第7話 最近撮った写真は


みなさん、ヘラジカというと何を連想しますか?

 巨大なツノ?

 筋肉質の腹?

 間抜けな顔?


 美術ギャラリー併設図書館で、工事中のヘラジカを発見しました。



 工事中のヘラジカ。



 なんじゃそりゃ。

 見間違いではありません。ちゃんと確認したんです。大きさは直径二十センチぐらい。全身が銀色。このヘラジカのまわりに工事の柱が立っていて、腹には梯子がかかっていました。まるで家を建てているみたいです。



 ヘラジカが家?



そのツノが、アンテナになっているということなのでしょうか。

 よく見るとその土手っ腹には、武骨で巨大な穴が開いています。

 まるで宇宙からの異星船みたいです。ヘラジカは悲しそうな顔をして、だまって左を向いていました。



お腹がへったなー。食べても食べても、腹が満杯にならないよ。そんなふうに考えているに違いない。



だってお腹のなかは、からっぽです。

 いつも空腹なのですね。あるいは乗る人がいないのでしょう。



 ヘラジカの家だから、嫌われたのか。

 ヘラジカだからって、それはひどい。

 ヘラジカよ、負けるな一茶これにあり。



 銀色ということは、ジェラルミンを食べて生きているのかも知れません。アメリカ北部にジェラルミンがあるとは知らなかった。もしかして、札束も食べるのか。



 騒ぎになっていないのは、こいつが人馴れしているからでしょうか。そんなに凶暴そうには見えない。ただぼーっと立ち尽くしているのみです。

 ここは図書館の廊下です。じゃまにならないよう、アルコーブが設けられていて、そのなかに工事中のヘラジカがいる。



 何度見ても、奇妙な気持ちになります。

 ヘラジカ型宇宙船。はじめて。



 写真を撮りました。ヘラジカは、ピクリとも動きません。相変わらず悲しそうな顔をして、星の彼方を見つめています。


 ふるさとは 遠きにありて思うもの。

 最近撮った、記憶に残る近代美術のお話でした。








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