2話 制服とエプロン1

 「メゾン一国」という名のプレハブ長屋に俺が住んでいる話は、一度した事があると思う。


そんな俺の「城」は「一国」という名に反して汚くみすぼらしく、そして狭すぎる1Kだった。


 しかし「住めば都」という諺があるように、俺にとってはそこそこ愛着の湧いた、まあまあ快適な「城」だった。


たしかにその「城」は……酒瓶とゴミが散らばり、チャブ台にはバカデカいゲーミングPCと、バカ可愛い美少女フィギュアが陣取っており、足の踏み場も無い程にむさ苦しい空間ではあったが……しかし俺にとってはこの空間こそが唯一の「城」であり、慣れ親しんだ「一国」であったわけだ。


 そんな俺の「城」は今や、「美味しそうな匂い」と「持て余した性欲」に完全に蹂躙されていた……。



 チャブ台に座った俺の目の前で、「裸エプロン」で料理をするシノブが言う。


「もうちょっと待ってくださいね?

 あともう少しで、お味噌汁が出来上がりますから……」


 裸エプロンのシノブは鼻歌を歌いながら、料理を続けていた。


俺は蠱惑的に揺れる「シノブの生尻」をガン見しながら、生返事する。


「あ、ああ……」


あるいは”有識者“のお前たちなら、俺が「裸エプロン」と言った時点で、俺の目の前の絶景がAR拡張現実的に思い浮かび、「裸エプロン!うっほお!ぺろぺろ!」となるかもしれないが、待って欲しい。


「ぺろぺろ」は、俺の説明を聞いてからでも間に合うはずだ。


だから俺は目の前の「絶景」と「状況」について、”少しだけ“詳しく説明しようと思う。



 シノブの裸エプロンはその名のとおり、ガチで本物の裸エプロンだった。


つまり……見た目だけは正統派美少女の月影シノブが一糸も纏わぬ産まれたままの姿で、パステルピンクのエプロンだけをつけて俺の目の前で料理をしている訳だ。


裸エプロンのシノブの後ろ姿は、腰と肩の結び紐を除くと完全に全裸に見える。


その様子は、残念ながらハッキリ言って最高だった。


裸エプロンは俺達の妄想の産物だと思っていたが、まさか眼前に拝める日が来るとは予想だにしていなかった。生きている事に感謝するレベルだ。さすがの俺もぺろぺろしたいレベルだ。


 そして今のシノブは器用に手の上で豆腐を切っているが……シノブが包丁を扱うたびに安産型のツヤツヤした尻が、俺の視界の中で「ぷるん」と可愛く揺れる。


彼女の太ももの上で優しく揺れるその円形の肌色は、俺の下半身にダイナミックに、そしてダイレクトに「甘い刺激」を送って来ていた。


だから座る俺の下半身は“城”のように聳え立ち、俺の「城」の見すぼらしい天井をずっと見続けているわけだ。


 そしてお前たちからすると、「朝から美少女の生尻を拝みながら朝食の出来上がりを待ってるなんてズル過ぎる。ナユタ憎い。なぶり殺す」と思っているかもしれないが……俺も“3日前まで”は、そう思っていた。


こんな絶景を拝める眼福な毎日が、こんなにも「辛い」とは思いもしなかった……。




【 3日前 】


【 メゾン一国のナユタの「城」にて 】



 俺は夢を見ていた。


それは万錠ウメコに仕事のサボりがバレて、叱責される夢だった。


 50デニールの足で、四つん這いになった俺の尻を踏みつけたウメコは言う。


「そんなに仕事が嫌なら、また無職に戻れば良いじゃ無い!!

黒タイツを握りしめて一人夢想にふける、無職にね!!」


 俺は言う。


「違うんだ!!ウメコ!!

痛いやめて!!

俺は50デニールだけが好きじゃ無いんだ!!60も、そして30も大好きなんだ!!!

