俺は魔法を解除した。
これ以上続けても意味がないような気がしたからだ。
それに。
キーンコーン。
チャイムが鳴った。
この世界でもチャイムで授業が終わるらしい。
「く、くそ……」
俺を一瞬だけ見て拳をぎゅっと握って教室を足早に出ていくアーク先生。
そのあと
「す、すげぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「あの転校生すげぇぞ!!!!」
「あのエルドロードの人間が何もできなかったぞ!」
クラスの中からそんな言葉が聞こえてきた。
教室の中を見てみるとほとんどの生徒が俺の方を見ていた。
そんな歓声を聞きながら俺も教室を出ることにした。
ここからはランチの時間だからだ。
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