第9話 まいとあふれる精霊たち

 パチっと、ない目を開けると、

 すでにネネお姉さまは、朝準備をしていた。


 いつもの休みの通りに、

 姉さまは、バタバタしていた。


 行ったりきたりしてバタバタ。


 洗面にいって、クローゼットをみてジタバタ。


 ときどき、わたしにも話しかけてくるが、


「まい、寝不足じゃないよね」

「まい、髪かざり、変じゃないよね」


 と言っては、また違うところにいく。



 まいは、昨日の夜に、読んでいた新魔導書のことは、とりあえず置いておいて、

 その前の光景を思い出してみる。


 メディやミレイとの待ち合わせは、たしかお昼を食べてからだし、クラフトで改めてなにか創ろうとしているのも、夜にだから、とりあえず先に買いものする、ことのほかは、そんなに慌てることはない、はず。


 いつもの通り、姉さまには聴こえていなくても、返事はしている。


「朝、しっかり起きられたね。おはよ!」


「変じゃないよ」


「そんなに慌てないで」


「ほら、危ないわ」


 まいは、ホントにときどきだけど、ない手を伸ばしてみたり、目を塞ぎたくなったりする。



 最近では、まいもスキルのいくつかを使えるようになり、とくに姉さまに向けた魔力回復の効果はあるらしい。


 わたしの固有スキルは、魔力自動回復と、反射、それに吸収など、補助的なスキルらしく、それは宝石として、姉さまに密着しているわたしには、よくできたスキルだ。


 黒鉄鳥のろろちゃんの話しだと、

 宝石にエネルギーを分霊するときに、わたしが、ネネお姉さまの役にたつ、というスキルを願い、それにダイヤモンドが答えをだしたのではないかな、ということらしい。



「じゃ、まい、いこっか」


 姉さまは、宝石のついたネックレスをかけると、わたしの視点も胸元の高い位置にくる。


 扉をでると、もうまぶしい日差しで、悪魔界も夏なのかもしれない。


「まぁ、悪魔界に、ニホンのいう四季っていうのが存在するのか、わたしにはよくわからないんだけどね」



 玄関をでてすぐに、花の精霊に会う。

 姉さまの住むビルの一室にいる悪魔が、ベランダや玄関で、ラベンダーやミントを育てているらしい。


 少し小さな身体の紫や緑色をした精霊が、ふわりとやってくる


「おはよ。まい」

「おはよ」


 少し姉さまが移動すると、

 今度は木の精霊がやってくる。


「あ、木のかたね」

「おはよ。まい。今日もキレイだね」

「えへ」


 そのほかにも、移動するたびに、まいは話しかけられるようになった。



 姉さまは、転移をすぐには使わないで、少し空中を移動して、いくつかを周ってから、仕事場にいくからだ。


 休みの日にも、こうして移動先で、話しかけられるため、すっかり会う精霊には、あいさつをしていくことになる。


「おはよ。まい」


「おはよ」


「こん」

「こん。じゃね」


「まい、またよってね」

「姉さまの気分でね」


「まい」


 まい、まい、まい



 まいは、精霊がこんなにあふれているとは、思わなかったため、あいさつが増えてきて、驚く。


 宝石のなかで、周りに関心がなかったときには、みかけなかったのに、

 一度、黒鉄鳥に教わってから、まわりをみると、かなりたくさんの浮遊する精霊がいるようだ。


「というより、い過ぎよね。悪魔に会う数より、精霊たちのほうが、はるかに多いみたい」


「花でしょ。木でしょ。水場があれば

 水に、ときどき火もいて、石や岩に、土に天気変わると、雷まで」



 ネネの買いもの場所につくと、

 そこは、大きめなビルだ。

 ここに、お店があるらしい。


「ふぅ。ここならあるかな」


 ちらっと、ネネは、足の上につけてあるトロピカルガンをみる。

 ネネの装備は、そのほかに腰に魔改ナイフをつけてある。


 ビルに入ると、少し冷たい空気が包み込む。


「少し飛ぶと、汗かくのよね」


 ネネは少し汗をふきながら、店内を歩いていく。


「なに、買うのかな。クラフトに使う材料のことだと思うんだけど」


 このビルは、比較的いろんなお店があるようだ。


「やっぱりクラフトの材料ね」


 姉さまは、材料の揃うお店で、チェーンをみたり、アクセサリーをみたり、小さめな鉱石をみたりしている。


「なに、つくるんだろ」


 姉さまの装備は、いくつかあるが、普段持ち歩いているのは、トロピカルガンと、魔改ナイフ、それに悪魔ノートに、バックと髪飾り、くらいだろうか。


 いくつかのものをみたあと、魔力交換で購入する。

 鉱石と、ネックレスの代わり、それに、少しアクセサリーもある。


「次は」


 姉さまの買いものは続く。

 服屋をみてまわり、

 靴を少しみて、

 バックもみてきて、


「アタマぐるぐるしてきた。もう。なんか姉さま、買いもの勢いつくと、いろんなとこいくのよね」



「ふぅ」


 デビル自販機で、ひとつ飲みものを購入して、近くのベンチに座った。


「まい、これどうかな?」


 見せられたのは、いまつけているネックレスとは、違うタイプのものと、それに少しアクセサリーもある。


「似合うよ」


 とわたしが言うと、


「まいのネックレスも、ときどき入れ替えないと落としたり、はずれたりしたら、いやだもんね」


 あ、わたしのネックレスだった。

 アクセサリーは、たぶん、メディに魅せるためのものだろう。

 キレイな指輪に、腕につけるチェーンもある。


「姉さま、おしゃれだなぁ。いいなぁ」

「わたしも、なにかおしゃれしたい」

「いやだなぁ、わたし、宝石じゃん」

