第2話 天真爛漫な女

 つかさは、そんな中で一つ気になるものを見てしまった。何やら宗教的な匂いのあるブースがあり、普段であれば、まったく蒸すして歩いていくであろう場所だったのだが。その日は、入学式という普段と違った感覚ではありあがら、どこか冷めた目で見ているという、自分を抑え気味になっていることで、自分の辻褄を保とうとしていることに気づいたという複雑な心境の時であった。

「ちょっと、何を考えているか分からないわ」

 と、言わんばかりの自分に思わず苦笑いをしながら歩いていた。

 そんな中で目の前に見えたのが、

「皆さんは、ストレスをためていませんか?」

 という文字であった。

 その中でも、「ストレス」という文字に神経質になってしまった自分が一番ストレスを感じながらも意識しないふりをしていたかのように感じたのは、一度目に入ったその文字から目を話そうとしてもできなくなっていることからだった。

 つかさは、受験生の間に嫌というほどストレスを感じてきた。だから、今日、この場にいる連中皆も同じような思いを持っていて、ストレスという言葉に敏感であることは百も承知だ。そして先輩も皆同じように漏れなく同じ思いを抱えて入学してきたのだから、この言葉に一番敏感であるのが、入学式という今日であることは認識しているはずだ。

 さすがにその内容までは一年も経ってしまっているのだから、覚えていないのは当然のことであろうが、

「何かに感じた」

 ということは間違いない。

 もっとも、皆同じように感じているとはいえ、何に対してどのようなストレスを感じているのか人それぞれであろう。漠然と受験生時代を思い出して、今の解放感から漠然としたストレスを思い浮かべる人もいれば、その時々、節目節目でさまざまに感じたストレスを、時系列に思い出している人もいるだろう。だから、一纏めにして考えられないということは分かっているが、ストレスという言葉が気にならない人は、その日の自分を見失っている人でもない限りは考えにくい気がしている。

 そんなブースに一人の女性が入っていった。さすがにブース内でも、ビックリしたようだ。このような怪しげなサークルに、女性が一人で入るなんて、普通では考えられない。どんな女性なのかと思って見ていたが、想像していた雰囲気とは違っていた。

 服装は、地味で、髪型も髪の色も、清楚な雰囲気を醸し出していたが、ブースに入っていった時の彼女は、別に恐る恐るというような雰囲気でもなく、ブース内の展示をキョロキョロ見ていたが、その様子は、

「不気味なものを見ている」

 というような感じではなく。どこか堂々とした観察眼を持っているかのように思えたのだ。

 時折笑顔も垣間見ることができ、その笑顔は希望を見つめているかのように感じられ、後光が差しているのではないかと思ったのは、笑顔自体がそのブースにふさわしくないと思えたからだった。

 だが、その笑顔の正体がそのブースに充てられたものではなく、彼女の内面から醸し出された、

「天性の笑顔」

 であるということが分かったのは、彼女がスタッフに話しかけているのを見たからだ。

 こういうブースでは、よほど興味のあることで、入部希望がある程度決まっていて、入部するにあたって、最初から気になっていたことを確認の意味で確かめるというのが一般的に思えた。

 しかし、彼女がそのブースに飛び込んだのは別に最初から決めていたことではないだろう。なぜなら、最初、彼女はその場を通り過ぎようとして、思い直して後戻りしたからだった。

 最初から目指していた場所に気づかずに通り過ぎてしまったのであれば、通り過ぎた後で戻った時に看板を確認して、頷くくらいであっていいのではないだろうか。しかし、彼女は看板を見るところまでは同じだったが。看板を見て、大いに興味を持ったというような笑みを浮かべたのだ。

 それは、最初から目指していた場所ではなかったという証拠であり、自分に言い聞かせているわけではなかったからだ。

「まるで、そこにはどんな人がいるのかな?」

 と言わんばかりに腰を半分曲げて、下から見上げるような視線は、入部の意志を固めている人の目ではないからだった。

 ただの興味津々の女の子だった。

 つかさには、手に取るように想像できた。彼女が看板を見るとはなしに見えてしまったことで、吸い寄せられるように近づいて、興味津々でブースを覗いている。ブースの中の部員は、本来なら、

