3話 制服とエプロン2

【月影シノブ視点】



 私は裸エプロンでナユタさんの前に現れました。


そんな私を見たナユタさんは、頬を紅潮させ鼻の下を「何かの発作ですか?」ってぐらいに伸ばしていました。



 あるいはみなさんなら……「やっぱシノブ“も“ムッツリの変態だったのか?ガッカリだぜ」と思っていらっしゃるかもしれませんが、もちろん決してそういう訳ではありません。


たしかにみなさんの予想どおり……“黒タイツ“……じゃ無かった、“姉“へのコンプレックスで私がこのような奇行に及んだのは確かだと思います。


料理をする為に服を脱ぐ必要はありませんからね。


でもこの時の私はそんなことより、せっかくナユタさんの性癖に刺さるようなエプロンを着けているのであれば、さらに魅力的な姿になってナユタさんに夢中になってもらいたいって思ったんです。


ユタさんが他の女の人にデレデレしない為にも、私は今このエプロンで、ナユタさんの性癖を歪めてしまおうと思ったんです。


つまり「攻めエプロン」です。忍者アイドルらしい「暗殺エプロン」です。


 しかしそんな私でも、いきなり裸になろうと思った訳ではありません。


私はナユタさんと違って、TPOを弁えずぶらぶらさせるような変態さんではありませんから。


だから下着だけは身につけるつもりでした。


つまりは、「パンツエプロン」程度で抑えるハズでした。


 でも私は、紺色の靴下を脱いでいる途中でふと気づきました——


「そういえばパンツエプロンで登場したらナユタさんのパンツァーが発動して時間が止まってしまい、時間停止中のナユタさんが『はぁはぁ』言いながら私に抱きついたり何かを押しつけたりするかも知れないです。

まぁ……それはそれでちょっと嬉しいかも?ですが……何を言わせるんですか。そうじゃ無いんです。

とにかくパンツエプロンは良く無いんです」


——って。


 ですから私は、ナユタさんのお家の狭いバスルームで意を決し、ピンクの横ストライプのパンツを脱ぎました。


衣擦れの音が狭いバスルームでやけに大きな音で聞こえます。


空気にさらされたお尻に鳥肌が立ちます。


前だけエプロンに覆われた裸の体は、とても心許ないです。


 てか、めちゃくちゃ恥ずかしいです。


ナユタさんにこの姿を見られるのを想像しただけで、耳まで赤くなりました。


なにせ「通常バージョンの私」は人に肌を見せることには、慣れていませんから……。


一瞬の後悔が頭をよぎります。


 ですが……このまま人の家のバスルームでエプロン一枚の半裸のまま潜んでいる訳にはいきません。


それこそいよいよ私の方が変態さん認定を受けてしまいますし……せっかくここまで準備をしたのなら……ナユタさんが喜ぶ顔が見たいって……思ってしまいました。



 そうやって私は意を決し、ナユタさんの目の前で裸エプロンを披露することにしました。


 ナユタさんの前に現れた私は、もじもじしながらも彼に聞きます。


「あ、あらためて……

どうでしょうか……?

 私の……

エプロン姿……」


 ナユタさんはしばらく唖然としているように見えましたが……すぐに鼻の下を伸ばして目元を緩めまくって呟きます。


「……きゃわいい……えろい……」


 そのナユタさんの表情を見て……私は不覚にも「かわいい」って思ってしまいました。


それでも、さらにもっと恥ずかしくなった私は思わず彼の目を見つめて言ってしまいます。


「ナユタさんの……へんたい……♡」


 そう言った私は台所に向かい、恥ずかしさ満点の状態のまま朝ご飯の支度を始めました。



 ……そしてそんな感じで、裸エプロンの3日目の朝が過ぎました。



 その日の朝も私はナユタさんのお家のお台所で、お味噌汁を作っていました。


私は後ろで正座するナユタさんに向かって言います。


「もうちょっと待ってくださいね?