「宝石だったぁ!!」


 いち精霊のノリつっこみ。

 うっ。

 なんか寂しい。




 少しだけ書店によると、姉さまはなにかをチェックしていた。


 ミレイから、ときどきメッセージが届く。


 たぶん、待ちあわせのチェックと、行動確認だろう。


 お昼をここのビルで、食べることにしたようで、姉さまは、食事スペースにはいった。


 悪魔界では、基本食事は、魅惑の果実か怠惰な実のため、それを売っているお店と、休憩だけができるスペースがある。


「ふぅ」


 バックから、魅惑の果実をだすと、テーブルから離れて、デビル自販機で、飲みものを購入する。


 ピコン

 ガシャ


 まいがチェックする。


「今回は、いちごミックスにしたのね」


 席につくと、

 姉さまは、魅惑の果実を食べはじめる。


 実はまいは、姉さまの果実を食べる姿に、萌えを感じている。


「なんか、こう。セクシーなのよね」


 口から、少したれる果汁を手で抑えて、

 そのあと、飲みものを飲む。


 十五分程度してから、席をたつ。

 飲みものなどのゴミをきっちり、ゴミ箱に収めて、姉さまは移動する。



 待ち合わせは、たしか、この商業ビルの一階にある広場、オブジェの前だ。


「まだ、早かったかな」


 ネネは、広場について、ぐるっと見回すも、いまのところメディもミレイの姿もない。

 とりあえず、目立つように、オブジェの前にいってみる。



 まいは、目の前にあるオブジェの説明文を読んでみる。


 タイトル、"灰鐘はいかね鳥と黒鉄くろがね鳥"


 天使の使いとなる灰鐘鳥

 悪魔の使いとなる黒鉄鳥

 誓いの指輪を口にくわえている

 その昔より続いている

 天使と悪魔の戦いは、

 一時停戦のまま

 停戦のときに、お互いに交わした誓いを指輪にこめている、とある。


「そっかぁ。天使と悪魔って、たたかうときがあるのね」


 灰鐘と黒鉄のくちばしには、

 指輪があり、指輪にはめられた宝石が光っている。


 ふと、ネネが振り返ると、

 メディとミレイが来ていた。


「あ」

「来てたんだ」


 メディとミレイが、そろって声をかける。


「ネネ、おしゃれだね」

「えっ、そうかなぁ」

「髪飾りかわいい」

「ふふっ。ありがとう」


 メディは、黒めのズボンにグレーシャツ、薄い長そで。

 ミレイは、少し模様の入っている肩だしの薄青ワンピースをきている。


「オブジェながめてたの」

「天使たちも、このところ忙しいね」

「悪魔な仕事と、似ていて、少しずつ違うらしいね」

「じゃ、いこう」

「うん」



 今回は、少し前に、ネネとミレイが見立てた服が、気にいったらしいメディは、それをもう一着ほどはあるといい、ということで、メディの服探しと、それからミレイが見たいものがある、というので、買いものだ。


「この前は、魔列車の駅に近いところだったけど、今回は、このビル内で探しましょう」


 ミレイがはりきっている。


 まいは、実は少しどきどきしていた。

 男の子の買いものにつきあうのは、お兄ちゃんのとき以来で、そのときも、まいはあまり、関心がなかったからだ。


 三つほど入っているファッションショップをめぐると、同じのではないが、メディに似合うのがみつかる。


「よかったね」

「ありがとう。これでもう少しまわせるかな」

「ミレイのは」

「わたしのは、靴」


 今度は、シューズショップでみて回ると、すぐにミレイは、決めて購入する。


「あとは、どうしようか」

「せっかくだし」


 と、ビルの四階にあるゲームセンターによる。

 いつの間にか、メディが、ネネの荷物を持っていた。

 いくつか、クレーンゲームをみてまわり、

 ネネが疲れたころに、解散となる。


「たくさん買いものしたね」

「ありがとう。ネネ、ミレイ」

「ううん。それより、今度、その」

「うん。なに」

「買った服みせてね」


 あぁ、惜しい。


 まいは、想う。

 たぶん、いま姉さまは、デートにいこうって、言いたかったんじゃないかな。


「うん。そうだね」



 解散したあと、

 姉さまは、近くの公園をみてまわる。

 ゲームセンターでも、ウロウロしていた。

 それが、姉さまの悪魔な子どもの保護をしている、のだと、まいは知っている。


「姉さま。子どもたちを保護して、悪魔施設まで、おくってるのよね」


 すると、いつの間にか側にいた、

 黒鉄鳥が、うなずいていた。


「いつから、いたの?」

「公園で、みつけたので」

「そっかぁ」

「朝から、姉さま忙しかったわ」

「まいは、なにかいいのはみつけられたの?」

「みつけても、わたしは、つけられないからなぁ」

「みてまわるのは、いいと想う」

「うん」


 部屋につき、どさっとベットに倒れこむ。

 少し姉さまの胸に、押しつけられる。


「あ、ごめんね。まい」


 姉さまは、すぐに気づいて、わたしをベットのフックに、かける。


 いつもだと姉さまはクラフトだ。

 でも、姉さまは、このあと、少しだけ着替えと、買ってきたものを拡げたあと、

 ベットに入って、夜中まで寝入ってしまう。


 姉さまは、休日のほうが、なにかとせわしない悪魔だ。

 でも、寝顔をみると、なんだか、嬉しい気持ちになる。


「姉さま、おやすみね」



 そう言いつつ、結局は夜中に起きて、シャワーや明日の準備をまた慌ただしくするのが、いつものことだ。

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