帰省

十三岡繁

帰省

 たけさんははなさんと話していた。


「はなさん今年のお盆は帰るのかい?」

「他にすることもないしね。一応そのつもりだよ。たけさんはどうするんだい?」

「なんか最近は地上に降りても居心地よくないから、俺は今年はやめておこうかな」


「随分とあっちの夏は暑くなったみたいだけど、私たちには関係ないし何がそんなに嫌なんだい?」

「はなさんはそのあたり疎いけど、俺は元々技術屋だからさ。なんか、最近はすっかりデジタル化しててやりにくいんだよな」


「ああ、でもそれも私たちには関係ないだろう?」

「それがそうでもないんだよ。はなさんも電話は知ってるよね?」

「失礼ちゃうね。私が生きていた頃にも電話くらいあったよ」

「そいつは失礼。電話ってのは相手の声が電線通ってやってくるじゃないか」

「そりゃ電話だからね。遠くにいる人と話せるんだから便利なもんさ」


「昔はまぁそうだったんだけど、最近は違うらしいよ」

「違うって何が?」

「電話から聞こえてくるのは相手の声じゃなくて、機械の合成音なんだってさ」

「またたけさんがわけのわからない事を言い出した。じゃあみんな電話で機械と話してるっていうのかい?」


「昔の電話は声を波の信号に変換して、電気で相手に送って再生していたから本人の声だったともいえる」

「難しい話は分からないよ。私にも分かるように説明しておくれ」

「そのやり方だと無駄が多いってんで、今はそうだな…手紙なんだよ」

「電話で手紙をおくるのかい?」

「いや手紙みたいに内容だけ送って、送り主の声に似た人が読み上げるんだよ。似た人ってのもおかしいな。機械が真似をして読むんだよ」

そう言ってたけさんは『はー』と深いため息を一つついてから続ける。


「昔は結構こっちから地上にいたずら電話する人も多かったよな。でも今は向こうで機械が喋ってるだけだってんだから、あほらしくていたずら電話するヤツもいなくなっちまった」

「確かに情緒が無いねぇ」


「去年のお盆に向こうに行った時には、家族の集合写真に写り込んでみたんだよ」

「心霊写真とはまたたけさんも悪趣味だね」

「最近みんな、スマホっていう電話にカメラが付いてるやつを持っていて、物凄い数取るんだよね。写り込むのにも気合がいるから、その中で一枚だけ選んで写り込んだんだよ」


「あれは結構疲れるからね」

「そしたらその一枚は写真のデーターを物凄く縮めたとかでさ、テレビ画面でアップにしてるの見たら俺の姿がギザギザになってるんだぜ。苦労した甲斐が無いよな」

「あんまり大きく映りこんでも情緒が無いしね」


「ああ、そういえばはなさんや俺みたいに、地上に生まれ変わりたくないヤツが最近多くて、上が困ってるみたいだよ」

「下の世界もなかなか世知辛いから、もう少しゆっくりしたいんだけどね」


「あんまり魂が多くなるとデータ量が増えすぎるから、ここもデジタル化しなきゃいけないなって上は話し合ってるらしい」


「世知辛いあの世の中だね」


<了>

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