第2話 まいと水の精霊

 まいは、宝石となってから、不思議だった。

 眼はないはずなのに、周りの様子がわかるし、声もわかる。


 悪魔な会話は、ときどき翻訳できないところもあるけど、十分に伝わっている。



 そもそも、わたしなんで、悪魔な言葉がわかるのだろうかと、考えて、姉さまと血の契約をしたときに、悪魔な言葉もそのときに、伝わったのだとわかった。


 この姿でも、精霊やほかの存在たちと、会話できるだろうか。


 でも、この前には、たしかに、黒鉄くろがね鳥に話しかけられた。


「うーん。宝石に意思存在があるのかな。それとも、わたしが、封じこめられたから、意思をもったのかな」


 姉さまが、寝室で眠っている間、わたしは考えごとをしていた。


「宝石として、転生したと考えるのかな。それとも、まいが宝石になったのかな」


 まいの考えごとは続く。


「宝石ノートの表紙をみることは、できるのだけど、そもそも、わたし身体がないのよね。いや、宝石が身体なんだけど、不思議というね」



 すると、姉さまが、かけてくれているベットのフックの側で、なんとなく何かを察知する。


「部屋の鍵は、たしか姉さまかけてたよね」

「ねえ。宝石さん。考えるのもいいけど、よく聴こえてるんだけど?」

「え」


 そこには、薄く透明のような姿ではあるけど、髪の長い、ワンピースを着ている女のヒトが、そこにいた。


 いつから、いたのだろう。


「部屋の鍵は」

「もう。精霊に鍵は必要ないわよ。おもしろい子ね」

「え、精霊」

「そう。遊びにきちゃった」

「は、はじめまして! わぁ精霊さんだわぁ」

「なに、言ってるの。あなたも精霊じゃないの?」

「え、わたし、そのヒトではあったのですけど、そのあとこの中に入ったので、精霊とは違うのかも」

「そっかぁ。でも精霊と話しができるのだからスキルか、それか精霊に似た存在よ」


 そっかぁ、わたし

 宝石の精霊みたいな存在なのか。


 わたしは無い眼を丸くした。


「スキル。えと、わたしにスキルがあるの? ていうか、あなたは、どうやってきたのかしら」


 すると、その少し背の高い、精霊は、空中でくるくると周りながら、

 わたしのすぐ側にきて、顔を近づける。


「ほら、あそこの」

「え」


 観ると、キッチンにコップがだしてあり、水が入ったままになっていた。

 姉さまが、全て飲む前に、寝てしまったのだろう。


 最近の姉さまは、ときどき眠気にまけ、途中で寝てしまう。


「水が入ったまま。だから、水の気配と魔力を頼りに来たの。水の魔力があれば、わたしは少しはいられるの」

「そうなんだ」


 水にも魔力があるのかな。

 すると話してくれる。


「デビルズ水道局は、魔力を少し流して、水を制御しているの。まぁ、浄化したり循環したりするのに、必要ね」

「そっかぁ」


 すると、その精霊は、少し楽しそうに、ネネの顔をのぞきこみ、そして、ベットの横に腰かける。


「悪魔に仕えてるの?」

「え」

「あなた、名前は」

「まい。仕えるっていうより、側にいるっていうほうがいいのかな」

「そう」

「身体あるの、いいなぁ」

「あなたも身体はあるじゃない?」


 そーっと、宝石に触れるようにする。


「ううん。わたしは、なんで、話せるんだろう。それに、あなたに、わたしがわかるのも不思議」

「そう。世界は不思議とロマンと恋と、そして、精霊たちに支えられているのよ」

「えっ」

「そうだ。あとで、あなたのノートをみればいいわ」

「わたし、手も足もないし、どうやればいいのか」

「かんたん」

「え」

「ノートの表紙をみながら、手でつかんで開くように、イメージするだけ。ひらいてねって」

「うん」

「あ、わたしもういかなくちゃ」

「あ」

「そこの公園の、水場にある魔力結晶がわたしの居場所だから、あまり長く離れちゃいけないの。またね」

「あ、えと、また話せる?」

「また来るわ。噴水みかけたら声かけて」

「うん。わかった」

「まい。ありがとう」


 すっと、立ちあがると、空中で回転して、

 その精霊は、きちんと、扉からでていく。


 透明な身体は、扉をすりぬけていく。


「いっちゃったわ」



 少しの間、扉をみつめる。


「そう。ノート!」


 まいは、この異空間とも呼べる、自身の宝石のなかで、浮かぶ宝石ノートをみつめる。


「宝石ノートをあけるのね」



 でも、イメージかぁ。


 あける。


 イメージ。


 こう手があって。

 ないんだけどね。


「ふぁ。イメージかぁ」


 ヒトの頃は、手や足があって便利だった。


 現在は、どうだろう。


 ほんとは、意識や意思のような存在で、形のないわたしだから、便利だとかない。

 でも、姉さまがときどき少し淋しそうだったり、怒っていたり、悔やんでいたりすると、せめて後ろから抱きしめて、ぴとって、くっついてあげたい。


 抱きしめるイメージ


 なでなでするイメージ


 唇に手をあてたり


 本を読んであげたり


「姉さまに、なにかわたしから、新しいことを」


 ノートに手を伸ばして、何かを書こうとする。

 すると、宝石ノートをもち、表紙から一ページめをめくるような感覚になる。


 表紙がひらく。


「あ、できた!」


 開いた先には、読める文字が並んでいた。



 封印転移まい

 ヒトのまいは、エネルギーのかたまりになり、その本体を宝石に移した

 魔力と意識をもつ宝石となる

 通常スキル

 意識としての描く読む話す聴く

 まいの意識魔力により、空間拡張される

 悪魔ネネのスキルの一部を所有

 固有スキルあり

 所有者悪魔ネネ



「読めたよめた」

「えと、つまり、スキルがあるのね!」


 悪魔スキルについては、姉さまと一緒にいたから、一部教えてもらったけど、宝石スキルがあるとは、驚きだ。


 それに、封印されているって、どういうことだろう。


「わたし、死んだのよね。エネルギーになって、転移して」


 もう一度、宝石ノートを読み返してみるも、ほかには詳しく書かれていない。


「もう。説明不足なのよね。でも、ノートがあるってことは、わたしにも描けるのかなぁ」


 描く


 描く?


 ねこでもくかなぁ?


 まいは、イメージしてみる。


 ねこねこねこねこねこ


 とくに、なにも起こらない。


「ふぅ。ダメだぁ」


 姉さまが、もぞもぞと、ベットの上で動く。

 まだ起きる時間は、ずっと先だ。



 わたしの現在の状態だと、眠るというのは、ほんとは必要ない。

 でも、ヒトの習慣なのか、時間なのか、魔力の回復か、夜中から朝にかけては、意識が朦朧もうろうとして、いつの間にか、眠っていることに近いことになる。



 わたしは、宝石ノートを閉じる。


 うまく閉じると、表紙には、キレイに模様が入っていることが、わかる。

 きっと、姉さまからもらった、わたしの宝石のデザインだ。


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