川にいた親子 佐藤さんの証言(後編)

川にいたのは妻と息子だった、と佐藤さんは話す。


2人は川に伏せるようにしており、顔は見えなかったが見覚えのある服装だったことと、あの時は正常な判断ができなかったという。


佐藤さんは話を続けた。


数日前に家から出ていった二人がなぜ目の前にいるのか。

混乱する頭を何とか動かし、佐藤さんは妻の携帯電話に連絡をした。


しかし、応答はなかった。家を出て行ってしまってからずっとこの状態だった。

佐藤さんはスマートフォンの画面を閉じ、ポケットに入れながらもう一度川を見た。


状況が変わっていた。


妻と思しき女が、息子らしき子どもの頭を水面に押し付けていた。子どもは両手をバタバタと動かし、激しく抵抗している。

妻が息子を殺そうとしている。佐藤さんは慌てて305号室を飛び出した。

廊下を走りながら、妻へ電話をかけ続けた。

だが、何度かけても留守番電話サービスに繋がるばかりだった。

エレベーターの前を通り過ぎ、佐藤さんは階段で降りることにした。


階段を駆け下りながらも電話をかけ続け、1階までやってきた。

フロントの前を通り過ぎ、ホテルを出たところで電話口に応答があった。

電話に出たのは、佐藤さんの息子だった。

何度も電話がかかってきているのにお母さんが出ないから代わりに出たとのことだった。


佐藤さんは息子にお母さんは近くにいるか確認すると、怒った顔をしてるけど隣にいるという。

妻と息子に見えた川での光景は見間違えだったのだろうか。

佐藤さんはほっと一息つき、部屋に戻ることにした。

エレベーターで3階まで上がり、305号室に入った。

電話口で息子の安否は確認できたので、お母さんに代わってほしいと佐藤さんは息子に伝え、何気なく窓に近づき、川を見た。


川には親子がいた。


先ほどまで川に顔をつけていた子どもは、仰向けに倒れており、目と口が開いていた。知らない顔をした子どもだった。


妻に見えた女は改めて見ると妻などではなく、女はこちらに背を向けたまま、携帯電話を耳に当てて話しているように見えたという。


息子に妻に代わるように言ってからなかなかその気配がないことに気付いた。それどころか、川のせせらぎのような、水が流れるような音まで聞こえる。


すると、川のせせらぎのような音が止み、電話口からこんな声が聞こえてきた。



あなたもくる?



佐藤さんの妻と息子は、未だに帰ってきていないという。



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某県にある湖と川の噂について 岡内ゆうき @yuuki6913

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