心乱れやすい題材を書き上げる力に敬服

老いは平生の心や思考を失わせやすいものと私は思います。
近しい人が変わって行く、それだけでも初めての経験の時は戸惑いがちですが、迷うことさえ許さない現実が次々と起き、愛情は摩耗して見え難くなります。自分に降りかかる困難に刺激された感覚の方がどうしても強烈です。
きっと作者様も現実には様々な思いがおありでしょう。或いは、瞬間的な激しい感情を切り取って物語にする選択肢もあったかもしれません。
ですが、今回は激流を半歩引いた目線で書こうとされ、見失いたくないものを最後まで見つめ続けていらっしゃるところに大人びた力量を私は感じました。
介護という視点ではお若い作者様を心配してしまう気持も大きいのですが、幾つになっても穏やかに対応し難い身内の老いの言語化という視点では敬意を表したいです。

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