第6話 動き出す

「君がレインくんだね?」


食堂で昼食を食べていると声をかけられた。


声の聞こえた方を見るとそこには男の人。

年齢は40代くらいだろうか。


「そうだけど」

「よかった。隣いいかい?」


そう言って男は俺の横に座ってきた。


「先日は娘を助けてくれてありがとう」

「娘?」

「マリーだ」

「あぁ」


名前を聞いて思い出した。

あの子の父親か。


「俺になんの用?礼を言いに来ただけじゃないんだろう?前置きはいいよ」


そう言うと目をまん丸と見開くマリーパパ。


「あ、いや。その礼を言いにきただけなんだが」

「別にいいよ。帰って」


そう言いながらもう興味無いという様子で俺は食事に戻る。

なかなかに最悪な態度だが俺は女とイチャイチャしたいわけじゃないので全力でフラグをへし折りにいこう、としたのだな。


「あ、いや。その用ならあるんだ」


用事があるなら話も聞いた方がいいだろう。


「それはどんな用事?」

「今夜。時間はあるかい?少し話したいことがあるんだが」


俺は頷いた。


「あるよ。時間ならあるはず」


俺はこの世界での地位などもないから割と暇な方だ。

そして生活面の金銭などは学園長が見てくれているし。

時間なら余っている。


「内密に話したいんだ。今日の放課後、校門にマリーを待たせておくからあの子に従ってほしい」


そう言ってマリーパパは椅子から立ち上がって歩いていった。


しかし


「なんの用だ?俺に?」


わざわざ俺に話さないといけないような話なんだろうか?

全く話が見えないが。

俺は気を引き締めることにした。



放課後。

校門前にいたマリーと合流して案内された先はマリーの家だった。


マリーに案内されて家の中に入った俺は応接室にいた。


「よく来てくれたね」


そう言いながらマリーパパは俺の対面のソファに座ると本題を切り出してきた。


「単刀直入に話すよ。昨日の話だ」


そう言って真面目な顔を作ってこう切り出してきた。


「あんなところにミノタウロスがいるはずがないんだ」


バサァっとマリーパパは俺たちの間にあったローテーブルに地図を広げた。


そして一点を指さす。


「ミノタウロスはここに生息してる」


で、また他の一点を指さした。


「君が昨日マリーを助けたのはここだ。距離にして100キロほど離れているんだが、モンスターはそんな長距離を移動しない」


俺の目を見てきて更に続けてくるマリーパパ。


俺はその言葉の続きを予想してみた。


「誰かが人為的にミノタウロスを移動させた、とでも言いたいのか?」


こくっと頷いたマリーパパ。


「だが、そんなことをしてなんの意味が?」

「貴族の間では裏では熾烈な戦いがあってね」


なるほど。

それで他の貴族を蹴落とそうとするヤカラも出てくるということを言いたいのかな。


「理解した。つまりマリーを殺そうとした誰かがいると、言いたいわけだ」

「そうだ」


そう言われて俺はひとりの男のことを思い出していた。


「アーク副学園長か」

「副学園長がどうかしたのかい?」

「俺がマリーの救助に向かおうとした時えらく止めてきてね。なにか知っていたのかもな」

「それは本当か?」


ガタッ。

ソファから立ち上がってそばにあった剣を手に取るマリーパパ。


「あのやろー。ぶっ殺してやる!」


そう息巻いているが俺は止める。


「まぁ、待ちなよ。まだなにか決定的な証拠があるわけじゃない」


俺はそう言ってマリーパパにこう言う。


「俺に任せてくれないか?あいつとはケリをつけたい」


授業中のあれだけじゃまだ俺の胸のモヤモヤは消えていなかった。

あれ以上のことはあの場じゃできなかった。


だから今度は学園外で


「必ずねじ伏せてやるからさ。あの副学園長を」


と、その時だった。


ダンダンダン!!!


応接室の扉が叩かれる。

ガチャっ。


慌てた様子で扉を開けて中に入ってきたのはメイドだった。

そのメイドが口を開く。


「大旦那様!何者かが屋敷の敷地内に入り込んでいるようです!!」

「なんだと?!」


【鷹の目】


俺は魔法を使い上空へ視界を飛ばしそこからこの屋敷の周辺を観察する。


例え木の裏。家の裏。

建物の裏にいても全ての生命体を補足できる完璧な目。


「屋敷内に人間が20人。ほとんどがメイドか」


俺がそう言うとマリーパパの声が聞こえる。


「なっ……なぜそれを?!メイド達の姿は見せていないのに、なぜ数の把握が?!」


そんな声を無視して続ける。


「屋敷外に10人」

「なんだと?!メイド長!兵士に不審者を拘束させろ!」


俺は視界を自分の体に戻してからマリーパパの声に答える。


「慌てることは無い。すべて鎮圧した」


ガタッ。

ソファから立ち上がって俺は壁にかかっていた家の見取り図の10箇所を指で刺した。


「今指さした場所で不審者が寝ているはずだ」


メイド長は頷いて部屋を出ていった。

それからおそるおそる、といった感じで俺に近づいてくるマリーパパ。


「ち、鎮圧したって……魔法の兆候は感じなかったぞ?い、いったい何をしたんだい?」

「俺の故郷には『蛇に睨まれた蛙』という言葉がある」

「ど、どういうことだ?」

「俺が睨めば奴らは動かなくなった、ということさ。睨んだだけで奴らは大人しくなった」


そう言ってマリーパパを軽く睨んでやると、過呼吸になった。


「はぁ……はぁ……」

「悪かったね。体験してもらうのが一番早いかなと思ってさ。でも安心してよすぐに収まるはずだから」


ほんの数秒で過呼吸は収まってまた話しかけてきた。


「す、すごいな!君は!睨んだだけで敵を制圧してしまうなんて!」

「なに、こんなの朝飯前だよ」


しばらくするとこの応接室に人が集まってきた。


さきほど飛び出して言ったメイドとそれから初日に学園で目にした騎士風の男だ。


話を聞くとどうやら見回りをしていたらこの屋敷の騒ぎを聞いて駆けつけたらしい。


俺はその騎士の男に声をかける。


「ここで揉め事を起こすのは得策じゃないだろう。いったん学園の方に戻らないか?」


騎士の男はこくっと頷いた。


「分かった。案内しよう」

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