第9話 心を失くした神

     九


 現世げんせもどり、うさぎは途方とほうれていた。


 六弟ゼウス足掻あがきにおこなったのは、ひとうつらない、化学反応かがくはんのうまがいであった。

 うつらない地縛霊じばくれいが、地下じごくからきだす細菌さいきん・ウイルスを取り込んで、ゾンビ形成けいせいさせていた。無理矢理むりやり結合けつごうさせるわざを、磁力じりょくでやって成功けた。


 分解ぶんかいされたはず細胞さいぼう復元ふくげんさせることが出来るのは、感性そうせいぬしだけだった。れを意図いと容易かんたんにやってけたのは、魔法まほうでしかない。魔法といっても、きょくのN極とS極をつなあわせたものでしかない。そのために、通常つじょうの人のうごきには、かぎりなくほどとおく、粗末そまつなものだった。


万能ばんのうかみと云っても、ただの真似まねでしかないということか? 悪魔サタンたましいわたしたのかなぁ』

 うさぎが問答もんどううつつかしているや、いな

赤瞳あひととき粛正しゅくせいを甘くては駄目だめですよ。用心ようじんしたことはないですから、こころしてかかりなさい』と、感性からの思念つうたつとどいた。


 うさぎはれをきもめい

次妹デメテルさん、みわちゃんが必要ひつようです。宿やどえしてください』と、思念を送った。

 れを傍受ぬすみぎきした理性が

『あたしは?』と、ししゃり出てきた。

現状こんかいは、正義感せいぎかん必要ひつようです。理性さんは、あおいちゃんに宿やどってもらえませんか?』

『解った、ってみる』



 その日は、水曜日であった。

 うさぎは発目はつめ運行うんこうえ、さん発目はつめ準備じゅんびをしていた。そこへ

勝負しょうぶつぎかいいのかしら?』と、理性りせいからの思念しねんとどいた。どうやら、とどこおりなく、降臨こうりんできたようである。

 うさぎは、ほっとして、かおほころばせた。

 あおいに居並いならび、ともかが、あどけない笑顔えがおのぞかせている。

卑弥呼ひみこさんも準備じゅんび良好オーケーのようですね!?』

はだう、とでもうのでしょうか。純心じゅんしんゆえに、心地ごこちいわ』

心地ここちさの裏側かげには、辛辣しんらつ正義感せいぎかんかくれています。鬼神力おにがみのちからは、神々かみがみこそるべきなんですよ』


 三発目に

「『お久しぶりですね、運転手さん』」と言って、みわが乗車じょうしゃしてきた。あやしげな笑顔えがおたずさえて、ふくわらいで、うさぎのこころ翻弄もてあそんでいるようだった。1/2《はんぶん》少女しょうじょで、1/2女神めがみあやしさは、こころしんき立てるようで、うるおしくもあった。

 つづいて

「『こんにちは。デレデレはなしたばしてちゃ、事故じこっちゃいますよ』」と、同じように、女神を半分はんぶん宿やどす、せいらが大人おとな小馬鹿からかう。その小悪魔こあくまささやきに、うさぎも必然的ひつぜんてきわれかえる。


 全員えんじゃそろい、行動まくがった。

 磁極じきょくかさなった細胞さいぼうの、つくろうための皮膚ひふは、びてなく、蒼白そうはくであった。れなりに知恵ちえってか、警戒ばれることをってか、まぎれるため言葉かいわもなく、通行人エキストラよそおって、ひとみにゾンビ特定みつける(する)ことは容易かんたんだった。


 うさぎはちかづき、微量びりょう思念しねんおく

南無なむ~!!」と、ねんじた。

 それで、ボロボロと、ゾンビくずれた。

簡単かんたんじゃない?』

 理性が、れをて、咄嗟とっさはっした。

ゾンビは、この一体だけじゃないのよ。無限むげんだったらどうするのよ?』

 次妹が、理性をたしなめた。

『赤瞳。電磁でんじかご磁力じりょくで、ぞんびあつめられないの?』

「そうすると、磁場じばくるいます」

神々かみがみ思念しねんで、電磁波のながれをえて、誘導ゆうどうできないかしら?』

一時いっときなら問題もんだいないでしょう。しかし、・・・?』

『しかし、なんですか、女神様?』

くもが、とうせいうしないます。それに、人のうつらない、量子りょうしせきくずれます」

『一時だけなのよ? かぜ利用りようして、ぐにもともどせばいでしょ』

れが出来できれば、矯正きょうせいりょく抑制よくせいできます。一度いちどたがはずしたながれを元に戻すには、重力じゅうりょく引力いんりょく割合きんこうを変えなくては駄目だめなんです」

『ですよね?』

『ですよね、って、女神様?』

『どういうことか、さっぱりわかりません。理性あたしにも解るようにおしえてください』

地球ちきゅうは、地殻ちかく運動うんどうで、存続そんぞくできています。れを抑制よくせいするために、そうがあり、重力じゅうりょく引力いんりょく相互そうご関係かんけいたもたれています」

気圧きあつ配置はいちは、天候てんこう左右さゆうしているだけではなく、相互関係を維持いじするための効力こうりょくになっているのよ』

『だったら、オゾンホールのいた今は?』

天災わざわいが、驚異的きょういてきになっていますよね?」

たがはずれたからなの?』

ちから関係かんけいとは、そういうもの。神々と悪にしても同じことのかえし、ってことだもんね』

随分ずいぶんとお気楽きらくですね、三妹様?』

れをうならば、マンネリ化して、当たり前の日常になってしまった、です。極限きょくげん状態じょうたいひそいは、油断ゆだんまねきますから」

『そんなことよりも、どうするのよ?』

『一体づつ、電磁籠にむしかないわね!』

 次妹は言って、ゾンビを電磁籠に追い込んできた。

『ねぇ赤瞳』

「なんですか、三妹さん?」

『この一体を起極にして、他の屍を誘導できないかしら?』

「総てが同じ磁極なら可能です。地下から・・・??。押し出した電極が解れば、一網打尽にできるかも知れません」

『S極とN極よ。結界けっかい仕組へだたりは、その交互こうごじゅんならだんつくり、網目あみめにして撹乱かくらんしたものです』

こたえとは、身近みじかところにあるものですね、卑弥呼さん」

 うさぎは云って、砂鉄さてつあつはじめた。

『なにをするつもり、赤瞳?』

「卑弥呼さん、竜巻たつまきになるようなかぜを、思念でこして下さい」

 卑弥呼は、うさぎに云われるままに、思念を宇宙そらけて発射はっしゃした。

『私たちも!』

 次妹が、卑弥呼の出した思念にぶつけるように発射する。

 れをて、三妹もつづいた。

『三点よりも、四点よ、理性』

 卑弥呼にわれ、理性も思念を発射する。しかし見習いの力は弱く、うさぎが投げた砂鉄さてつごとときあたえたゆがみごとひとつにまとまり、はじけるように爆発ばくはつした。それで砂鉄が、時雨しぐれのようにそそぐ。

 常人じょうじんが出す電磁波に、砂鉄は引き寄せられない。だが磁力で構成こうせいされたゾンビには、砂鉄がいた。そうでなくても動作ののろゾンビは、その重量おもさに、身動みうごきできなくなった。後は、空気中くうきちゅうただよう電磁波にされる形で電磁籠におさまった。

 すると、瞳に映らない量子が勝手にえられ、電磁籠ごと地下へかえって行った。

 れを記憶にき付けることができたのは、女神が宿やどった純真じゅんしんな心を持つ幼戦士ヒロインたちだけだった。

 

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