第3話 黒鉄鳥とまいスキル

 姉さまが、仕事の日もわたしはついていく。

 悪魔ネネお姉さまの仕事は、ヒトや妖精や悪魔などの死後エネルギー体となった者たちを回収して、異界のドラゴンのところに、連れていくことだ。


 そして、ネネお姉さまは、とても美少女だ。

 少し黒い長い髪に、少し幼くみえる顔立ち。

 髪かざりをつけている。

 翼にピンクの模様が入っている紺の翼だ。


 首のネックレスからさがるわたしは、いつも姉さまの仕事ぶり、ヒトや妖精や悪魔たちの回収の姿をみている。


 悪魔には、黒鉄鳥というクイーンに手紙や配達を頼める担当の鳥がつく。

 姉さまにもついているが、普段用がないときには、鳥たちは自身の持ち場にいるらしい。



「ふぅ。今日の回収地域は、少し範囲が広いわね」


 エネルギー体を回収しながら、姉さまは忙しそう。

 わたしも手伝いできれば、いいけれど、そんな便利なスキルはないよね。


 今日は、悪魔のミレイと、担当エリアが近いらしく、ミレイとときどき話している。



 ミレイは、美悪魔だ。

 姉さまとは、違うタイプだけど、男の子にはぜったいにモテる。

 長い髪で、仕事のときは眼鏡をしている。

 地味めにもみえるが、休みの日は、派手はでメイクで、ライブにいくことが、ひとつ生きがいだ。

 切れ長の眼で、捕らえられたら、男の子たちは、もうすぐに恋しているのではないだろうか。


 でも、ミレイの一番はネネお姉さまらしい。


「ミレイ、あの呪縛されているヒトは、どうしよう」

「わたしたちには、どうにもならないわ」

「うん。でも、話しかけたい。最近多いよね」

「ネネ、話してもたぶん、悪魔にも厄介な話ししかこないわよ。魔法で、縛られただけならいいけど、呪われてたり、自身で拒否してたり、とにかくわたしは、関わりもたないわ」

「うん。わかってはいるよ。でも、あの子、まだ若い」


 たしかに、まいも姿を確認すると、透けたような身体は、まいと同様の小学生くらいだろう。


「ネネ。若くても年寄りでも、とにかく通常の仕事以外の部分は、余計なことに、巻き込まれるだけなのよ」


 まいは、ミレイの話しはよくわかる。

 わたしのように、悪魔を生きてる間に喚べるのは、ごく少数で、大抵は願いごとなど、なにも叶わずに死んでいく。


 "それでも、あの子はたしかに、気になっちゃうや"


 そうまいが考えていると、ビルの間となる交差点の脇で話していたネネめがけて、鳥がやってくる。


 姉さまには見えていないようだ。


「あの。姉さま、鳥が、ていっても聴こえないんだけど」


 どんどん近づき、ネネの目の前で、空中で回転してから、ネネの足元に着地する。


 黒鉄くろがね鳥だ。

 黒に灰色や青色が混じる翼に、いくつかの鉄のように固い羽があることから、名前がついたらしい。

 まいが見ていると、半透明にみえるその黒鉄鳥は、話しかけてくる。


「まい、準備おくれまして、ごめんなさい。ようやく来れました」

「あの。姉さまたちには、見えてないのよね?」

「そう。精霊のような存在にだけ、見えるように、スキルで透明化されているよ」


 それにしても


「なぜ話せるのかしら」

「あぁ。瞬間シンパシーはわかるかな?」

「いいえ」

「まぁ、精霊同士がつかえる専用通信シンパシーだと考えてくれれば。そうだ。ノート」

「え?」

「まいのノートには、スキルが追加されてるかも」


 まいは、自身の異空間から、宝石ノートを開くイメージをする。


 すると、宝石ノートの一ページめに、スキルが追加されている。


「あ、瞬間相互通行シンパシーだって!」

「そう。わたしたち伝令組の準備ができてから、スキルも表示されたんだね」

「ノート便利!」

「わたしは黒鉄くろがね鳥。通常は、悪魔たちについて、伝令や手紙、物の配達をするのだけど、ネネとの契約のために、あなたにも、わたしがつくことになったよ」

「え。でもわたし、血の契約は、もう切れてしまって」

「いいえ。一度悪魔と契約したから、精霊のような扱いではあるけど、悪魔でもあるのよ」

「そっか。姉さまとの契約は、現在の形でも、続いてるようなものなのね」

「そう」


 まいは、宝石ノートを閉じる。


「それで、その黒鉄鳥さんは、わたし専用なの?」

「そうです。これから、しっかりあなたに仕えます。無理なときは、違う手段を使うから、とにかく何でも、わたしに相談を」

「はい!」

「じゃ」


 飛ぼうとする前に声をかける。


「あの、まだ質問があるんだ」

「はい」

「頼みになるか、わからないけど、わたし姉さまのために、なにかしたい。でも、この身体じゃ、観ているだけなの。どうしたらいいの?」


 すると、少し考えこんでいるようだ。


 ネネやミレイの話しは、もうすぐ終わりだ。

 移動するようだ。


「スキル」

「え」

「精霊のスキルは、特殊なんだ」

「はい」

「宝石のなかにいても、たぶんスキルを進化できると想う。少し待ってて。悪魔の新魔導書の代わりになるのを探してみるね」

「魔導書」

「そう。妖精たちは、それを使ってスキルを増やして、封印のチカラをつかってスキルを進化させるんだよね」


 ミレイとわかれて、ネネは移動する。

 ふわっと、浮かんで、黒鉄鳥は、どこかにいってしまう。


「あ、名前ききそびれちゃった」



 ネネが、まだ呪縛されて残されている子のことが、気になるのか、空に飛びながらもビルの上空から、様子を観ている。


「悪魔なわたしたちにも、できないことって、たくさんあるのよね」


 すると、ネネの上空近くから、スーッとすりぬけていく、影があった。


 まいは、驚く。


「あ、天使だぁ。はじめて観た」


 呪縛されて、とり残された魔力のかたまりとなった、その元に、羽をひろげた天使が、降りたった。

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