第10話 今が煌めく理由

     十


 少女かのじょたちの心には、何がうつっているのだろう。


 うさぎは疑問ぎもんを、少女ほんにんたちにけないでいた。想像そうぞうしたものが、未来みらいへそのままつながる。そんな気が、しなかったからである。


「ねえ、運転手さん?」

「なんだい、みわちゃん」

「どうして六弟ゼウスさんは、悪戯いたずらまがいのわるさをして、女神様たちをこまらせるのかなぁ?」

「? 多分だけど、家族だからじゃないかなぁ」

「家族って、そういうものなの?」

「運転手さんは、そうおもうよ」

 うさぎは言って、そらげた。


「みわちゃんは、当たり前の日常って、退屈たいくつかなぁ?」

「当たり前の日常って、同じことのかえしだから、刺激しげきしい時もあるかなぁ」

「その刺激しげきが、六弟ゼウスさんの悪さだとしたら、どう?」

「ん~、ちょっとやりぎかもれないなぁ」

「やり過ぎかぁ? だけどさぁ、人間が知恵ちえ使つかみち間違まちがっていたら、わる見本みほんせれば、選択肢せんたくしを間違わない、とはかんがえられないかなぁ」

「私は、真似まねしないけど、男の子だったら、真似しちゃうんじゃないかなぁ?」

「人それぞれだからね。でもさぁ、それをヒントにすれば、方向ほうこうせいだけは間違わないんじゃないかなぁ?」

「かも知れないね。それで今回は、どんな話しをかせてくれるの?」

「どうして?」

「せいらちゃんに、乙女おとめの話しをしたからね」

「乙女の話しが聴きたかったの?」

 みわは、笑顔えがおせてうなずいた。


 乙女は、卑弥呼ひみこ神武じんむ天皇てんのうおくった秘宝ひほうである。


 こころやさしい神武天皇は、神の知恵ちえ人間にんげんさずける役割やくわりにない、人との交流こうりゅう実行じっこうした神様である。

 エジプトではそれを壁画へきがのこしているが、どちらも知恵ちえ使つかかたを間違え、神々かみがみ地上ちじょうわれる羽目はめになっていた。賢者けんじゃないことが、元凶げんきょうるべきだろう。それに気づいた卑弥呼は、ヘスティアと名乗っていた時代じだいにタイムスリップしてまで、みちびいた魑魅魍魎ちみもうりょう退治たいじすることをめた。百鬼夜行ひゃっきやこうつらなった悪霊あくりょうを、人間にんげんからとおけたのだ。


 乙女は、未来みらいうつかがみであることは、前説まえつづったが、心にきざまれた記憶きおくために、地縛霊じばくれいの中に姿すがたひそめた悪霊あくりょうたちの姿すがたを、あらわにしたのは、そのためだった。いわくとなったのろいもこれで、されてゆくだろう。ここまですれば、神と人との交流こうりゅう正常化せいじょうかいたるはず。後は、られた系譜けいふただすだけだ。しかしそれは、権力けんりょく象徴しょうちょうでもあり、容易たやくはない。


 それでも人は、野蛮やばんけもの過去かこり、あらそうことを、わらせることはない。本能ほんのうの中にかくされた闘争とうそうしんわせているからだ。其処そこにある甲乙こうおつは、特権とっけん階級かいきゅうなるものをし、軍国ぐんこく主義しゅぎなる思想しそう確立かくりつさせる。所謂いわゆるそれは、思い込みの範疇はんちゅうず、かたまった差別さべつとなえることになる。それを見越みこした創成そうせいぬしは、寿命じゅみょうという限界げんかいあたえた。そうなると、価値かちというくだらないはかりし、命乞いのちごいにまで発展はってんする。

 いつの時代じだいにもるはずの賢人けんじんは、世情せじょう翻弄ほんろうされ、うつつまぼろし狭間はざまとじこめられてしまう。いつしかれを風潮ふうちょうび、おなあなむじながる。

