第11話 エピローグ

12月も上旬になり、年末の仕事納めに向けて皆ソワソワしだしたある日、吉川課長が役職者会議から戻ってきた。

「今日の会議遅かったッスね。」

冬のボーナスも近い為か成瀬が、いつもより終了時間が遅かった役職者会議の内容が自分達のボーナス支給金額査定に関わる事かと不安になり、思わず課長にそれとなく聞き出そうとする。しかし吉川課長は苦笑いをするばかり。そこへ同じく役職者会切りから戻ってきた荒井部長が商品企画課の部屋に入ってくると、課員達全員を呼び寄せ整列させる。

「え~、先ほどの役職者会議で決定されたことですが、来年より全部署の社員研修旅行が廃止されました。」

一同、微動だせず口をつぐみ話に耳を傾ける。今年の社員旅行の最中に起こった出来事を考えれば来年からの社員旅行廃止は全員誰でも予想できていたことなのだから。

「元々予算削減の話もでていた所に佐藤さんの一件があり、正式に廃止が決定しました。」

「その代わりですが、来年は課内で飲み会でもやりましょう。・・・自腹になるけどね。」

吉川課長が部長に続いて明るく話し始める。社員旅行が廃止されるのはしかたがないけれども、その代わり課内で飲み会を開催するという課長と部長の課員を大切にする心遣いに花菜江や商品企画課のメンバーは胸を打たれた。

(佐藤さん・・。みんな良い人達ばかりだよ、商品企画課の人達は。それをもっと佐藤さんに知って欲しかった・・・。)

「それと、来年4月から新メンバーがこの商品企画課に入ります。」

「新入社員ッスか?」

「いいや、北海道支社から一人、人事異動でやってくるそうだ。誰がくるのかはまだ判らないがね。」

佐藤の穴埋めだろうか、北海道支社からやってくる新メンバーの存在に先ほどまで黙って話を聞いていた課員一同はザワついた。水川真莉愛などはやってくるのが若い男性なのか、容姿はどうなんだと期待に胸を膨らませ、騒ぎまくっている。

「詳しくは来年にならないと判りません。何か判ったらまた申し伝えます。」

そう言って、荒井部長は話を締めくくった。

「ねえねえ花菜江、北海道支社からくる人ってどんな人なんだろうね。」

「どういう人なんだろうね。男でも女でもどっちでもいいから、何事も無く平和に過ごせればそれで十分です。」

「そうだね。でも、北海道から来るって事はだよ、北海道のお土産が食べれるって事だよねっ。」

「も~、有実ってば。お土産貰えるとは限らないでしょ。」

「でもさ、北海道っていえば、海鮮が美味しい場所じゃん。蟹とかマグロとか。明太子もいいかも。」

「えっ!?明太子は九州じゃなかったっけ?」

「そ~だっけ?でも私はお土産に期待しちゃうかな~。」

「そうだねぇ、健全なお土産なら期待しちゃうかな。」

花菜江の言う『健全な』という部分に含みが込められている事に有実は気がついていなかったが、不幸なお土産は二度と起こって欲しく無いと、花菜江は心から思った。


                                  終わり

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お土産殺人事件 @popopress46ha12

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