第4話 金剛石《エルマシュ》
「……こいつらは、てめえを慕っていたんじゃないのか」
(我が君様の敵なのに? みんなを壊したのは、こいつじゃ、ないの?
金剛石を宿せる
「どれほど
地に散らばったアイセルの月長石の欠片が、チャクルの目にも胸にも刺さる。貴石を抱いた子たちを、カランクラル様はあんなに愛しげに抱き締めたり口づけたりしていたのに。ついさっき、闇の御方はみんなをまとめて屑石と蔑んだ。では──イルディスやクルムズ、ほかの子たちを砕いたのも?
がたがたと震え始めたチャクルを、
「半端な石を育てようとしたのは無駄だった。やはりお前しか考えられぬ。ほかの
「結局殺すんじゃねえか! 俺は、もう一発ぶん殴りに来たんだよ!」
蕩けるように囁くカランクラル様に、
「ひゃ──」
カランクラル様は闇を鞭のように繰って
(
貴石を生み出すだけの、か弱い
心の中で混乱して泣きわめく間に、闇の
「足手まといは放り捨てれば良かろうに」
「これ以上、目の前で《砕かれ》て堪るかよ」
カランクラル様の嘲りに、エルマシュは憤然と答えた。断ち切られた輝く髪のひと房を、宙に撒いて煌めかせながら。
「ご主人様に可愛がられて満足ならご勝手に、だ。仲良くやってるのを覗き見れば安心できると思って来たんだ。だが──囮で殺されるのは違うだろうが!」
エルマシュの咆哮は、隙になってしまった。首元を狙う闇の鞭を、彼は辛うじてのけぞって避ける。それでも服が破られて、鎖骨の間に埋まった彼の石が露になる
(本当だ、金剛石……それも、真っ黒の!)
「弱者が強者に仕えるのは世の
「だったら目を抉られた時点で諦めろ。あの時、あんたは俺に負けた」
不思議そうに首を傾げたカランクラル様は、エルマシュに嘲られて唇をわななかせた。闇の
「盗んだ力で何を
「あんたが喜んでくれたんだろうが。今さら返せとは言わないな?」
無数の光の矢が、迫りくる闇の
『かつて、お前のように成長が遅い子がいたが、見事な石を育てたものだった』
あれは、このエルマシュのことだったのだ。
(じゃあ……私も……?)
カランクラル様の御力をいただきながら、チャクルの石はとてもみすぼらしかった。ほかの子たちに無駄だと嗤われたあの
思いついたのとほぼ同時──チャクルは、右手の指先が熱くなるのを感じた。炎がそこにあるような。熱くて痛いから、放り投げたい。けれど、そうしたら辺りを焼き尽くしてしまいそうな気がする。
(これが、
突如、その場に現れた熱の塊に、強くて綺麗なふたりも気付いたようだった。
「お前も、なのか……!?」
「
エルマシュは焦った表情でチャクルを見下ろし、カランクラル様は嬉しそうに彼女に命じる。
エルマシュの腕にぶら下げられたまま、チャクルは考えた。足手まといを庇ってくれた、初対面の同族。長年慈しんで育ててくれた──でも、みんなを壊したカランクラル様。どちらに味方するべきか。でも、本当に一瞬だけだ。
チャクルが投げた熱の塊は、カランクラル様の御顔に
「裏切るのか! この私を……!?」
カランクラル様の御目を覆っていた闇の
「足元
「貴様ら──」
チャクルを抱えていないほうのエルマシュの手が、黄金の爪を纏ってカランクラル様を狙う。御目を抉った傷を、さらに深く刻もうと。でも、カランクラル様が闇色の短剣を作り出すほうが、早い。
(いけない……)
チャクルは、身体を捩ってエルマシュの腕から抜け出した。両手を広げて──闇の切っ先に、我が身を晒す。
色々なことが同時に起きて、同時に感じられた。振り下ろされる黄金の爪が描く、眩い軌跡。目が痛むほどの輝き。
「
カランクラル様の、悔しそうな御声。それから──
「お前、なんで──」
闇の鞭が力を失い消える中、エルマシュは狼狽えた声を上げた。チャクルの身体をもう一度、今度は両腕で抱き締めた──その瞬間、彼女の身体の中心に埋め込まれた水晶が、
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