滑稽に見えるものの中に人間の尊厳はある。

『大谷翔平にポケモンカードで負けたら自殺するしかない』というタイトルは非常に滑稽で、コメディのようにすら思える。
実際、主人公の立場は他人から見ればそういう風に取られてもおかしくはない――というよりもそう取られて当然だろう。大谷翔平にポケモンカードで負けたからなんだというのだ。
だが、そうではない。
主人公は大谷翔平にポケモンカードで負けたら自殺するしかない。
別に、そういう命懸けのギャンブルをしているわけでもない。
なんらかの呪いがかかっているというわけでもない。

ただ、自分の尊厳のためにそういう戦いを選んでしまったのだ。

誰にだってこれだけは負けたくないというものが一つはあるだろう。
プロになれなかったとしても、目に見える数字で平均以下の成績であったとしても、周りの人間があれよあれよと上達していって、自分だけが上達出来ないようなものであったとしても、あるいは――周りが卒業していく中、自分だけが取り残されてしまったようなものであっても。

主人公にとって、それはポケモンカードで、
そして大谷翔平にとってそれは野球であって、ポケモンカードではないはずだ。

だから、主人公は戦わなければならなかったのだ。
誰一人として主人公の命など欲さなくても、自身の尊厳のために。

これはつまりそういう話です。

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