「よく入ってきてくださいました」

 とばかりに、救世主の来訪を喜ぶべきに思うのだが、実際には逆に思えた。

 彼女はブースに入ってくるなり、興味津々で、しかも腰を曲げて下から見上げるような視線を浴びせることで、却って部員の警戒心を煽ってでもいるかのようだった。相手が怯えていれば、その怯えに乗じて何とか相手の弱みに付け込む形で勧誘でもしようと思っている相手に対して、何も考えていないような笑みを浮かべている興味津々の女の子は、きっとどのように対処していいのか分からずに、戸惑っているに違いなかった。

 彼女は、ブースの中の部員が自分を警戒しているということに気づいているのか、まったく無視する形で、自分の欲求を満たすことだけを考えていた。

「うわぁ、なかなか面白いわ」

 というくらいのことは口にしたかも知れないが、彼女がそれ以外のことを口走るのは想像もつかないことだった。

 彼女が興味を持ったのは、奇しくもつかさと同じ、

「ストレス」

 という文字だった。

 ストレスなどとは一番縁遠そうに見える彼女がストレスという文字を見つめているのを見ると、

「この娘、ひょっとして、ストレスという言葉の存在すら知らないんじゃないかしら?」

 と感じられるほどであった。

 だが、常識から考えて、そんなバカなことはありえない。そのうちに部員の一人が意を決したかのように、

「入部希望の新入生ですか?」

 と訊ねた。

 なるべく、相手を刺激しないような探りを入れる言い方だったが、彼女はそんな相手のことを気にする様子もなく、

「はい、新入生です。でも、入部希望というか、興味があったので、覗いてみました」

 と、返事は実に当たり前のことだった。

 だが、彼女はもしこれが他のサークルであれば、別に怪しい行動ではないのだから、普通の受け答えをしたとしても、何ら問題はないのだろうが、部員が警戒していることで、彼女のイメージが歪んでまわりに見えてしまったことが、その時の彼女にとって、不利だと感じたのは、つかさだけだっただろうか。もっともその場で彼女たちのことを気にして見ていたのは、他に誰もいないのではないかと思われた。

「もし何かご質問があれば、遠慮なくしてくださいね。答えられることであれば、お答えいたします」

 と言っていた。

 それを聞いてつかさは違和感を抱いた。

――堪えられることって何なのかしら? それは答えられない、分からないことがあるということなのか、それとも、答えは分かっているけど、答えてはいけないということが存在するということを意味しているのだろうか?

 という思いである。

 そこまで思うともう一つ感じたのは、

――今の言い方は、相手が彼女だからそういう言い方になったのか、それとも私や他の人にであっても、同じ答え方をするのだろうか?

 というものであった。

 後者の思いを感じた瞬間、つかさは急にこのブースに足が向いてしまった。それは、ブースに興味があるというよりも彼女に興味があった。だから、今の部員の言葉を、同じように自分にもするのかどうか、それが気になったのだ。