痛いやめないで!!」


しかしそんな俺の穏やかな眠りは、小刻みな揺れで妨げられた。


俺のくたびれ切ったベッドが、ギシギシと音をたてる。


 耳に優しいふんわりとした女の子の声が、聞こえる。


「ナユタさん。ナユタさん。

起きてください。

 もうすでに日は昇り、ニワトリは鳴くことに飽きましたよ?」


 一人暮らしが長い俺にとって、誰かに起こされるのは完全に予想外の出来事だ。


だから現実をうまく把握できない俺は、夢見心地でうめく。


「50デニール……ニワトリ……」


 女の子の声が裏返る。


「え……?

50デニール?しかも……ニワトリに?

てか、ナユタさんの……股間が……!?」


 そして俺の夏布団が捲れ上げられた。


 温かい身体がちょっと寒くなり、さすがに目が覚める。


 それと同時に女の子の叫び声が聞こえてくる。


「え!?えええええ!?!?

 な、なななななんで!?!?」


 いきなりの大声で、俺の意識は完全に覚醒した。


見ていた夢が弾け飛び、すぐに忘却の彼方に消えた。


そして目の前には、俺の脚の間で座りこんで驚く、月影シノブがいた。


理由は分からんが、シノブは轟女トドジョの制服の上にフリルのピンクのエプロンを付けていた。


エプロン姿のシノブ、めちゃくちゃ可愛い。


てか、ブレザー制服の上にエプロンは最早プレイだ。

 

 そしてピンクエプロンのシノブのグリーンの瞳には、高く持ち上がった俺のグレーのトランクスが写っている。


 落ち着きを失ったシノブは、「がくぶる」みたいな感じで口を開く。


「ど、どどどうして??

 こんな朝から……

な、ナナナナユタさんは“準備万端”なんですか??」


 なぜそんなに驚いてるのかは分からないが、とりあえず俺は最も妥当な質問を彼女に投げかける。


「なぜシノブが、朝っぱらから……俺の部屋に居るんだ……?」


 シノブは俺の股間を見たまま言う。


「ナユタさんのお家の玄関のロックは、WABIちゃんにお願いして開けてもらいました。

 ……そんな事よりも、なぜ?どうして!?

 ナユタさんの股間ナユタさんは、変態さんナユタさんになっているのですか……?」


「落ち着け。シノブ。

なに言ってるのか分からない。

 そもそもWABIちゃんが勝手に俺の家のロックを開けるのも解せないんだが……まあともかく、シノブの目の前の現象については簡単に説明できる。

 俺の股間がそんな感じになっているのは……

『生理現象』だ」


「ナユタさんの股間ナユタさん変態さんナユタさんで……生理現象ですか……?」


「ああ……。何言ってるのかやっぱ分からんが……。

生理現象だ。

『朝勃ち』と呼ばれるやつだ」


「あ……あさだち……?

 ……イ、インスタントお味噌汁の商品名みたいですね?」


「そんな名前の味噌汁があったら嫌だ。

 ともかく俺のこの股間は、生理現象だ。

だから何か意味があって、こんな感じになっている訳じゃない。

つまり今の俺は変態じゃない」


 ……と俺はその“生理現象”について説明した。


 しかしそれを聞いたシノブは真剣な表情で、俺の股間を見たまま考え込む。


正座した彼女の膝の上で、制服のスカートの裾とエプロンが揺れる。


エプロン+制服のシノブは、なぜか妙に、やっぱ背徳的な雰囲気が漂っていた。

 

その所為かどうかは分からないが、シノブの視線に晒された俺の股間は天井を向いたままだ。


てか、いい加減……恥ずかしくなってきた。


シノブはいつまで見てるんだ?元気になった俺の股間を……。


 やっと思考を終えたシノブは、キッパリとした口調で言う。


「嘘です!!!!」


 驚きつつも質問する。


「はぁ……?ウソ??」


「ええ!!ウソです!!!

なぜなら寝ぼけたナユタさん……。

タイツのこと言ってましたから!!!」


「え……タイツのこと?……そうなのか?」


「ハッキリと言ってました!!50デニールって!!」


 俺は考え込む。


しかし残念なことに俺の電脳に中には、夢の記憶は全く残っていなかった。


「ご、50デニール……?

