カクヨム文芸部員おすすめ作品 ~【2023/7/27~8/7実施】カクヨム文芸部の本棚をつくろうキャンペーン」選出~
異世界ファンタジー/現代ファンタジージャンルの作品をお探しの方へ
<異世界ファンタジー篇>
おすすめ作品①
「暁天の双星」(作者:泡野瑤子)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887670705
~宮田秩早さんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
歴史はだれのものか?
【レビュー本文】
歴史はだれのものか、私はもしこの本の「著者」であるターミ・ポアットに直接聞く機会があるなら、訊ねてみたいと思っている。
大国に囲まれ、しかし海沿いにあって貿易は盛んであることから比較的経済的には富んだ国……「ニアーダ王国」の国家運営が、非常にきわどいものであったことは、想像に難くない。
「暁天の双星」は、その架空の国、ニアーダ王国が、国王の代替わりを契機として、きわどい均衡外交から対外戦争を経て大国の属国として命脈を保つようになる、時代の劃期に起こった「事変」の真相を描いている。
この物語の面白さは、鮮やかに浮かび上がるキャラクターの魅力もさることながら、普通なら、王位を簒奪された王子ジュディミス王子の視点、あるいは最後に思いがけず王位を継ぐ王族チュンナクの視点で描かれるだろう国の盛衰を、その間隙に起こった「事変」を中心に、「事変」の当事者たちを通して、描き出していることにもあると思う。
読者は、哀しい「事変」の顛末を、その当事者たちの人生を追いつつ、小国の悲哀に思いを馳せる……ふたつのカタルシスを同時に味わうことになる。
…………と、堅い書き出しで始めてしまったのですが、基本的には王族が中心となって紡いでいったであろう王国の歴史に、一瞬、浮かび上がった「英雄」シシーバと「梟雄」バライシュ人生を描くことで、王国の劃期を描くという物語の重層構造、あるいは作者「ターミ・ポアット」と作者(翻訳者と言うべきか?)「泡野瑤子」が別に設定されている多層構造、物語の構成マニア(?)の私としては、嬉しくなってくるのですよ。
ここまで技巧的で、かつ美しく成功していると!
「現代」に生きる「ターミ・ポアット」がある人と出会ったことをきっかけに、生涯をかけてたどり着いた「バライシュの乱」の「真相」は、なぜ秘されていたのか?
なぜシシーバは英雄となり、バライシュは梟雄となって世に伝わったのか?
そこにもまた、このニアーダ王国の悲哀が絡んでいると、私は思う。
大国の属国となりつつも国を保つことに心血を注いだであろうチュンナク王は、外国を悪者にすることなく、自国に誇りを持てる「英雄」を必要としたのだろう。
これから苦難の道を歩むことになるニアーダ国民のために、シシーバとバライシュは自身の実像を失った。
それは、彼らが望むかたちではなかったかもしれないけれど「ふたりで、命をかけてこの国を守ろう」というふたりの誓いの結実であったのかもしれない、とも思う。
個人的には、主人公ふたりは当然として、シシーバの妻であるナジカさんが好きです。
王女としての誇りと義務を体現しつつ、逆境に負けず、常に「自分に出来ること」を探して生きる彼女の姿は、美しい。
おすすめ作品②
「砂竜使いナージファの養女」(作者:平本りこ)
https://kakuyomu.jp/works/16817139554878036293
~坂水さんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
その物語に風は吹いているか
【レビュー本文】
今お読みの、あるいは執筆中の物語についてお尋ねしたい(特にファンタジー)。
その物語に風は吹いているか、と。
主人公は赤き砂竜使いナージファの養女となった十六皇女。彼女が氏族の中で生活し成長し、そして悲劇に見舞われ、それでも立ち上がり歩く。
全容やあらすじに関しては、他の方が素晴らしくレビューで書いてらっしゃるので割愛(ありがたい)。個人的見解で二点の魅力を語りたいと思う。