 足が向いてしまってから、そこで停まろうと思えば停まれたはずであるが、

「ええい、ままよ」

 と思い、停まることをしなかった。

 それは、自分が彼女とは明らかに人種が違っていると分かっているからだった。自分が決していわゆる、

「普通の人」

 だとは思っていないが、彼女とも違うと思っている。

 それを確かめたかったというのが、本音だったのかも知れない。

 そんなつかさを見つけた一人の部員が、

「君も入部希望者かな?」

 と訊かれて一瞬たじろいだつかさだったが、実はその横で今のセリフを聞いて、ムッとした表情に、もう一人の彼女がなっていたことに誰が気付いたであろう。

「あっ、いえ」

 としてしかつかさは言えなかった。

 もう一人の彼女ほど自分に度胸がないことに気づいたつかさは、その時から隣の彼女を見る目が変わってしまっていたことに気づいたのだろうか。

「とりあえず、こちらのノートに学部とお名前をよろしいですか?」

 と言われた。

 つかさは、警戒したが、ただ学部と名前を書くだけならと思い、迷いもなくそこに書いた。

 彼女も先ほどの豊かな表情はどこへやら、まったくの無表情でそこに同じように学部と名前を書いた。

「文学部:徳島弥生」

 と書かれたのを見て、

「同じ文学部ですね、よろしくね」

 というと、やっと表情を緩めた彼女はニッコリと笑って、つかさと握手をしてくれた。

「先ほど徳島さんにも話しましたが、あなたも何かご質問があれば、遠慮なくしてくださいね。答えられることであれば、お答えいたします」

 と言った。

――私にも同じことを言ったわ――

 というのが確認できるとつかさは、遠慮はなかった。

 先ほどの疑問を、ぶつけてみることにした。

「堪えられることには答えるということですが、答えられないことというのはどういうことなんでしょう? 質問によっては、答えてはいけないことがそもそも存在しているということでしょうか?」

 という質問に、相手はタジタジだった。

「いや、そんな深い意味はありませんよ。我々は訊かれたことで分かることが答えるという意味で、それ以外の何者でもありません」

 というではないか。

 それを聞いて、つかさは少し失望した。最初から伏線を敷いていたということよりも、まるでこのセリフがシナリオに書かれたものであるとすれば、何かを質問しても、ある程度までは答えが用意されていると思ったからだ。

 それならそれで悪いわけではないが、こちらの知りたいことを的確に答えてくれはするだろうが、それは期待していたことと本当に言えるのかどうか、それが疑問だったからだ。それよりも、自分にも彼女と同じような聞き方をしたということは、最初は、

「誰にでも同じ質問をするんだろうな」

 と思ったのだが、次第に違う感情を抱くようにもなった。

――この人たちは、誰にでも同じことを言うわけではなく、ひょっとすると、私も彼女と同類という目で見たのかも知れない――

 と感じ、さらに、

――もっと言えば、このサークルはどこか変わったところのある人でなければ興味を示すところではなく、この人たちだって、少なからず変わったところがあるはずなんだわ――

 と思ったことで、

――さっきも私の質問に対しての答えは、まるで教科書のような回答だったけど、それは本心ではなく、こちらに対して変に勘繰られないようにしているからではないのだろうか?

 と感じたのは、仕方のないことではないかとも思えたのだ。

「ところで、このストレスと、このサークルとはどういう関係があるというのですか?」

 と訊ねてみたが、このブースに書かれているのは、先ほどあった、

「ストレスをためていませんか?」

 という言葉を書いた板と、それとは別に、

「精神分析研究会」

 という、まるで学術研究をしているかのような。少し敷居の高さを感じさせ、人の足を遠ざける、そんな看板だけであった。

「ええ、私たちは、ストレスということが、一番精神分析と分野で、一般の人に馴染みのあることだと思っているので、ストレスを入門として選びました。逆にいうと、ストレスを抱えていない人なんて誰もいないということの裏返しでもあります」

 と、一人の先輩が言ったのだ。

「ストレスって、今まで嫌というほど感じてきたんですけど、その内容って漠然としているじゃないですか。何に対して感じるのか、どうして感じるのか、そして感じた時、どうすれないいのか分からない。もちろん、その時々で違っているし、でも、結局、頭の中から何かが出てくるのを感じる瞬間があって、そんな時、ストレスって解消されるんじゃないかなって思うことが多いです」

 と、弥生は言った。

 それを聞くと、部員の二人は顔を見合わせるようにして、

「なかなか驚きましたね。ここまでストレスというものを自己分析できている人の話は聞けませんからね。やはり受験生時代というのは、それだけストレスを真正面に受け止める時期でもあるんでしょうね」

