空けておく部屋
尾八原ジュージ
空けておく部屋
堀田さんが勤めるホテルには、「なるべく客を泊めない部屋」があるという。なんでも開業まもない頃、その部屋の窓から男性がひとり、飛び降りて亡くなったのだそうだ。嵌め殺しの窓は壊され、現場は惨憺たる有様だったとか。
さてその部屋にひとが泊ると、深夜、幽霊らしきものが出るという。くだんの亡くなった男性ではない。女性がベッドサイトに立って、手招きをするのだそうだ。
この女性について苦情が入ったことは、堀田さんが知る限り一度もない。
どうも、怖いどころか異様に心を惹かれるような美女だそうで、手招きされるとつい嬉しくなってベッドから起き上がってしまう。はっと気づくとベッドサイドに立っていて、いつの間にか朝が来ている――という現象が、老若男女問わず起こるのだという。
客から苦情が出ないのなら、その部屋を普通に使ってもいいような気がするが、それでも二日以上連続で泊めることはないそうだ。
好奇心に駆られた堀田さんの先輩ホテルマンが、例の部屋に連泊したことがあるという。
先輩によれば、その女は一晩目にはベッドサイドに出るのだが、一日後には部屋の真ん中で手招きをする。彼は次の朝、部屋の真ん中に立ったまま目が覚めたという。
二日後は窓のすぐそばに移動する。窓の外はもちろん空中で、九階下の道路まで足がかりひとつない。
もしもそこから身を乗り出すことができれば、地面まで一気に落下してしまう。
「その女、三日後は窓の外で手招きしてるんじゃないかなぁ」
堀田さんは腕組みをしてそう語る。
くだんの先輩は、連泊を続けた日の朝、窓の強化ガラスに血まみれになりながら頭をぶつけ続けているところを発見された。救急車で運ばれていってからは二度と出勤することなく、いつのまにか退職していたという。
空けておく部屋 尾八原ジュージ @zi-yon
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