 あともう少しで、お味噌汁ができ上がりますから……」


 どことなく上の空なナユタさんの返事がかえってきます。


「あ、ああ……」


 私は鼻歌混じりで料理を続けます。日々の修行の結果もあって、私の“バブみ料理“はそこそこの物となっていました。特に考えずとも調理を進めることができます。


だからすぐに二人分の朝食ができ上がりました。


 私はお盆にお皿とお椀を並べて、ナユタさんが座るちゃぶ台に配膳をします。


私の料理を見ながらナユタさんは言います。


「け、今朝も……なんかやたらとカラフルだな……」


 私はお椀を置きながら答えます。


「トムヤム味噌汁と塩鮭アクアパッツアとアボガドシュリンプ湯豆腐です。

 卵達(エッグス)で話題の料理ばかりです。

特にこのえびがプリプリしてて可愛くないですか?」


「ま、まあ……美味しそうか?と聞かれるとそんな気もするな……。

 それに確かに……プリプリしてて可愛い……」


と言ったナユタさんは、えびを見るふりをしてエプロンから覗く私の胸をチラッと……しかし確実にガン見しました。


 彼は私がその視線に気付いていないと思っているようですが……モロバレです。


てかだいたいの女性は男性の”そういう視線”に敏感です。すぐに気づきます。ですのでみなさんも女性の胸を見る時は注意してくださいね。


 そしてナユタさんは「いただきます」と言って、「ゴホゴホっ!!なんだこれ辛ッ!!すっぱっ!!いやでも……美味い気がする……か?」とか言いながらトムヤム味噌汁をすすり始めました。


 そんなここ三日間で変わらない朝の彼の様子を見た私は、ちょっと詰問するような口調で彼に問いかけます。


「……ナユタさん?

今、私のおっぱいを見ましたよね?」


 それを聞いたナユタさんは大きくむせます。


「ごほッ!!

ごほッ!!

うげほッ!!!

 ……さ、酸味と辛味が逆流して……マジで死ぬかと思った」


 私はちゃぶ台に身を乗り出します。


「ごまかさないでください」


「いや……誤魔化して無いんだが?

 マジで死にそうになったんだが……」


「私のお尻とかもガン見してましたよね??」


「そ、それは……

確かに……まあ……

見てはいたが……」


 さらに詰め寄ります。


「なんでいつもそうなんですか??」


「え……?何が??

も、もしかして……また変態さん認定か?」


「ナユタさんが変態さんなことは、もはや公然の事実です。

業界スタンダードです」


「ぎょ、業界スタンダード……」


「そんな事はもはやどうでも良いんです。

ナユタさんは変態さんの代名詞ですから」


「へ、変態の代名詞……」


「そんなことよりも私が言いたいのは……ナユタさんはどうしてここ三日間ずーーーっと!!

裸エプロンの私を見ているんですか!?!?」


 ナユタさんは私の胸元を見ながら言います。


「み、見ている……??

そ、それは……シノブがそんな格好をするから……」


 ナユタさんの視線に気付いた私はちょっと恥ずかしくなって、胸元を隠しながら言います。


「ち、ちがいます!!

私はそういうことを言っているんじゃ無いんです!!!

 どうして私がこんな『エッチ』……じゃなくて『恥ずかしい』格好をしているのに、ナユタさんは『見ているだけ』なんですか????」


「え……

それはどういう意味……」


「そ、それは……

ふ、二人で朝ごはんを食べて片付けをして、そのまま出勤して……『それだけで良いんですか?』って私は聞いているんです!!!

 わ、私が裸エプロンから制服に着替えて……ナ、ナナナナナユタさんは『何もしなくても良いのですか?』って聞いているんです!!!」


 驚いたナユタさんもキョドります。


「え、えええ!?

 な、なな『ナニもしなくても良い』って……も、ももしかして……それは……

俺がシノブにナ、ナナナニかしても良いってこと????」


 私は首まで赤くして言います。


「そ、そそそそそうです!!!

 ナ、ナナナユタさんは私に!

な、なななな『なにか』しても良いって言っているんです!!!!」


 ナユタさんもキョドったまま、しかしどこか気まずそうに聞きます。


「そ、その『ナニか』……ってもしかして?……」


 私は顔を真っ赤にして答えます。


「は、はい!

そ、そそそその『なにか』って言うのは、その……」


心臓がバクバクし過ぎて口から飛び出そうになりました。


半裸の姿も相まって恥ずかしくて死にそうです。


でも私は答えます。


俯いて私は答えます。


「そ、その……

『なにか』って言うのは……

そ、その……

ちゅ、『ちゅー』……とか……『私としなくても良いんですか』って……ナユタさんに聞いているんです……」

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オオエドパンツァー えいとら @nagatora

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