 と、自分たちも受験生だったはずなのに、一年以上経ってしまうと、その時の感覚を忘れてしまうのか、それとも受験生の頃に感じたあの強烈なストレスを忘れるほどに、大学時代というのは楽しいものなのか、それとも、ストレスというものが、

「喉元過ぎれば熱さも忘れる」

 という言葉にもあるように、気が付けば忘れてしまっているものなのか、つかさにはそのどれが一番考えられるものなのか、分からなかった。

「そちらの。高橋さんはどうですか? ストレスというものにどうして興味を持ったんですか?」

 と訊かれて、

「私の場合は、弥生さんのように具体的なことはいえないんですが、大学受験で合格し、気持ちが次第に高ぶってきて、昨日の夜眠れないくらいに気持ちが有頂天を迎えて、今日の入学式に望んだんですけど、実際に入学式に望むと、『こんなものだったのかな?』って正直落胆のようなものがあったんです。そんな気持ちのまま、ここを通りかかると、ストレスという文字が見えたので、何か引き込まれるような気がしたので、覗いてみたという感じでしょうか? だから、ここに来る迄の状況はいえても、今の心境を説明するのは難しい気がします」

 と答えた。

「なるほど、お二人にはお二人の答え方があると思うのですが、でも、感じ方は同じだと思うんですよ。ストレスというものは、最初から存在しているものではなく、その時の状況に持って生まれた性格や考え方が絵狂して、そして生まれてくるものだと思っています。ただ、、生まれてくると言っても、まったくなかったものができるわけではなく、ストレスという箱のようなものは存在していて、そこにどれだけ蓄積されてくるかということなんですよ。実際にその箱にまったく何も入っていない時というのは、存在しないと思っています。まったくストレスがないのだとすれば、それは、いわゆる感情というものがない状態なんじゃないかと思えて、それこそ、記憶喪失であったり、鬱病に陥っていたりして、記憶や意識と絡み合う形で存在していると思っているので、逆にいえば、ストレスがないというのは、ありえないと思うんです。すべてが悪いものだとは言いませんが、自分の意識を蝕むものをストレスだと思っているのであれば、それは少し違っているんじゃないかと考えているんですよ」

 と、話してくれた。

 その話は、つかさには理解できた。つかさが考えるストレスに近いものがあると思うからで、思わず話を訊きながら、頷いていた自分を感じていた。

 最初の方は話に集中していたので、まわりを見る余裕がなかったが、途中から自分の考えに近いものを感じてきたことから、隣にいる弥生の方を気にしている自分を感じた。

 彼女は話を訊きながら、自分と同じように頷いていたが、つかさが自分を意識しているのに気付いたのか、急にこちらを見て、すぐに目を合わせたことから、思わず会釈をしてしまったつかさに対し、表情を変えることなく、頷いていた。語り手の先輩は二人のそんな様子を知ってか知らずか、気にすることもなく、話をしてくれた。

 それが、最初から決まっている口上だったのか、それとも先輩が二人の話を訊いて、率直に感じたことを話してくれたのかは分からない。だが、話の内容に信憑性を感じたのは事実で、少なからずの興味を覚えた。

 もちろん、入部するかどうかなど、その時に分かるはずもない。何しろストレスという言葉に反応し、ストレスという言葉だけの話しかしていないのだから、相手も最初から勧誘しようという意思があるのかどうかも、よくわかっていなかった。

「私は何となく興味を覚えたので、今日は時間がありませんが、また寄らせてもらおうと思います」

 と、弥生は答えた。

「私も同じですね。今のところは頭の中は白紙の状態です」

 とつかさは言ったが、つかさの意識としては、

――さっきの話は大いに興味があったが、自分が冷静に考えた時に、考えとして浮かんできそうなことでもあるので、「頭の中が白紙だ」という言葉になったんだ――

 という考えがあった。

 もちろん、その言葉をすぐに口にするのはおこがましかったので、せめて「白紙」という表現になったのだが、下手をすれば、あまり上品な言い方ではない。相手に、喧嘩を売っていると思われるかも知れないとも思ったが、正直な気持ちとして、これくらいの表現はつかさという人間の個性として、普通にあることだと思っていた。

