破章の本筋である梶火と熊掌についての補足と解説
ここで少し、本章のメインである
舞台は
その様子は邑のものとは大きく異なります。
***
が、その先がまるで違った。
果てなき遠景には銀の砂漠に金の河がある。更にその果てを、金剛の如き荒々しい
***
この描写が、舞台となる国の統治地区を示す風景となります。
本作『
五百年前までは、
瓊環は月の裏側に位置する
肯定側は主に、宮廷側、瓊高臼、禁軍、黄師、貴族などとされていますが、その中には臨赤(赤玉帰還を望む信仰集団)の信徒が多数紛れ込んでいます。よってその実質は定かではありません。
倒朝祈願側は廂軍を主体とした臨赤、民衆とされていますが、彼等の感情は月如艶に対する叛意に合わせ、死屍散華を持ち込み広げる原因となった五邑に対する敵視が主である層も含み、やはり一枚岩ではありませんでした。
この感情的な問題を改善したのが、本章で描かれた通り、臨赤の頂点にまでのぼりつめた
五邑である彼が成りあがることに成功したのは、最初にコンタクトをとったのが
本人自身の努力と成長もさることながら、周囲から与えられた環境と条件によって自らは作り上げられたカリスマだと彼は理解しています。故に、臨赤の長として成り上がった彼は
しかし、そんな彼の駆け上がってゆく様子を目の当たりにしながら、自らは人質同然となった父・東馬や瀛洲を護るべく、隷属の立場に身をやつしていた
結果、熊掌は梶火から向けられる尊崇と恋愛感情を利用しました。
決して自分から離れないよう、裏切らないよう、より強固な結びつきであるという形を作るために男女の関係になってゆきます。
これがある種の打算を含むものであることは梶火も理解しつつ、それでも忠誠と感情を示すために関係を進めずにはいられませんでした。
打算から始まったものは、やがてその性質を変えてゆきました。熊掌は梶火に対して執着と愛情を育てて行きますが、反対に梶火は悟堂不在の隙をついて、熊掌を横取りしたという罪悪感と、所詮自分は熊掌にとって唯一無二の存在ではなく、悟堂の代わりに置いた有意義な戦力に過ぎないという鬱屈をつのらせます。
結果、
実力人望共に、頂点に立つに相応しい人物である熊掌と、その片腕たらんと研鑽した梶火の二人は、その思いをすれ違わせたまま、時代が大きく変わる瞬間に向かってゆきます。
『自らの立場を護るために、男と権力を利用する女。』
熊掌が作中で瑠璃に対して抱いた侮蔑と嫌悪は、一言でいえばこれに尽きるものでした。そしてこの論は正しく熊掌自身にも向くものでしたが、彼はまだその事に気付いていません。
なぜなら、熊掌自身の自認は男性であるからです。
女として社会的に扱われる事、その枠にはめられる事を不当と受け止めるのは、結局自らは男であるという認識が彼にはあるからです。
これは転じて言えば、熊掌の中には『自らは男であるから(この扱いは)不当である』という無自覚な女性蔑視があり、『女性ならばこの隷属に甘んじる事もあるであろう』という思考があるからです。
『自分は違うのに』というのは『自分が女性として受け止められるのは間違っている』と考えているという事です。これは『男性』として扱われ育った自らと、しかし実際の自分の身体は女性の形をしているという実情の乖離も大きく原因としてありますが、なによりも熊掌の中には、
『男性』は尊厳を持ちうる『人間』であり、『女性』は尊厳を持ちうる『人間』ではない。
という社会的価値観があるという事実を反映したものとなります。
熊掌は決して完璧で公平な人間ではありません。『女性』とは自認できず、『女性』として扱われたくないと思いながら、彼が梶火に対して
どちらも『人間』が社会的生存戦略として行っている事です。
しかし熊掌は自らが『女性』として見なされる事に対する忌避意識から、瑠璃の行為は女性特有の汚さ
しかし同じ事です。
『女性』を『人間』として見ていないという偏見です。
これは、熊掌という人間個人の価値観というものではなく、社会的価値観とはこうして個人に植え付けられ広がるものだという事を意味します。
本作は社会的強者と弱者のヒエラルキーが変動する様子を描いたものとなりますが、それは多分に男性原理的なものです。この基本構造に対して、裏に隠されがちな『歴史的な女性の扱われ方と見なされ方』を浮かび上がらせるために登場人物のドラマを配しました。
空気感だけでも伝わっていればよいのですが、と願います。
なお、梶火と騎久瑠を結び付けたのが
【ミトさんでもわかった!】しらたまパーフェクトガイドブック 珠邑ミト @mitotamamura
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