 それでも人は、健気けなげなりに努力どりょくかさねるから、創世主や神々から、可能性のある『未完みかん大器たいき』とたたえられる。そういう健気な心をみにじるように、傲慢ごうまんが、蔓延まんえんされてゆく。

 すくいの手も何時いつしか、すくいの手にさまわりして、気付いた時に、人のわる。だから、うさぎが、乙女を割り処分しょぶんしていた。

 未来みらいは変えられる。悪いものと知った以上、変えるしかなかったのである。


「だったら、善悪ぜんあく基準きじゅんおしえてしいなぁ?」

 みわは幼いなりに、真摯しんしに向き合っていた。

「運転手さんは、正義せいぎなんてない、とおもっているんだ」

「悪だけってこと?」

「そうだよ」

「ならなんで、ヒーローやヒロインをつくり出すの?」

「それは、人間が弱い生き物だからだよ」

「それだと、ヒーローも弱いってことにならないかなぁ」

「それは、違うよ。人は自分に甘く、他人にきびしいよね?」

「自分にあまいのはわかるけど、他人ひときびしくして、なんの特があるの?」

「みわちゃんは、自分にご褒美ほうびをあげたことない?」

「・・・」

はたらいてないもんね。ご褒美ほうびって色々さまざまあって、わけも、ご褒美のひとつなんだよ」

「・・・」

「ごめんごめん、純真きまじめな心の持ち主だから、言い訳なんて、したことないよね?」

「? ないこともないけど・・・」

いんだ、大人おとなってね、心を犠牲ぎせいにしてなるものなんだよ」

「どうして?」

報酬ほうしゅうっていって、我慢がまんして賃金ほうしゅうもらうからさ。お金が平等びょうどうなのは、其処そこわる知恵ぢえ介入かいにゅうできるからなんだよ」

平等びょうどうじゃないの?」

「介入するのは価値観かちかんというもので、代価たいかとしては杜撰ずさんすぎる代物ものなのさ」

「・・・???」

「公平と言われるもの程、理不尽りふじんはたらき、人それぞれの理念りねんねじまげげられるんだ。そうやってつくられた現世せかいが、不条理ふじょうり現在いまなんだよ」

むずかしいんだね」

「正義を悪にすることなんて、差程さほど難しくないし、無茶苦茶むちゃくちゃ道理どうりには、権威けんいを後ろだてにするだけで、万民ばんみん信用しんようするからね」

「それが、権威なの?」

「する人によって悪になることなんて、あってはいけないことだもんね」

だれのことなの?」

善人ぜんにん悪人あくにん表裏おもてうらってことさ」

神様かみさま悪魔あくま? かなぁ」

「その両方とも、人間の中に備蓄きおくしているってことなのさ」

「だとしたら、どうやって見分けるの?」

「それが、千里眼と呼ばれる心の眼なのさ」

「それを運転手さんは、眼にうつらないものをるようにしようね、って言う訳なんだね」

「そういうこと」

「誰にでもできないよね、れって?」

「大人たちには無理だろうけど、子供たちにはできる可能性があるのさ。だから運転手さんは、子供みんなの瞳にうったえかけるんだ」

こわいほど真直まっすぐに、ね!」

「心にひびかせる為だからしょうがないのさ」

 みわ言って、笑顔にひかりともしていた。

 うさぎはその光を培養して、電磁波に乗せた。それは雲間くもまから日光ひかりのぞかせるように、宇宙そらてまでもさかのぼっていく。一縷いちる希望のぞみはそうやって、万物せいめいははもといざなわれる。そのご褒美ほうびみらいであり、電磁波ながれり、下界ちじょうそそがれる。


 この世の華は

 純真無垢な色合いで

 平等に降り注いでいる


 人がそれに気付くことはなかり



                    完



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先読み うさぎ赤瞳 @akameusagh

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