歴史ジャンルの作品をお探しの方へ
おすすめ作品①
「The Gazer 《 ゲイザー》」(作者:流川夕)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897696542
~四谷軒さんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
By the rule of exorcising Darkness
【レビュー本文】
この物語は――少年が、闇祓いとして、そして一人の男として、成長していく物語です。読者もまた、少年の成長を見守り、あるいは共に成長を実感できる物語でもあると思います。
ところは、中世あるいは近代ヨーロッパにも似た世界、そしてその都市国家にも似た街、ブリギット。
その街を治めるレイン公爵家の庶子・ユウリスは、友人たちの呪いじみた遊びに端を発する、『闇』の顕現に出くわす。
そして出会う、美しくも強き白狼と、闇祓い《ゲイザー》の女・ウルカ。
白狼、そしてウルカと共に、ユウリスは『闇』と対峙し、そして以後、ブリギットを舞台に繰り広げられる、『闇』との戦いに身を投じることになる――。
これ以上は、物語をご覧くださいとしか言えません。ここで触るよりも、その方がきっと楽しいです。
また、ブリギットを軸に構成される作品世界、その紡がれた歴史、文化などに思いを馳せるのも、この物語の魅力です。
長い物語ですが、それだけ長く楽しめる、そういう物語です。
再度、改めて申し上げますが――物語をご覧ください。
面白いですよ!
おすすめ作品②
「かすみ燃ゆ ~炎情官能伝奇譚~」(作者:坂水)
https://kakuyomu.jp/works/16817330650902416611
~珠邑ミトさんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
女が生きるとはどういう事か。命が肌身が熱く燃えるとはこの事か。
【レビュー本文】
あまりの凄まじさに呆然とするばかりです。
書き手の皆様には恐らく通じるかと思われますが、ある程度文章を書き慣れてきますと、己の立ち位置と言いますか、界隈における己の力量は見えてくるものですよね。
相手の書く力量と自身の書く力量との間に隔たる、歴然とした実力差や、天賦の才というものが、残酷なまでに浮き上がって見えてくる。
今作は、とにもかくにも凄まじい。
あまりの力量差を見せつけられて、「あ、自分なんぞと比べて良いものじゃないわ」と打ちのめされる快感に溺れられます、というのがまず一点。
己の下手さ未熟さ加減は、一先ず棚に上げておきます。
舞台は架空の和風世界、山間の二つの村の間に横たわる過去と現在を結ぶのは、山女をモチーフとした怪異譚です。
主家筋の村では、女が恋情にその身を光らせ男を手繰り寄せる。
片や家来筋の村では男が蛍火で女を引き寄せる。
そしてこの両者は断絶されている。と、されてきた。
その両村を物理的に隔てた山で、一人の男と一人の女が出会い、逢瀬を重ね、物語と二人の運命は思いも寄らぬ未来へと転がってゆきます。
半ばまでですが拝読して最も思うのは、村という閉鎖的な環境において下位におかれた女が生き延びるためには、嫁ぐ事やその身を開くことが必要になるという状況がやはり生じうると言う事。その残酷さの中で、身も世もなく恋焦がれる男に巡り合えたというのは――僥倖なのかも知れません。
ただし、結ばれた糸が他者の意向によって無理矢理解かれたり、断ち切られたりしなければ、という但し書きつきになりますが。
おすすめ作品③
「鎖骨」(作者:白原 糸)
https://kakuyomu.jp/works/16817330656140133733
~つるよしのさんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
抗えぬ時代の流れ、そのなかを確かに生き、結びついた魂、ふたつ。
【レビュー本文】
舞台は明治・大正期から太平洋戦争に至る戦前日本。その時代を指でなぞるように追いながら綴られる、病弱な男主人公と彼を見守り愛し通した軍人、そのふたりの物語です。
男同士の愛情が軸になったストーリーですのでBLという括りで捉えられる方もいるかもしれません。ですが、わたしは敢えてその言葉でこの物語を語りたくない、と読み通し思いました。たしかにここに書かれたのは愛ではあるけれど、そこには性愛ではなく、もっと精神的な関係性が描かれているように思われたからです。
でもプラトニック、というのも何か違う。
わたしはこのふたりをどう表せばいいか、いい言葉が見つからず、読み終わったいま、正直、ただ、戸惑っています。
しかし、戸惑いながらも、この物語には大きく「性」、特に「男性性」の持つ「矛盾や理不尽」が戦前日本という社会を通して色濃く描かれているのは間違いないと感じます。なにより、それを奪われそうになりながらも「男」という性のまま人生を全うした主人公の在り方に、それが現れているように思います。
