第5話 休日お買いものとまいの感情

 姉さま、メディにミレイは、この休日は、お店周りをするみたいだ。


 音楽ショップでは、ミレイは、ヤバジャンと魔女隊のライブ情報や予告宣伝をみかけて、珍しく興奮したようだった。


 メディは、Ydoや雷津玄師といったアーティストをチェックしていた。


 ヒト世界の音楽アーティストたちの情報も悪魔界に伝わっていることに、わたしは驚く。



 お店のなかの音楽は、D(デビルズ)ラジオの800チャンネルらしい。


 ときどき、コマーシャルのような、800と言っているみたいだ。


「メディは、なにか聴きたいのある?」

「どうだろ。前のときには、ずっと聴いていた気もするけど、悪魔な音楽はわからないからなぁ」


 姉さまは、メディのリサーチをはじめたようだ。


「このあたりは、ヒトから持ってきた音楽もあるよ」


 ミレイが、紹介している棚は、さきほどメディがチェックしていたところだ。


「あ、やっぱりそうなんだ。転生ショックからか、自分の記憶は、なかなか戻らないんだけど、アーティストとかは、覚えているのかも」


 メディのいう、転生ショックは、転生魔法をかけられて転生した者たちは、そのあと前世の記憶がしばらく戻らない状態のことだ。


 メディナナタリアは前世が "ヒト" なのだ。


「雷津玄師、RISKY BACKかぁ」

「聴いてみなよ」

「え、視聴もできるの?」

「このボックスにデジ音源がはいってるから、再生ボタン押して」

「ありがとう」


 ミレイと、メディが盛り上がっていると、


「聴き終わったら、アイドルのとこも聴こうよ。ね、メディ」

「少し待って」

「う、うん」


 あぁ、姉さまがシュンとしてる。

 それは、寂しそうなのに、可愛い。


 ミレイがにやにやしているのは、久しぶりに、音楽の話しができて、単純に嬉しいのだろう。


「えと、次はアイドルのところ」

「うん。闇病みの新譜とか」

「うん」


 店内をぐるぐるして、アイドルのところで、姉さまは興奮している。



 若干、メディが恥ずかしそうなのは、アイドルたちの衣装が、ところどころ破れていたり、胸元がハダケていたり、そういった男の子目線なのだろう。


 わたしの小学生のころも、男の子たちは、スカートの中身のことや、おっ○い、とか叫んで、楽しそうだったが、わたしにはよくわからなかった。



 でも、ネネお姉さまのことは、別だ。

 実は、いまだに肌に密着していることが恥ずかしい気持ちになる。



 一通り、探しおえると、推しのアイドルの曲を姉さまが魔力交換で、購入する。


「あぁ、楽しかった!」

「そうだね」


 このあとの勢いで、姉さまはカラオケもいきたそうだったが、メディが曲覚えてからにしたい、とのことで、ミレイの買いものにつきあうことになった。


「少し街なかで、ジーンズやスカートのお店と、あと下着と、ジャケットと」

「ミレイ、そんなにみるの?」

「わたし、ダメージジーンズと、ヤバ緑ジャンは持ってるけど、すぐダメになるし。てか、気にいったジーンズって百年もたないかな」


 ミレイの買いもの場所まで飛んでいく。


「じゃ、外で待ってるよ」


 というメディ。


 でも、ミレイもネネも一緒の買いものがしたいからと、ほぼ無理やりに、一緒にメディもウロウロする。


「ジーンズやジャケットとかは、いいけど」


 メディが照れて目線が、よくわからないのは、ミレイとネネが、下着売り場でお互いのを選んでいるからだ。


「これよくない?」

「それより、こっちのほうが」

「えー。赤より黒だよ」

「わたしは、白もいいと思う」


 メディは、売り場の真ん中で、困った顔をしている。


「あ、の。少し向こういってる、から」

「メディは、下着赤いのと白いのだと好みはどっち?」

「そう。はじめから、メディにきけばよかった」

「ちょっとまって」


 わたしは、そんなメディをみて、笑ってしまう。

 ああ、こういうところが、メディをいいなって、想ってるんだな。

 って、姉さまの気持ちを少し理解する。


「メディどっちなの?」

「えと」

「いまのところ見せる相手は、メディなんだから、メディ決めてね?」

「そうそう」


 ミレイと姉さまがにこにこしている。


「ぜったい、からかってるだろ」

「「そんなことないよぉ」」

「じゃ、じゃネネは白いので、ミレイは赤いの。これでいい?」

「きゃーー!! わたし白なんだぁ。」

「はぁ」


 いいなぁ。

 姉さまたち。

 わたしも小学生じゃまだ早いけど、下着一緒に選んだり、こうやって、ちょっと男の子からかったり、きゃっきゃっしたい!


「いいなぁ」


 夕方になるくらいまで、たくさんのお店を周り、そのたびに、メディを困らせる発言をして、ミレイと姉さまは、満足そうだ。



 夕方ミレイは、


「わたし、夕飯は別でいいわ」


 とあっさりと帰ってしまい、ネネとメディで、近くの休憩スペースつきのゲームセンターにきた。



 悪魔は、魅惑の果実と、怠惰な実がだいたいの食事で、怠惰の方が安いのだが、食べ過ぎると、どんどん堕落していく。



 姉さまは、バックから魅惑の果実をとりだして、メディにもわけた。


 休憩の場所で、デビルズ自販機で飲みものを買うと、窓のある席で、ネネとメディはゆっくり過ごす。


 となりには、購入した荷物がたくさんだ。



 魅惑の果実を食べて、デビコーラを飲みながら暮れていく風景をネネとメディは観ている。



 ふいに、まいは嬉しいのと、切ないのと感情がくる。


 姉さまと、一緒なのは嬉しい。

 話しできなくても、こうして一緒の風景を観られて、姉さまとメディは仲良くて、休日に、買いものを楽しめた。



 でも、切ないよ。


 わたしは、宝石のなか。


 なんで、姉さまの横にいないのだろう。


 こんな、メディに優しい顔をする姉さまの隣にいるのが、わたしでないのだろう。


 そう。

 わたしは、死んだのよね。


 転生かどうか、よくわからないけど、

 ここがわたしの居場所で、これから先、たぶんわたしは、姉さまが手放すまで、ずっとだ。



 姉さまと、メディが話すなか、

 わたしは、自身の異空間で宝石ノートをひらく。


 そして、空いている部分に、あまり考えることなく、文字を描く。


 "

 ネネお姉さま、好きだよ


 切ない


 まいって、わたしって

 なに

 "



 気づくと、宝石ノートには

 文字が浮かんでいた。



「あ、ノートに描くってこういうことなんだ」


 忙しい店内BGMのなか、姉さまとメディが薄暗くなる窓の席で、

 まるで、一枚の絵のように、笑っていた。

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