第5話 内包《イツェルメ》
頬を鎖骨を首筋を、指や掌で撫でられる感覚がくすぐったくて、チャクルは身動ぎした。濃密な
(カランクラル様……?)
綺麗な貴石の子たちみたいに、愛しげに触っていただけるなら、嬉しい。
(あれ、でも──)
闇の御方の指先は、どこまでも繊細で滑らかなはず。なのに、今、チャクルに触れる手はどうも硬い気がする。それに──
(私……!)
エルマシュを庇ってカランクラル様の刃を受けた。心臓に抱いた水晶が砕ける音を、確かに聞いた。
なぜ、と。驚いた勢いで目が開いた。つまり、チャクルはまだ生きている。どこかの洞窟に寝かされて。金剛石の眩い目に見下ろされて、褐色の指で撫でまわされている。
「……確かに水晶は
瞬きするチャクルに悪戯っぽく微笑んで、エルマシュは囁いた。
「
「──え?」
慌てて胸もとに視線をやると、チャクルの水晶には、やはり無数の
「助けて、くれたの? なんで?」
「こっちの台詞だぞ。あいつを慕ってたんだろうに」
意識を失う前にも、なぜ、と聞かれたような。でも、そんなことはチャクルにだってわからない。
「さあ……いけないって、思ったから」
水晶に
(あれ、いつから……っていうか、どれくらい!?)
チャクルの水晶が金剛石に馴染むのに、どれだけかかったのだろう。どれだけ、彼女はエルマシュに肌を晒していたのだろう。やけに頬が熱いし、胸が痛い。心臓の石がおかしいのかと、胸を押さえて俯くと──
「気の迷いだ」
眩しい目が、真剣な色を浮かべて彼女を覗き込んでいた。
「
「無理!」
気遣われた気配は感じつつ、チャクルは間髪入れずに叫んだ。抱き締められた。
「……無理でも我慢してくれ。しばらく同行するんだから」
「なんで!?」
よりいっそうの大声で叫ぶと、エルマシュは眩しい顔をぎゅっと顰めた。
「なんでって……
チャクルが黙り込んだのは、エルマシュと一緒に過ごすという想像が恥ずかしかったからだ。カランクラル様を遠くから見つめるだけでも胸が苦しかったのに。この太陽みたいな存在と、ふたりきりだなんて。
でも、エルマシュのほうは恐怖や不安のせいだ、と思ったのかもしれない。ぽん、と。大きな掌がチャクルの頭をそっと撫でる。
「
はっきり言って止めて欲しかった。心臓がどきどきして、くっついたばかりの水晶がはじけ飛んでしまいそうだから。でも──外、と聞けば心が浮き立つのも止められない。
「うん……よろしく」
だからチャクルは顔を上げて微笑んだ。エルマシュの顔を間近に見ると、太陽に目が焼かれる思いだけど──いつかは慣れるだろうか。
漆黒の
屑石の乙女は金剛石を抱く 悠井すみれ @Veilchen
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