第8話 原作の時間軸

翌日。

学園に向かおうとしたら寮の玄関でシャロが待っていた。


「おはようございますレイン様☆」

「おはよう」


そう言いながら俺は寮を出て学園に向かう事にした。


そうして学園の校門をくぐろうとした時だった。


ザワザワザワザワ。


校門の前が騒がしくなった。

いつもは静かな校門付近が今日だけはザワついていた。


「あぁ、そうそう」


俺がその騒ぎを見ていたのに気付いたのかシャロが口を開いた。


「今日はのご帰還でしたわね」

「英雄……」


その言葉を聞いた時俺の頭の中にひとりの男の顔が浮かんだ。

それは。


【アーサー】


原作の主人公だった男の顔。


金色の髪の毛に金の瞳。

まさに騎士と呼ぶのにふさわしいような相手だった。


「きゃーーーー!!!!」


女子生徒達が黄色い歓声をあげている。

その生徒たちが囲っている真ん中には


「あいつか」


アーサーがいた。


「ごめんね。先急いでるから」


アーサーはそう言って困ったように校舎の方に走っていく。


女子生徒達はそれを追いかけて言った。

それを見てシャロが口を開く。


「私のレイン様の方が何十倍もかっこいいのに」


そう言ってから俺の手を握ってきた。


「でも、レイン様の魅力に気付いているのは私だけということでもありますよね☆」


それを聞いて思う。


(俺のどこに魅力を感じてるんだろうなこの子は)


理解不能だよな、まったく。



アークは裏切って死亡したので代わりの教師が着くようになったのだが、その代わりの教師はナイトだった。


(あの人教師も出来るんだな)


とか思ってたらナイトがプリントを配り始めた。


俺の手元にも回ってこようとしていた。


「あ、あのどうぞ」


俺の前にいた女子生徒が俺にプリントを渡してきたのだが。

その時何故か顔が赤くなっていた。


無言で受け取ると


「きゃっ!」


パッと顔を抑えて前を向いた。


(なんなんだほんと)


今日は理解できないことばかり起きるな。


「ほら」


隣にいたシャロにもプリントを渡して俺は紙面に目を落とした。


そこにはこう書いてあった。



【魔帝遠征に向けてのメンバー選抜試験】



ピシャン!

それを見て俺の背中を衝撃がはしった。


(原作の時間軸かな、これは)


原作はここから始まることになる。


ついに俺のいる世界も原作の時間軸に追いついたらしい。

本編はここから始まる。


この選抜試験に勝ち抜いていくっていうのが本編の流れだ。

ちなみに勝ち抜くために色々やってヒロイン達と仲を深めてイチャイチャするってのが本編なんだけど。


(女なんてどうでもいい〜)


この物語はレインがひたすら活躍する物語である。

よって女がしゃしゃる展開などいらん。


そう思いながらプリントを読み進めていく。



・選抜試験はペアで行わるが。1チームは4人である。4人のうち2人を試験に出して受ける形である。

・メンバーの選び方は慎重に行うこと

・同じ生徒を複数のチームが選んだ場合は決闘システムが適応される。決闘して買った方がその生徒を獲得できる



というようなことがズラーっと並んでいる。


顔を上げると選抜試験のことについてナイトが話し始めた。



流れはだいたい理解した。


うなずきながら話を聞いてると……。

シャーロットが俺のプリントを手に取ってメンバーの欄に自分の名前を書き込んでいた。


「お供しますよ☆」


ここまでは分かっていたことなので適当に返事をした。


というよりこいつが俺から離れた場合試験が受けられなかった。

俺に仲間なんて必要ないんだが、一応人数の決まりがあるからな。


そんな事をしていたらナイトが壇上を降りていった。

ここからは自由時間になる。


「さて、残り2人。探しに行くか」


椅子を立ち上がったところだった。


ちょいちょい。

誰かが俺の服の裾を引っ張っているようだった。

振り返るとそこに居たのはルナだった。


「まだメンバー決まってないよね?」


そう聞かれて俺は紙を渡した。


無言でも今の切り出しで何を言おうとしていたかは分かる。


ルナにも伝わっていたようで自分の名前を書いて返してきた。


「これからよろしく」


そう言って歩いていったルナ。


あいつにも最悪な態度を取っているつもりだが、なんだろう。


何故か表情は柔らかいんだよな。

そう思いながら俺は残りひとりを探すことにした。


「残りひとりは誰にしますかー?」


そう聞いてくるシャロに答える。


「誰でもいいよ。あとは頭数揃えるだけだ」

「そうですよね☆私とレイン様のラブラブパワーで……」


かってに喋りだしたシャロを無視して歩いていると


「あ、あの」


声をかけられた。

これは早くもメンバーが決まったようだな。


そう思いながら振り向くとそこに立っていたのはマリーだった。


「メンバーが決まっていないなら私を加えて欲しいのですが」


そう言われてフリーズする。


(大丈夫なのだろうか、これは)


すでにストーリーは原作とは違った流れになりつつあるが、これは……


(こいつは原作主人公。つまりアーサーのヒロイン枠の女なんだよな。それをモブキャラの俺がメンバーにして大丈夫なのだろうか?)


世界バグったりしないだろうか?

とか余計な心配も浮かぶけど。


(ゲーム脳ってやつか。おかしくなるわけないよな)


そう思いなおして俺が紙を渡そうとしたその時だった。


「やぁ、マリー」


俺の横にいつの間にか男が立っていた。

そちらを見ると


(アーサーか)


ザ主人公みたいな見た目のやつが立ってて


「僕のメンバーに入ってもらえないだろうか?」


マリーのことを勧誘していた。

それでマリーが困惑していた。


「あ、いや。その……」


俺のパーティに入りたいようだが、でも、今アーサーから勧誘がきたから。悩んでいるのかもしれない。


(別にどうでもいいか)


取り出しかけた紙をもう一度しまい俺は立ち去ろうとしたのだが


「ま、待って」


俺を呼び止めてくるマリー。


それを見て口を開いたアーサー。


「ごめん。マリーまさか勧誘きてた?」

「ち、ちが。私が入りたいって……」


とこれまでの事を話すマリー。

それを聞いて頷いたアーサー。


「なるほど。そういうことだったのか」

「ふたりで組んでくれていいぞ」


そう言って歩いていこうとすると


「待ちたまえ」


そう言ってくるアーサー。


あぁ、なんとなく予想出来てしまった。

この後のアーサーのセリフが。


『マリーをかけて僕と決闘しよう!』


こんなことを言うんだろうと思って振り返ったのだが。


「マリー、この人のパーティのメンバー入りをかけて僕と決闘しないか?!勝った方がこの人のパーティに入る!それでどうだい?!」


とアーサーはマリーの目を見てとんでもないことを口にしていた。


「はっ……?」


開いた口が塞がらない。

人間、予想外のことが起きれば反応が遅くなるというが、これは……。


(予想外すぎるぞ!この流れは!なんでそうなる?!)


ゴクリ。

どうなってやがるこの世界。


俺がストーリーを壊してしまって、意味のわからないことになってるのか?!

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