第31話
ユウナは体の力を失って椅子に座り込んでしまった。
なにもかもがどうでもよくなってしまった気分だ。
両親の喜ぶ顔とか、受験とか、もう、どうでも――。
「ごめん!」
途端に2人がユウナへ向けて頭を下げてきた。
ユウナは理解できずにまばたきを繰り返す。
「あんな噂を流されてクラス内で孤立して、初めてユウナの気持ちがわかった」
キミの声は震えていた。
「あの電話を見つけ出して使ってしまうくらい、ユウナを追い詰めたのは私達だから」
サエの声も震えている。
それでもユウナはまだ理解が追いつかなかった。
この2人が自分へ向けて頭を下げているのが信じられず、夢を見ているような感覚だ。
だけどそのとき思い出した。
昨日真実の電話ではキミが謝りたがっていると言っていた。
あれは本当だったのかもしれない。
「勉強だって本当はできるのに、私たちのせいでできなかったんだよね?」
顔をあげたサエの目には涙が流れていた。
サエは人一倍勉強をしてきたから、ユウナの頑張りを邪魔してきたのだと知ってショックだったのだ。
ユウナが勉強に集中できるようになれば、自分とはいいライバルになれたのではないかと後悔していた。
「これからはちゃんとユウナの友達になりたい。勉強だって運動だって、きっとユウナならやればできると思うから」
キミの言葉にユウナは視線をそむけた。
「どうかな、勉強ができたのはただの偶然かもしれないし」
そう言うとキミとサエは顔を見合わせて「私達そういうところが嫌いだったの」と、苦しそうな声で言った。
「え?」
「私は勉強や運動を毎日頑張って自分の夢に少しでも近づこうとしてる。だけどユウナはなんの努力もしていない。怠けてるって思ったの」
サエの言葉にユウナは返す言葉がなかった。
勉強していても集中できなくてすぐにマンガを読み始めた。
テレビを見始めると離れられなくて、手伝いをおろそかにした。
それだけじゃない。
今までたくさんのことを怠けてきたのだ。
それは学校内にいても同じで、すべてに対して怠慢に過ごしてきたユウナを見て努力している2人は腹を立てていたのだ。
家にいたって両親からどれだけ注意されても自分の行動を変えようとはしなかった。
思い出せば思い出すほど自分のしてきたことが恥ずかしく感じられる。
「……ごめん」
ユウナは今までの行いを思い出してつぶやいた。
自分が何もしなくても他人には迷惑をかけていないと思ってきた。
でも実際には違うんだ。
クラス行事で怠ければその分誰かが働かないといけない。
勉強を怠ればその分クラス全体の成績が悪くなる。
ユウナは今までそんなふうに物事を考えたことがなかったのだ。
自分がよければそれでいい。
そう思って過ごしてきて、そしてイジメられるようになるとイジメっ子のせいにした。
でもこうして話をしてみると少しだけ違う景色が見えてきた。
「ううん。私達こそごめん。どんなことがあってもイジメなんてしちゃいけなかった」
「努力すればできるようになることが、ユウナにはたくさんある。それを伝えたかっただけなの」
2人の目から大粒の涙がこぼれ出すので、ユウナも思わず泣いてしまった。
「私にも、勉強とか運動とか、できるかな?」
質問すると、2人共同時に泣き笑いを浮かべて「もちろんだよ!」と、頷いたのだった。
☆☆☆
それからのユウナはもう真実の電話になんて行かなくなった。
そんな電話で真実を聞かなくても、一番仲のいい2人はいつでもそばにいてくれる。
2人がたくさん教えてくれる分、ユウナもたくさん努力をして、できることが増えてくる。
「ユウナ!」
体育館のバレーボールコートの中、キミに声をかけられてユウナは高く飛んだ。
その右手はバレーボールに当たり、相手コートに勢いよく飛んでいく。
ボールは相手チームの手をすり抜けてコート内に落下した。
「やったぁ!!」
点数が入った瞬間3人は笑顔でハイタッチを交わしたのだった。
☆☆☆
こんにちは闇夜ヨルです。
今回も2つの恐怖体験を読んでいただきましたが、いかがでしたか?
ユウナちゃんはようやく自分で努力することを覚えたみたいですね。
卑屈になるまでにもう少しだけ努力を続けてみれば、いい未来が待っているかもしれません。
みなさまも、諦めてしまいそうなことがあるときはユウナちゃんのことを思い出して少しだけ頑張ってみてもいいかもしれませんね。
それではまた、次の恐怖体験でお会いしましょう。
END
闇夜ヨルの恐怖記録 4 西羽咲 花月 @katsuki03
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