第30話

☆☆☆


昨日はせっかく山の中に入っていったのに有力な情報を得ることはできなかった。



そのことに苛立ちながらもユウナは学校へ向かった。



イライラしてしまって今日も授業はあまり身に入らないかもしれない。



でも大丈夫。



今度また真実の電話へ行って今度こそ有力な情報を手に入れる。



そしてキミを陥れてやるんだ。



そうすればまた勉強に集中することができるはずだから。



自分にそう言い聞かせながら教室へ入ると、途端にクラスメートたちからの視線を感じて立ち止まった。



「おはよう」



と声をかけてみるけれど、帰ってくるのは笑い声だけだった。



いつもと違う雰囲気の教室に疑問をいだきつつ自分の机へ向かうと、そこにマジックでなにかが書かれているのがわかった。



一瞬イジメられていたときのことを思い出す。



机に書かれたバカとかアホという文字がフラッシュバッックする。



そんな、まさかまた――?



そう思ったが、書かれていたのは全く違う言葉だった。



ユウナは小学校の教室でおもらしをした。



そう書かれているのだ。



ユウナは口をポカンと開けてその文字を見つめる。



確かにユウナは小学校の頃授業中に我慢できなくておもらしをしてしまったことがある。



けれどそれは小学1年生の頃の話だ。



こんな昔のこと、一体誰が……?



教室内を見回してみてもみんなクスクスと笑うばかりでユウナに近づいて来ようとしない。



勉強を教えてくれていた子も、同じように笑っている。



途端に胸の中に真っ黒なモヤのような感情が湧き上がってくる。



誰がこんなことをしたのか突き止めたい。



そしてやり返さないといけないという感情。



そうしないと自分はまたイジメっ子に逆戻りしてしまうという、焦り。



「これは小学校1年生の頃のことだよ」



ユウナは誰とにもなく声をかける。



「こんなに昔のことで、今更笑われたりしたくない」




しかし弁解すればするほど笑い声は大きくなっていく。



どうすればいいんだろう。



下唇を噛み締めたとき、雑巾が差し出された。



ハッして顔を上げるとそこには雑巾を持ったサエとキミの2人が立っていた。



「……あんたたちがしたの?」



震える声で質問すると2人は同時に頷いた。



ユウナの鼓動は早くなり、背中に冷や汗が流れていく。



雑巾を受け取ることもできずに立ち尽くしていると、サエが机の上をふき始めた。



「どうしてこのことを知ってたの?」



「昨日、あんたの後を付けてたの」



答えたのはキミだった。



「え!?」



予想外の言葉に咄嗟に反応することができず、ただ口を開けて立ちすくむ。



キミもサエもほとんど無表情の状態でユウナを見つめていた。



それは睨まれているよりもよほど威圧的で恐ろしさを感じるものだった。



「私たちの噂を流したのが誰なのか調べてみた。でも、誰も違うって言って教えてくれなかった」



キミの言葉にユウナは無理矢理に笑顔を作った。



「それはきっとみんなが嘘をついているんだよ。だって、自分がやったってバレたくないから」



「最初はそうだと思った。けれど、私が万引したときに一緒にあの店にいたのは、あんただけ」



サエが雑巾を使う手を止めて顔を上げた。



その目に射すくめられそうになってユウナはゴクリと唾を飲み込む。



今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。



だけど足がすくんで逃げ出すことさえ難しかった。



「写真とってばら撒いたのがユウナだとしても、どうして万引しているのがわかったのか不思議だった。あんな決定的な写真、そうそう撮れないから」



ユウナはもうなにも言えなかった。



確かにサエの言う通りだったからだ。



「それでユウナを徹底的にマークしてたの」



続けていったのはキミだった。



きっと2人して自分の知らないところで後を付けてきていたのだろう。



そして、真実の電話にたどり着いた。



あの電話にたどり着いてユウナの様子を見ていた2人は、きっとユウナと同じようなことをしたのだろう。



そして、ユウナの恥ずかしい過去を知った。



そう理解した瞬間ユウナはふっと息を吐き出した。



結局こういうことになるんだ。



自分はどこまで行ってもイジメられっ子で、それは変わることがなくて、成績だってきっとガタ落ちしてしまう。



あの電話は1人1日1回までしか使うことができない。



ユウナは1人。



サエとキミは2人いるから、好きなだけユウナの過去や本心を暴き出すことができる。



もう、勝ち目がないことはわかっていた。

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