れびゅー

福山典雅

れびゅー

 

 僕には小学3年生の娘がいる。


 父子家庭であり彼女には色々と不自由をかけている。だが、娘は小さいながらも健気に頑張り、逆に僕の方がその笑顔でどれほど救われたかわからない。


 僕は何があろうと、生涯を賭け娘を守り抜くんだと決めている。


 彼女は僕の宝物なんだ。



 そして、そんな僕の唯一の趣味は小説を書く事。恥ずかしながら作家を目指している。WEBサイトのカクヨムに登録して、自作の小説を世に送り出す日々を過ごしている。


 だけど、全く誰も読んでくれない。


 正直へこむ。


 僕が作家を目指す理由はシンプルだ。それはお金が欲しいから。商業作家として成功すれば、仕事を辞めて娘と一緒に過ごす時間が増える。


 僕は恐れ多くもそんな夢みたいな事を考えながら、娘を寝かしつけた後、睡眠時間を削って小説を書いている。


 僕は現代ドラマを基軸にしている。


 人間の様々な姿、多くの市井の人々の日常や想い、それらを拾い上げた優しい物語が好きなんだ。


 ファンタジー小説の、派手な物語やすごい主人公は確かに面白いと思う。でも僕にはそんな世界が書けない。僕に書けるのは身近で見たり聞いたりした、小さな、小さな、思いやりや優しさを物語にする事だけだ。


 でも、全く誰も読んでくれない。


 やっぱり、正直へこむ。


 そこで僕は今までと全く違う小説を書く事にした。苦手としていたファンタジーを書いてみせる。僕の想像力ではとても難しいが、何事もチャレンジだ。


 タイトルは「フランチャイズだった地球」。


 普通の主人公が何故か地球の神様となってしまう。さらに偉い神様の指示で世界はフランチャイズ契約となり、四苦八苦しながら地球を経営する。優しさを増やす事が目的だけど、人類が問題ばかり起こして、中々うまくいかない。でも主人公は愛する娘と過ごす時間を確保する為に、神様として懸命に頑張る。


 僕はそんな物語を書いた。


 そして投稿後30分待ってみたけど誰も読んでくれない。仕方ない、僕は諦めてその夜は眠った。翌日、通勤電車の中でチェックしたけど、相変わらず誰も読んでいない。僕は完全に諦め、そして深くため息をついた。


 実力がないんだから仕方ない。


 努力は惜しまないけど、才能には自信がない。


 甘い夢を見る愚かな物書き志望に、現実の評価はいつもシビアだ。


 僕は毎回襲うそんな嫌な気分をなんとか振り切って、とにかく現実に戻ると仕事を懸命に頑張った。


 そして家に戻り、食事を終え、娘と過ごして寝かしつけてから、いつもの様にPCの画面を開いた。


 そこには珍しく通知があった。


 僕の物語にレビューを書いてくれた人物がいたみたいだ。


 そして僕はそのレビューを読みながら嗚咽した。






 「フランチャイズだった地球」


 ★★★ Excellent!!! このお話を書いたのはわたしのパパです。


 パパはいつもわたしをねかしつけたあとに、しょうせつを書いてます。


 ねむらないのかなぁ、だいじょうぶかなぁ、っていつもわたしはしんぱいしていて、ある日のぞいたら、パパのこのしゅみを知りました。


 そして友だちにそうだんしたら、お母さんがカクヨムをしているからと協力してくれました。この、あかうんと? はおばさんのものです。


 そして教えてもらったけど、パパの書くしょうせつはどうも人気がないみたいです。


 わたしも読んでみたけど、さっぱりわからなくて、しかたないなぁと思いました(ゴメンね、パパ。ここは感想をかくところだから、ちゃんとね、ちゃんとしたの)


 でも、わたしはパパのお話がわからなくてもだいすきです。


 そしてこのお話だけは、なんとなくわかりました。


 ママがびょうきでなくなってから、パパはいつもいっしょうけんめいです。


 わたしのことをなによりも大切におもってくれてがんばるパパは、この主人公のひとと同じだと思いました。


 いやな事も、つらい事も、泣きたい事も、ぜんぶ、ぜんぶ、がまんして、じぶんひとりでこっそり胸の中にしまいこんで、いつもニコニコしてわたしに元気をくれます。


 だからね、わたしは思ったのです。


 わたしがパパをおうえんしなくっちゃって!


 ガンバレ、ガンバレ、パパ!


 ガンバレ、ガンバレ、パパ!


 ガンバレ、ガンバレ、パパ!


 だいすきなパパへ


 わたしはパパの大ファンです!





 僕はむせび泣いた。


「……ぐっ、ううっ、うぐっ……」


 妻を失くして以来、こんなに泣いたのは初めてかもしれない。


 目頭からとめどもなく涙が溢れて来る。


 声にならない声が、色んな感情を帯びて漏れてしまう。


 すると部屋のドアが開いて、パジャマを着た僕の大切な娘が心細そうに覗いていた。


「パパ……、あのね、あのね……」


 泣いてる僕を見て混乱する娘だった。


 僕は急いで涙を拭い、にこりと微笑んでから、彼女をだっこして机に戻ると膝の上にのせた。


 もう寝なければいけない時間だけど、僕は娘と二人でカクヨムの画面を一緒に見ながら、とても、とても、素敵な夜を過ごした。


 君はやっぱり僕の宝物だ。



                                おしまい
























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