現代ドラマジャンルの作品をお探しの方へ
おすすめ作品①
「堂々同盟」(作者:冬原水稀)
https://kakuyomu.jp/works/16817330649350344449
~秋野凛花さんによるレビュー~
※このレビューは小説のネタバレを含みます。
【ひとこと紹介】
ジョハリの窓の、その先に
【レビュー本文】
自分のことが自分で分かっていない人は、多いはず。
そんな自分でも、他の人から見たら、貴方にはこんな面があるんじゃない? と言われ、そう言えばそうだ。自分はいつも無意識にこういうことをしてる。自分はこうだったんだ。全然知らなかった。そう思うこともあるはず。
この「堂々同盟」という作品は、そんなジョハリの窓のような小説だ。
主人公、東堂の悩みは、「盗み癖がある」というもの。
しょっちゅう人のものを盗んでは、両親に叱られ、自分でもどうして盗んでしまうのか分からず、何も改善が出来ないまま、東堂は高校生に。
ある日東堂はまた、物を盗んでしまう。それはクラスの委員長、山田ひまりのボールペンだった。
……意外とファンシーなものを持ってるんだな。そう思いながらも、罪悪感にボールペンを戻そうと奮闘していたところに、その当の本人、山田ひまりに窃盗現場を目撃されてしまう。
この後の展開・描写共に、とても見事だった。どうして東堂は物を盗んでしまうのか。そしてやめることが出来ないのか──。
詳しくは言わないが、それは「本当の自分」を認めなければいけなかった。こんな自分がいると、知らなくてはいけなかった。
高校生とはいっても、もう十数年生きているのだ。その間に培われた「考え方」を端に置き、新たな考え方を取り入れること。それはどんなに難しいことだろうか。
この現代社会でも、偏見といった思想も後を絶たない。というか、偏見を持つことは否めない。それが人間の性だからだ。それでも、マイノリティという人もいるし、世の中、誰もが何かしらのマイノリティなのだろう。
そんな偏見に怯え、私たちは「普通」になろうとする。そんな中、「堂々」としていられたら。本当の自分を認めることが出来れば。
今この作品を読んで、私はそんなことを考えた。
おすすめ作品②
「こちら水瓶署生活安全課防犯係」(作者:薮坂)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054935794045
~野々ちえさんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
本物のヒーローは日常の中に
【レビュー本文】
誰もやりたがらない。しかし、誰かがやらなければならない。
数ある警察の部署の中でも、その性質上『なんでも屋』『貧乏くじ係』と揶揄される生活安全課防犯係。
多忙をきわめる部署にもかかわらず、日の目を見ることのないその係に配置されて七ヶ月。今日も今日とて行方不明者を捜す主人公の詩織はため息が止まりません。
ただ、ひと口に行方不明者といっても、その事情は千差万別です。
早急にみつけださないとまずい案件もあれば、いや、これはむしろ、みつからないほうがいいのでは……? というものも。
ため息をつきつつも、ひとつひとつの案件に体あたりでぶつかっていく詩織。まっすぐすぎて少々危なっかしいのですが、直属の上司である鷹取部長やら係を指揮する谷上班長やら、彼女をサポートする上司陣が非常にかっこいいです。
警察官であるかぎり、法は遵守しなければならない。でも、だからこそ、彼ら彼女らはその中で『最善』を模索する。
ときには愚痴もこぼせばため息もこぼす。そんな等身大の登場人物たちが織りなすリアルな警察小説であり、骨太な人間ドラマです。光のあたらない場所にこそ、本物のヒーローがいるのかもしれません。
おすすめ作品③
「六連星と黄水仙――本づくりの流儀 🍹」(作者:上月くるを)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894105640
~籠り虚院蝉さんによるレビュー~
【ひとこと紹介】
空の空の空をうちて星にまで達せんとす。
【レビュー本文】
「小説ってなにがおもしろいんだろう」と、物書きの端くれながら折あるごとにつねづね考えています。振り返ってみると私が小説を好きになったのは物語の面白みに気づいてというより、最初はただ単にひたすら文字を追いかける行為そのものにあったように思います。その過程でしだいに言葉そのものの意味の奥深さ、物語の構成や登場人物の変化、伏線等を読み解くことにも面白みを見いだしてきました。
本作は長野県の小さな(といってもその実力は折り紙付きの)老舗出版社内で繰り広げられる人間模様を描いたものです。およそ10万字の端整な作品ですが内容は濃く、とくに主要な登場人物の人間性や心情の機微に丁寧さが感じられます。
主人公の野花、営業の桃瀬などを筆頭に、過去に憂いがありそれゆえあくが強い登場人物たちが織り成す物語には、山あり谷あり起伏があって楽しめるというようなメリハリのあるストーリーラインがあるわけではありませんが、この登場人物の心情の機微・変化によって静かに力強く物語が動いている印象を受けました。すなわち、物語のために人があるのではなく、人のために物語があるという原則です。
とくに居酒屋あずさの章にて、海外での仕事から帰ってきてふらりと訪れた“白鳥のような”女性客。この女性と女将さんの身の上話、桃瀬と社長が熱の入った出版よもやま話をしている場とに挟まれ(!)、野花が交互に耳を傾けるのですが、彼らがそれぞれ話に花を咲かせる姿と話の内容の異質な調和が想像されて強烈な印象を残してくれました。
居酒屋の雰囲気。だれもかれもが好き勝手におしゃべりする空間で、それには積極的に加わらず話のなりゆきに聞き耳を立てる人がいる。かようにして本作は人が主人公であることの意味にきわめて忠実に迫ろうとしている印象さえ受けました。細やかで違和感のない居酒屋の描写は台詞や小道具等も含め本作いち好きで、何度も読み返してしまいました。
この静かで力強い物語を支える唯一無二にして作品の強みが「美しい文章」です。ウェブ小説サイトでは滅多にお目にかかれない息が長く流れるような美しい文章は一目見て惚れました。作中作である『よだかの星 それから』や『犀川久米路橋人柱異聞』なども同様の力の入れ込みように感銘を受けました。
また、ふらりと近況ノートにも立ち寄ってみましたが、俳句を嗜んでおられるようで納得です。コンテスト、良い結果が得られるよう応援しています。
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