第40話

「アリスがうちの店で彼氏を作りたいと言っているの」



その相談にキユナは驚いたが、やはりアリスの好きにさせてみることにした。



代金はキユナが払うことにした。



そして、今……。



「ケンタはイジメられていた私に優しくしてくれたの」



キユナとアリスは、キユナの部屋にいた。



丸いテーブルを挟んで向かい合って座っている。



「ケンタと付き合い初めてイジメもなくなって、クラスに打ち解けられるようになった。だからアリスのことをないがしろにしてしまったときもあるかもしれない」



キユナは大きく息を吐き出して、申し訳なさそうにアリスの手を握りしめる。



「だから、アリスが言うことをきかなくなったのは私のせい」



そこまで聞いてもアリスは信じられなかった。



握りしめられている自分の手を見つめるが、キユナの手となにも変わらない。



「そんなの嘘。私がクローンだなんて!」



「落ち着いてアリス。よく聞いて? あなたの首の後の数字はなに?」



その質問にアリスは弾かれたように自分の首に触れた。



そうだ。



クローンならここに期限が書かれているはずだ。



人間としていられる期限が。



そう思った次の瞬間20☓☓625という数字が脳裏に浮かんできた。



それはカイに書かれていた日付と同じで、そして今日だった。



「20☓☓625」



アリスは自分の声が機械的にそう告げるのを聞いた。



それは自分の声なのに、まるで他人のもののようで怖かった。



「そう。あなたも今日いなくなる」



キユナがアリスの体を抱きしめる。



私も今日消える?



カイのようにドロドロに溶けて、跡形もなく地面に吸い込まれてしまう?



恐怖が湧き上がり、それから逃れようとしてキユナを突き飛ばす。



とにかくこの部屋から出ようとドアへ向けて走ったとき、突然足が動かなくなった。



それは地面に張り付いてしまったかのように動かない。



どうして!?



恐る恐る足元へ視線を向けると、アリスの足は黒ずんで解け始めていたのだ。



「い、いやあああ!!」



悲鳴をあげてその場にうずくまると、足が地面に吸い込まれていくのがわかった。



「アリス、大丈夫だから!」



キユナが懸命にアリスの体を抱きしめる。



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!



死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!



アリスはキユナの体にすがりつき、必死に左右に首をふる。



そのとき自分の頬の肉が溶け出していて周囲に飛び散るのを見た。



「ごめんねアリス恐いよね。普通のクローンは自分が消えるときも怖くないらしいの。だけどあなたは特別だった。ごめん、本当にごめん」



あぁ……。



恐いよ恐いよ恐いよ恐いよ。



そう伝えようとしても、喉の奥が溶け出して声がでなかった。



キユナに抱きついている手がドロドロになって崩れていく。



体が解けた分だけ身長が低くなり、必死で見上げないとキユナの顔を見ることができなくなった。



キユナはボロボロと泣いていた。



公園で感じたあの悲しみを思い出す。



キユナも今あの悲しみを感じているはずだ。



アリスはキユナの涙を拭うために腕を伸ばす。



しかしその腕は途中で崩れ落ちて届くことはなかった。



やがて眼球が転げ落ち、そして全てが消え去った……。


☆☆☆


みなさまこんにちは、闇夜ヨルです。



まさか自分が作られた人間だったなんて。



アリスちゃんに訪れた悲劇は相当なものだったようです。



ですがキユナちゃんの方は彼氏に恵まれ、イジメもなくなり、今も幸せそうに過ごしているそうです。



あぁ、それと新しく入った情報では他校生の親友ができたそうで、それはアリスちゃんによく似た子だということです……。




END

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闇夜ヨルの恐怖記録 3 西羽咲 花月 @katsuki03

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