17 魔道具の目的


 『魔道具』とは、濃界で生み出されるさまざまな魔石を動力とした道具の総称だ。  


 そのため、昇降機のような超巨大なものから、炎の魔石を使ったランタンなど小型のもの、氷と風の魔石を使った冷風扇といった複数の魔石を使ったものなど、さまざまなものがある。


 エルシャも、もちろんすべての魔道具を知っているわけではない。だが、ローニンの弟子として、それなりに魔道具にふれてきたつもりだった。


 だが、その知識を総動員しても、この魔道具が何かわからない。


 形は、横倒しにした風車の羽根に見える。


 中央に軸もあるし、壊れていなければ、本来は回っているはずのものなのだろう。


 魔石から魔道具に動力を伝えるためには、単に魔石をはめ込めばよいというものではない。魔道具や魔石の種類に応じた材料で回路を作り、適切な量の動力が流れるように調整しなければならない。


 でなければ、動力が少なすぎて動かなかったり、逆に動力が大きすぎると魔石に封じられた魔素が暴走して、大事故になりかねないのだ。


「エルシャ? どうしたんだい?」


 ジレンの声に、魔道具を見つめていたエルシャは我に返ってあわてて梯子の前から移動する。登ってきたジレンが、頭をぶつけないように片膝をついて魔道具を眺めた。 


「これが、叔父上の魔道具か……。かなり、回路が複雑に走っているように見えるが……」


 ジレンも見るのは初めてだったらしい。感心とも戸惑いともつかぬ声を洩らしたジレンの横顔をちらりと見、エルシャはすぐに魔道具に視線を落とす。


「はい……。構造自体は単純です。けれど、羽根に刻まれたこの回路が、いったい何の意図で構成されているのか……」


 子どもの身長くらいはありそうな大きな羽根には縦横無尽に溝が刻み込まれ、魔石から動力を流すための回路が構成されている。


 だが、エルシャが見たことのない形の回路だ。そもそも、羽根の材質が何でできているのかもわからない。


 何より、実物を見てもこの魔道具が何のために作られた魔道具なのか、まったく全然わからない。


「申し訳ありません。ジレン様がせっかく連れて来てくださったというのに……。どうやって修理すればよいのか、現時点ではまったく見当もつきません……っ!」


 ローニンの一番弟子だからと期待されて、ジレンに濃界へ連れて来てもらったというのに。


 修理の手立てが、まったくわからないなんて。


 情けなさに声が震える。ぺたん、とくずおれるように床にへたりこむと、不意に肩を抱かれて引き寄せられた。


 ぽすり、と頬にジレンの服がふれる。


「謝る必要なんてない。そもそも、魔道具を作るだけ作って放っていった叔父上や、叔父上から詳細を聞いていなかった兄上も悪いんだ。もちろん、叔父上と兄上任せにしてしまっていたわたしも」


「そ、そんな……っ! ジレン様達は悪くなんてありませんっ! わたくしが魔道具師として未熟なせいで……っ!」


 千切れんばかりにかぶりを振り、ジレンの面輪を見上げると、黒曜石の瞳が真っ直ぐにエルシャを見下ろしていた。


「エルシャが未熟というわけじゃない。それに、さっき『現時点では』と言ったね? 何か、考えがあるんだろう?」


 信頼に満ちたまなざしと声に、導かれるようにこくんと頷く。


「はい。見ただけではこの魔道具が何のために作られたものかわかりませんが、ローニン様のアトリエを探せば、設計図が見つかるかもしれません。設計図でなくとも、作る時に書いた走り書きなどがあれば……っ! 設計意図がわかれば、回路を分析して正しくつなぎ直すことだって……っ!」


「さすがエルシャだ。やっぱりきみに来てもらってよかった」


 不意に、フード越しに頭を撫でられびっくりする。


「わたしで力になれることは何でもするよ。ひとまず、次の行き先は叔父上のアトリエかな?」


「はいっ! あの、でも――」


 エルシャの頭から離れた手を、はしっと掴む。


「でも、いまの時点でひとつだけ、はっきりとわかることがあるんです」


 じっ、とジレンを見上げて、口を開く。告げた声は、自分で考えていた以上に硬かった。


「わかること?」


 ジレンの問いかけにこくりと頷き、魔道具を振り返る。


 そっ、と手を伸ばし、羽根にふれる。そこには、何か鋭いもので切り裂いたような傷が走っていた。


「この魔道具は壊れたんじゃありません。――誰かに、『』んです」



                              つづ、く……?


※作者より

 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます……っ!(深々)


 えぇ~っ、ここで!? と、不穏の影が覗いたところでぶった切ってしまいましたが、「嫁入りからのセカンドライフ中編コンテスト」用ということで、ここでひとまず連載終了という形となります。申し訳ございません……っ!(><)


 書き始めた当初は、ここまで来るのにこんなに文字数がかかるとは思ってませんでした……(笑)


 おかしい……。書き始める前は「2万字から応募可能だから、そのくらいまで書いてみよう~っと」って思ってたはずなのに、気がつけば4万字……(;´∀`)


 コンテストの結果次第では続きを書くことになるかもしれませんが……。

 そもそも、この方向性でよかったのか、ここまで書いておいてなんですが、不安でしかありません……(;´∀`)


 まあ、ご縁がなかったとしても、続きを書いてしれっと別コンテストに出してる未来もあるかもですしねっ!(笑)


 ともあれ、ここまでお読みくださった皆様には、感謝しかございませんっ!

 本当にありがとうございました~っ!(深々)


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新妻魔道具師はだんな様の溺愛にときめきが止まりませんっ! 〜新婚旅行はだんな様の故郷の異世界に魔道具の修理に行ってきます!〜 綾束 乙@迷子宮女&推し活聖女漫画連載中 @kinoto-ayatsuka

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