第6話 湧き出した想い

     六


 レッスンをえた、みさきがいさんでもどって来て、一番前のせき荷物にもついた。


「ねぇ運転手さん。さっきの魔物まものたちって、どうやって生まれたの?」

 一応周りにかれないようにり出していて来た。

 レッスンに支障ししょうをきたさないため早期そうき解決かいけつはかったことで、ぎゃく疑問ぎもんたせてしまった。うさぎは成り行きとはいえ、困惑こんわくいろかくせないでいた。


「ねぇみさきちゃん。アイス食べたくない?」

 うさぎは、ほか子供こどもたちにかれないように、二人きりになれるようにれだそうとかんがえた。みさきはアイスにまどわされて

「食べたい」と言って、うさぎにつづいて車外しゃがいた。


感性かんせい(創世主そうせいぬし)が生まれたのが、何もない世界せかいへの疑問ぎもんだったらしいんだ。くらやみって、恐怖感きょうふかんを生むよね?」

 みさきは、ってもらった雪見ゆきみだいふくを食べながら、だまっていていた。


まわりになにもない状態じょうたいは、孤独感こどくかんしか生まない。それでも感性は、前向まえむきにかんがえることにつとめめたんだ。

 いやいやちがう、って身体からだきむしるうちに、情熱じょうねつ化学反応かがくはんのうみだして、誕生たんじょうしたのが、神々かみがみというわけらしいんだ。神様かみさまぜんという認識にんしきは、大人おとなたちが勝手かってった固定観念こていかんねんということなんだよ」


「固定観念って?」


おもみ、ってこと。神様かみさまだって悪意あくいつし、わるさもするんだよ」


人間にんげんおなじってこと?」


ものは、だいなりしょうなりわるいことをするものさ」


動物どうぶつだから?」


さかなだって、共食ともぐいするんだよ。生きるためには、手段しゅだんえらんでられないからね」


「生きるためなら、なにをしてもい、は、悪さになるの?」


「そこにあるものが生命いのちだからね。生きることは大変たいへんだから、れをすんだよ。みさきちゃんには、ゆあちゃんや、りうちゃん。それに、お父さんや、お母さんがいるよね」


家族かぞくだからね」


「このつながりのない人間にんげんないのさ」


はじまりまりは、感性ひとりだったのに?」


「だと想う。感性のなげきの吐息といきが、量子りょうしつくりだし、躍動やくどうが、とききざんだ、って、運転手さんは考えてるんだよ」


いてみればわかるんじゃない?」


「ずーとむかしのことだけど、おぼえていたらおしえてくれるかも知れないね」


「そんなに昔のことなの?」


地球ちきゅうができたのが、やく54億年おくねんまえで、ビッグバンが起きたのが、約153億年前らしい。それよりも前らしいけど、計上けいじょうできないと想う。ひとりりでいる時間は、途轍とてつもなくながいからね」


「運転手さんは前に、人の歴史れきしは1億年って言ったよね。今回こんかいさかのぼったのは、8000年前だよね?」


六弟ゼウスさんが、地球外ちきゅうがい生命体せいめいたいいつわったからね」


「そのいつわった時に辿たどけたのは何故なぜなの?」


「みさきちゃんの祖先が、神武天皇の子孫で、悪人たちからのろいをけられて、女の子しか生まれなくなったようだよ」


「それで、次妹つぎまいさんが、大門の血と言ったの?」


「神武天皇も、八百万やおよろず神々かみがみ一神ひとりだからね」


「私たち姉妹も、神様ってこと?」


「運転手さんにとっての、女神様」


「運転手さんだけ?」


「運転手さんしか、千里眼せんりがんを持っていないから、そのこと気付きづけないのさ」


「千里眼?」


「なんでも見える特別とくべつなんだよ」


「私も千里眼になりたい!」


こわいものも見えるんだよ?」


退治たいじすれば良いんでしょっ!」


「今は色々いろいろなことをまなび、様々さまざまなことを体験たいけんしよう。今しかできないことがるんだからね」


「なら、指切り拳万して!」


「しないよ」


「なんで」


はり千本せんぼんみたくないし、呑ます行為こうい悪行あくぎょうだからさ。神様と悪魔は、一対いっついって言ったよね」


「見えないものを知ることが大事なんだよね」


手懐てなづけるか、共存きょうぞんするかは、みさきちゃんが決めること。感性が、みさきちゃんをみとめれば、ゆめ誘導ゆうどうされて、身に付くものだからさ」


「運転手さんが教えてくれるんじゃないのか」


近道ちかみちはないのさ」


「認めてもらえるためには、なにをしたら良いの?」


「人間の可能性かのうせいは、努力どりょく持続じぞくだけだよ。でもね、休息きゅうそくは認められている。幸福しあわせな時間は絶対ぜったいに来るからね」


「幸福かぁ。今はまだ、良くわからないなぁ?」


「それが、人間が未熟とわれる所以ゆえんなんだ。失うまで判らなかったり、意地を張ったりしてしまうんだよね」


「ん~! それって、お姉ちゃんに反発はんぱつしちゃうことだよね」


「ライバルは、好敵手こうてきしゅって文字くことを、そのうちおそわるよ」


きってことなの?」


「おたがいにみとめているってことだよ」


「認めることは、好きってことなのかぁ」


きらいな人を認めたりしないからね。だから表裏おもてうらの一対なのさ。節分せつぶんかるように、悪さをしなければ、おにさんこちら手のほうへ、ってなわけなのさ」


「だから一対いっついなのか。そう言えば、悪さをすると、鬼の形相ぎょうそうおこられるよね」


「それを、いずみ鏡花きょうかさんという人が、鬼神力おにがみのちからって文字もじったんだ」


「泉鏡花さんって人?」


「本名は、泉鏡太郎さん。小説家しょうせつかさんなんだよ」


「運転手さんと同業者ってことなの?」


「それでごはんを食べられる人は先生ってばれるのさ。運転手さんはご飯を食べられないから、なんちゃって小説家なんだよ」


「それでも、千里眼を持ってるよね?」


感性かんせいかあさんからのご褒美ごほうびだからね」


「感性が、お母さんなのかぁ」


「総ての人の、母さんだよ。だから、運転手さんと、みさきちゃんは、親戚なのさ!」


「だったら、自分みさきにご褒美をあげられるよね?」


「そうさ、だからアイスを買ってあげたのさ。そのうら表紙びょうしに、雪見うさぎって印刷いんさつしてあるはずだよ」

 みさきは、うさぎに言われるままに、裏表紙をめくっていた。


「だから、自分みさきが食べるところを見守ってくれていたのかぁ」


「そういうこと。さぁ、みんなっているから行こう」

 うさぎは言って立ち上がった。

 みさきも納得なっとくして後にいて、バスに帰還きかんした。


 創世そうせいが感性だから、すべてのものが存在そんざいする。きざまれた時間じかん記憶きおくさかのぼれば、おのずと辿たどけるものである。しるしとなった足跡あしあとには、見えないものも存在そんざいするが、見えなくてもあることを知ってしい。

 いだ理由は様々さまざまでも、感性かんせいだけは、すべてのものがはぐくんだものだからだ。

 えてしまったものたちのおもいにこたえることは、その責任せきにんることなのだ。

 いま過去かこになることを知ってしい。

 おもいをはぐくめば、個性こせいという色合いろあいがひろがるのだ。それらがきらめくことをねがうしかできないことが、うさぎのらすなげきだった。

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