第7話 厄日

     七


 うさぎのあさはやい方だろう。

 ペットのねこが、とばりけはじめに、行動こうどう活発化かっぱつかさせるからである。

 人間にんげんているあいだは、自粛じしゅくしているのだろう。まどけたことでからだの上にり、こされる。まどけてぐに二度にどするが、うなるようにはっするこえを、ながせないでいた。


 その日は何時いつもちがよそおいで、凶日やくびおしええていた。むしらせなどと同じたぐいだが、だい六感ろっかんそなえているのがひとである。

 不穏ふおんうつらないが、身体からだまとわり電磁波でんじはが、それをおしえていた。


 うさぎはけの明星みょうじょうさがした。―が、この時期じきに見える明星みょうじょうは、よいであった。


 ねこうながされて、宇宙そらをやった。薄曇うすくもり出された宇宙そらは、電磁波でんじはによりかたちえて、意思表示いしひょうじしめしていた。


 電磁波でんじはおしえていたのは『つまずきに注意ちゅうい』である。ひとつまずいてみるきもの。失敗することで、身にまされる。経験けいけんとしてきざまれることで、防衛ぼうえい機能きのうはたらき、かてとなるのだ。


 半信半疑はんしんはんぎ午前中ごぜんちゅうのシャトル業務ぎょうむえて、たりまえ日常にちじょうもどっていた。

 むかえは、わすれに注意ちゅういる。時間をわすれて遊びに熱中ねっちゅうする子供こどもたちをさがして、バスに気付かせるからである。ちがう考え方の運転手たちは、とりこぼさないために、おくらせてはしものもいるが、レッスンにおくれることはご法度はっとだった。


 気持きもちはわかっても、仲良なかよくなれば、てしてあまくなるもの。社会しゃかい荒波あらなみえるために、ルールをけることをおしえたかった。うさぎ自身じしんらぬに、むち施行しこうされていた。妄想もうそうられている瞬間しゅんかんに、女の子がけつまいて、出入口のとびらあたまをぶつけていた。


 うさぎは運転席から手をばした。女の子は自責じせきねんかおゆがめている。まわりに人はなく、自力じりきき上がった。

「大丈夫?、あやちゃん」

 仲良なかよしの女の子がいていた。

「ありがとう。ぶつけたとこ、ちょっといたいけれど大丈夫だいじょうぶ


 うさぎは、その会話をぬすき、えず安堵あんどした。

 だが

『ぶつけたんだからいたいにまっているでしょっ』という思念しねん傍受ぼうじゅした。

 もしや、っとおもったのは、次妹のむすめである、理性りせいに気付いたからである。


 ギリシャ神話しんわではデメテルのむすめが、ハデスにさらわれて、地獄じごくつながる洞窟どうくつはなしがある。


 日本にほん神話しんわでは、天岩戸あまのいわとこもり、人々ひとびとさわぎでてくるはなしがある。まつりの発祥といわれる風習ふうしゅう祈願きがんではなくて、神々かみがみと人との交流こうりゅうをさしていた。


 たしかにまつりとまつりのちがいはあるにせよ、神と人とのまじわりががれていることにわりはない。


 理性りせいについて説明せつめいしておこう。


 次妹の分身ぶんしん理性りせいは、神の見習みないの天使てんしである。感性かんせいけづり神々を誕生たんじょうさせたように、次妹から分割ぶんかつされた理性は、神の子だ。ただし、神の子でも、かならず神にれるとはかぎらない。汎用ぼんよう資質ししつ判定はんていされれば、原点回帰げんてんかいきされてしまう。

 人は、まれ成長せいちょうして物心ものごころをつけるが、神は生まれたその瞬間しゅんかんから記憶きおくができる。人は成人せいじんして大人おとなとなるが、神の子は規程きていたっしないかぎり、神に成れないのだ。潜在せんざい能力のうりょくわせておらず、みずからの成長せいちょうぶんだけが、評価ひょうかされてステップアップするのである。そこにあるのは、かえるの子は蛙ではない、ということだ。

 ただ、そばる神々をているだけに、その品行ひんこうおのずとてくるものだから、善悪ぜんあく二極にきょくせいってしまう。言葉ことばづかいがわるい、というのが一般的いっぱんてきだった。それを勘違かんちがいした人間が、傲慢ごうまん生業なりわいにしたことは、必然的ひつぜんてきだった。


『今回の試練しれんはなんなんですか、理性さん』

『・・・、どうして、あたしとわかったのかしら』

『ひとことおおいのが、理性さんの特質とくしつでしょう。人にかぎらず、なくてななくせあって四十八しじゅうはちくせ、というのが、生命体せいめいたい生態系せいたいけいですからね』

『そうだとして、あたしと限定げんていする根拠こんきょはなに』

おもみに左右さゆうされる理性は、たもつつのが容易ようい(妖異ようい)ではないですからね』

『そんなもんかしら?』

おのれりなさい、って、次妹さんによく、われませんか』

『謂われるけれど、だからどうしろと謂うのよ』

『知るからこそ、最悪さいあく回避かいひできるんです。りない経験けいけんは、知性そうぞうでカバーするんです。だから次妹さんから分離きりはなされたんです』

『あたしが、次妹ははさまおぎなうなんて無理おかどちがいよ』

『今は、というだけです。だから見習みならいなんです。五弟おじさんがけるのは、良心りょうしんであって、バカにしているわけではないんです』

『そういう赤瞳こそ、あたしをみくだしてるんじゃないの』

『私がですか? 私はただ、円滑せいじょう成長のびしろ見定みさだめているんです』

ものいようね』

『? 結果けっかかならいてまわります。生い立ちにかぎらず、正否よしあしは、本人のかてりますからね』

経験じかくしたような言い回しはやめなさい。高々たかだか人の身分なりのくせに』

『それでも、千里眼せんりがんち、神々との遜色そんしょくはないですし、宇宙てん意志いし代弁こうひょうできます』

『だから?なに』

『ならば、原点回帰げんてんかいきされるといです。神々にしても、天使てんしにしても、人間にしても、いててるほどますからね』

『それは、感性様が決めること。赤瞳にはできないでしょう』

 うさぎは少し呆れてしまい、言葉つづきを無くしていた。


能書のうがきはそれくらいにしておきなさい、理性、感性様のいしぐものよ。赤瞳は、せいたいるがゆえに、主素しゅそを取り込まないの。生命いのち尊重だいじにする理由わけは、規格じようげん以上いじょう動力源エネルギーるからよ』


次妹はは様、どうして赤瞳のかたつのです?』


『それは、赤瞳が、感性様の心から分離した魂だからです。控目シャイ特質せいかくは、女神おねえさまの目指す、理想いただきなんですよ。しを笑顔えがおはなせる場所せかい。だから身分おいたちなんて必要いらないし、永遠とわなのよ』


きもめいじておきます』

『ありがとうございました、次妹さん』

『どういたしまして、赤瞳。かけはしとなる色合いろあいも、純真じゅんしんなほどはっきりしますからね』

 次妹の言葉が、理性の心をつらぬいていた。




 

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