さて、主人公アイシャ、ぐずい。その上、頑固で面食い、容姿は……まあ可愛らしいのだろうけど、宝石やら、花やら、絹やらに例えられるふうではない(私が読み飛ばしていなければ)。
かような主人公を二十万字オーバー追い続けられるのか。
諸兄は朝ドラのヒロインにイラっとしたことはないだろうか。アイシャは猪突猛進ではなく、その臆病な気質からよくよく考えてくれるのだけれど、どうどう巡りの思考に陥り、ゆえになかなか動かなかったり、落ち込んだりと面倒臭い。しかし、作者はそれを緩和というかより引き込ませる手練をお持ちだ──〝地の文〟である。時折、現れる主人公への鋭いツッコミ。
かような愛の鞭が、ヒロインへの「がんばれ」「そこまでひどくないよ」という愛情や共感に転化するとは、まったく見事な手腕である。某アニメだってキートン山田氏(数年観ておらず今はすでに交代か)のナレーションがなければさぞかしつまらないだろう。
魅力の一点は地の文。これはまあ、テクニックでどうにかなるかもしれない。
もう一つは冒頭でも述べているが、物語から風を感じられるか、である。
もちろん、光だったり、色だったり、音楽だったり、別物でも良い。ともかく、読み始めたら、ここではないどこかへ連れて行かれる感覚。遠くへ、遠くへ、遠くへ──私は幾度となく、今作を読んでいる時、乾いた風を感じ、泉の冷たさに触れ、竜の子の可愛らしい声を聴いた。
こればっかりは小手先の技では真似できない。作者が長い時間をかけて(おそらくねちねち妄想し、調べ、時に頭を抱え)産み出したものだから。
2023年1月22日現在、クライマックスを迎えており、一読者である私は今か今かと次話の公開を待っている。初期からの読者ではないが最新話に追いついたので、リアルタイムで楽しめる特権を得ている。ふふふ。
けれど今から読み始める方もご安心されたし。良い物語はそれ自体に生命力が宿っている。年月を経ても息をしている。ページを開けたなら、いつだって風が吹いてくるのだから。
<現代ファンタジー篇>
おすすめ作品
「山神さまの一粒種 ―林業公社機備課の事件簿―」(作者:魚崎 依知子)
https://kakuyomu.jp/works/16817330653223177611
~tomoさんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
神と人の間に生まれた娘の【守って死ぬ覚悟】。その先にあるものとは?
【レビュー本文】
ふと目に留まった、【守って死ぬくらいの覚悟はあるの。】のキャッチコピーに惹かれ、つい手を出してしまったこの作品。まさか読了後、即2周めを走るくらいの沼にはまることになるとは思ってもみませんでした。遅読なもので、滅多にそういうことは出来ないのです。
twitterで読了ツイートをしており、この小説のツイを見返すと『面白い』『好き』しか言葉を知らないのかという程で苦笑するしかありませんでした。本当に面白くてはまった小説に対して『大好きです!』以上の言葉を見つけるのって難しくて困りますね。
主人公の玉依は事件を解決するべく、相方となった真方と共に奔走します。その懸命さに好感が持てるのですが、彼女がこれまでの人生で抱えてきた黒い感情もチラチラと見え隠れし、そこを神さまたちからの助言や叱責を受けながら昇華させていくストーリー展開が抜群に魅力的です。神や怪異たちの言葉は終始この物語の軸となって、玉依にも読者にも刺さり続けます。
そして相方である真方さん。荒くれ副住職ですがいろんな意味でグイグイ抉られる。この人にハマらない女子っているんでしょうか。いやいや絶対いないでしょ!と断言できちゃうカッコよさ。はぁ〜、好き。
ほのかなようで、濃密に描かれるふたりの恋愛模様もこの小説の推しポイントの一つ。とても大事なことなのでもう一度言いますね。『ほのかなのに濃密』。これに尽きる。カップル推しってこういうことかと噛み締めてます。はぁ〜〜、大好き〜〜〜。
こんなに好きと思える小説に出会えたことは私にとって本当に幸せで、ものすごく嬉しいことでした。
同じ幸運をつかむ方が、一人でも現れますように!
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