 その証拠に、誰も不快そうな顔になっているわけではない。スルーされたのであればそれでもかまわない。その方が今日の段階ではいいのではないかと思えたのだ。

 何と言っても今日はまだ入学式初日、死期が終わって、大学というところがどういうところなのか、今日一日で分かるはずもなく、それだけに部活にしても、まだまだ聞いてみたいところはこれから出てくるだろう。

 入学前から決めていた人であったり、高校時代から続けていたことを、大学に入っても続けたいという思いのある人でもないかぎり、初日から部活を決める人はなかなかいないと思われた。

 学部と名前を記載しているので、連絡があるかも知れないが、この部活であれば向こうから連絡を取ってくることはないような気がした。ただ、興味があるのもウソではなく、それよりも、今日は、ストレスという言葉に興味を持った自分がどういう心境だったのかを、また後になって思い出すことがありそうな気がする瞬間だった。

 二人は挨拶をしてから、ブースを出たが、お互いにすぐに会話になることもなく、少しぎこちない瞬間があったが、弥生が笑ってくれたのを見て、つかさも緊張を一気に解いて、自分も笑った。今の間の緊張は、無意識の緊張ではなく、意識的な緊張だったのだということをいまさらながらに感じさせた瞬間だった。

「それにしても、弥生さんがあんなにしっかりした考えをお持ち何だと思うと、私はなんだか恥ずかしく感じられるくらいだったわ」

 とつかさがいうと、

「そうかしら? つかささんだって、ご自分の気持ちを話していたはずでしょう? 自分の表現方法に違いがあるだけで、あの人たちが言っているように、やっぱり感じていることは同じなのよ。そういう意味では、私たち、どこか気が合うところがきっとあるはずだと思うのよ」

 と言っていた。

 これはまさしく友達宣言と言ってもいいのではないだろうか。

「うんうん、これでお友達になれたという感じがするわ。私にとっての大学生活で最初のお友達。仲良くしてね」

 というと、

「ええ、それはお互い様よ。私にとっても最初のお友達ですからね」

 と弥生は言ったが、その弥生の言った「最初」という言葉は、

「大学に入ってから」

 という意味ではなく、今まで友達と言える人がいなかったことで、

「本当の友達になれる人ができた」

 と言いたかったのだろうと気付くのは、もう少ししてからのことだった。

 大学時代の友達というのは、大きく分けて二種類ある。

 いつも一緒にいて、自分の気持ちをぶつけ合いたいと思う人で、いないと寂しい相手であり、もう一つは、大学内でただ挨拶をするだけの、そんな相手なので、いないと寂しいとまではいかない友達である。

「ただの友達と、親友」

 の違いと言ってもいいだろう。より

 二人は、同じ文学部、いろいろ話をしてみると、共通の話題もあった。マンガやアニメ、ゲームなどよりも、読書などの本を読んだりするのが好きだという共通点には、お互いに嬉しい気分にさせられていた。

「やっぱり、想像力というものが、大切かというよりも、素直に楽しいと思えるところが私は嬉しいのよ」

 と、つかさがいうと、

「それは私も同じ。高校時代まで友達がいなかったのも、そのあたりのハードルがあったからなんじゃないかって思っているくらいなのよ。相手を求めないわけではないんだけど、どこか認めたくない自分がいるのも事実で、その気持ちを口にさせない自分に苛立ちを感じてしまうのよ。それが何か理不尽な気がして。変な意味での堂々巡りを繰り返していたような気がするわ」

 と弥生が答えた。

「だから、ストレスという言葉に反応したのかも知れないわね」

 とつかさがいうと、弥生は苦笑いをしながら、

「そうかも知れないわ」

 と言って、笑ったのだった。

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