うつくしく、はかなく、残酷で、でも確かに存在した魂の交流。時代という抗い難い流れのなかでも、ひとはかがやく。それがたとえ仄かな熱のやり取りであっても。その光を心に灯してください。
おすすめ作品④
「父の仇に許された」(作者:はに丸)
https://kakuyomu.jp/works/16817139555463331404
~悠井すみれさんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
ネタバレなしで読みたい、史書の行間に息づく人々と物語
【レビュー本文】
春秋戦国時代……なんだかんだで「キングダム」に続くんですよね? ていどの知識で読み始めた者です。難しいかも……腰を据えて掛からねば、と思っていたのですが、読み始めたら先が気になって仕方なくて次から次へと読み進めて、気付いたら読了していました。
歴史ものは「史実」というどうしようもないネタバレが存在してしまうのですが、読み終えるまで検索は封印しよう! と決意させるほどに、主人公格の郤缺はじめ、彼を取り巻く人々と当時の情勢、それらが織りなす物語に惹き込まれていました。魅力的な登場人物は多いのですが、特に郤缺について。礼節を弁え自己抑制に長けたストイックに描かれた彼をして感情のコントロールを忘れる幾つかの場面には、いずれも心動かされました。
この没入感がどこから来るのかと言えば──恐らくは、本来は淡白かつ簡潔な史文の記述から、その時代をどのような人々がどのように生きたのか、その言動の意味を鮮やかに浮き上がらせる筆致の賜物でしょう。二君に仕えること、祖先の祭祀、長幼の序、子弟の教育等々……ともすれば現代人には理解しづらい古代中国の大夫の価値観を、分かりやすく面白く、嚙み砕いたり脚色したり説明したりしてくださっていると感じました。歴史を、単なる事実の羅列ではなく物語として描くとはどういうことか、のひとつのお手本のように思います。
この時代が好きな人なら楽しめるはず、とはほかのレビュー者の方々が多々延べられている通り。一方で歴史知識がゼロでも非常に楽しく読めましたので、必読の作品と言えましょう。
おすすめ作品⑤
「毗沙門戦記」(作者:虎の威を借る正覚坊)
https://kakuyomu.jp/works/16816700429574285854
~古博かんさんによるレビュー~
※このレビューは小説のネタバレを含みます。
【ひとこと紹介】
圧倒的スケールで描く、生き残りを賭けた仏教東方伝播の旅! ※神仏視点
【レビュー本文】
導入話を拝読した直後に、
文句なしの星三つを献上した、とんでもないポテンシャルを秘める歴史超大作です。
民俗学や宗教史に詳しい方なら、冒頭のエピソードだけで、作者様がこれから描こうとしている物語の顛末が先読みできる仕様です。
盛大なネタバレを、一番最初に持ってくる作者様の大胆不敵さは、まさに本作の主人公、毘沙門天の如し。
そして、どっしりとした地の文章に支えられた骨太ストーリーは、硬派でありながら説明的になりすぎず、しかし必要不可欠な描写は端的に入れてあり、
歴史物ニガテ、宗教分からん勢も含めた不特定多数への心くばりを感じる、とても丁寧な作品です。
何より、下調べの奥行きの深さと幅を読み進めるたびに、ひしひしと感じる情報量の豊富さ。
この作品のために、いったい寺社仏閣へどれだけ足を運んだんだろうと、感嘆するばかりです。
文章そのものは、ライトノベルからはトンとかけ離れています(笑)
しかし、だからこそ、その上で踊る登場神仏たちの個性豊かな言動が軽やかに際立ちます。
最強クールなナイスガイなのに、どこか抜けてる毘沙門天(主人公)。
どうしてここまで……不憫属性が極まるかつてのインドラの王、帝釈天。そして、不遇のラーヴァナ(毘沙門天の弟)。
極めた悟りはどこ行った——新興勢力にグイグイ来られて、日和って踊る如来さま方。
異能の最高傑作、神仏もその力の源は、取りも直さず、絶対的な信者の数!
仏教の生まれた国、インドで巻き起こる新旧混合宗教間の葛藤を、神仏視点で綴ると、これほど心躍るエンタメになるのかと舌を巻きます。
インドで最も影響力のある宗教が何かは、我々もよく知るところ。
本作は、本国で一時期の勢いを失った仏教(如来&菩薩たち)が、自分たちの存亡を賭けて東方へと活路を見出そうと奮闘する様を描いた新規信者獲得・陣取り合戦(神仏視点)です。
その仏教伝播を一任された毘沙門天率いる夜叉一族の東方遠征(時々、楽しい遠足)の先に待ち受けるものとは——?
宗教カスタムしてしまう少数民族相手に、果たして仏教は生き残ることができるのか——?
大日如来「ええんやけど……何か、思てたんとちゃう……」←多分、こうなる。
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