それならそうなのかもしれないな」


 それを聞いたシノブはフグぐらい膨れっ面になる。


そんなシノブも可愛い。


 しかしそうやって俺が見惚れている間にシノブは、“残酷過ぎる”行動に出た。


 俺のベットから降りたシノブは、チャブ台の上に置いてあった“バカ可愛いフィギュア”のうちの一つを取り、玄関に向かって全力で投げた。


 思わず叫ぶ。


「はぁ!?!?」


 生命(フィギュア)の危機を感じた俺の視界は、スローモーションになる。


【御前たん〜梅雨バージョン〜】のフィギュアが、可愛く微笑んだままどんどん俺から遠ざかる。


俺は必死で走って、それを追いかける。


しかし【御前たん〜梅雨バージョン〜】が飛ぶスピードは速かった。


 超強化プラスチック製の扉に「ガツン」と当たり、【御前たん〜梅雨バージョン〜】は玄関に落ちた。


【御前たん〜梅雨バージョン〜】が持った傘は折れ、無惨な有様になってしまった。


変わらない”彼女“の笑顔が、逆に憐憫を誘った。


 だからさすがの俺もキレる。


「これは!

限定版の御前たんなんだぞ!?!?

 今や転売ヤーのせいで市場価格が5倍に跳ね上がっているんだぞ!!!!

 どうしてくれるんだ!?!?」


 そんな残虐行為を行なったのにも関わらず、シノブは瞳に涙を浮かべていた。


女の子の涙に勝てる男はいない。それが十歳以上の年の離れた恋人だったらなおさらだ。


 一瞬で怒気が去り、俺はたじろぐ。


 涙を目に溜めたシノブは両手の拳を振りながら言う。


「ナユタさんのっ!

ナユタさんがっ!!!

ナユタさんなんてっ!!!

 『黒タイツ履いてるニワトリに興奮するぐらい高位の変態さん』!!!!」


「は、はぁ!?

ニ、ニワトリ!?

高位の変態??

 い、意味がわからん!!

とにかく、お、落ち着けシノブ」


「お、落ち着いていられますか!!!

 せ、せっかく私!!ナユタさんに!!

バブみを感じてもらおうと思って!!!

朝ごはんを振る舞おうと思ってたのに!!!」


「あ、朝ごはん!?

 ば、バブみ!?!?

意味わからんが……な、なんかすまん」


「……それなのに、朝から『ニワトリ黒タイツ』に発情して凸ってるなんて!!!

 どうしてナユタさんは、そんなにもハイレベルで高位の変態さんのトップランナーなんですか!?」


「そこは決して違う!!

俺は高位の変態じゃない!!

俺のこれはっ!!

 生理現象って言っただろっっ!!??」


「ウソです!!

ウソは嫌いです!!

ってか……

ま、まだ凸ってるんですが!?!?

……すごい……」


「ちょ!!

じろじろ見るんじゃない!!」


「え、あ……。

す、すすすすみません。

 で、でも……やっぱ、まだそんなに元気なのはおかしいです……」


「ああ……。

そ、それに関しては……な、なんて言うかだな……その……エプロンが……」


「エ、エプロン……?」


「ちょ、ちょっと言い難いんだが……

シノブの『制服ピンクエプロン』がなんか背徳的で……煩悩的で……」


「わ、わわわわわ私の!?

ぴ、ぴぴピンクが!?!?

ぼ、煩悩的!?!?!?

 え、ええええええエプロンで!?!?!?

そ、そそそそそんな……変態さんな……」


「……」


「い、いや!!

み、みみみ見過ぎですから!!!私のエプロン!!!

は、はははは恥ずかしいですから!!!

 で、でもでもでもでもでもっ!

騙されません!!!

 てか、そもそも凸の原因は黒タイツだったはずです!!!」


「いや、だから言ったじゃ無いか……

それがそもそもの勘違いだって……」


「じゃ、じゃじゃじゃあ?!?!

 ハ、ハハハッキリさせようでは無いですか?!?!

わ、わわわ私のエプロンの性能ってやつを????」


「シノブ。

キョドり過ぎて、なんかのパクリみたいなセリフになってるぞ。

 てか……なんなんだよ?

『エプロンの性能』って……??」


「え、エエエエエプロンか?!

 く、くくくく黒タイツか?!

 ど、どどどどどっちがよりナユタさんの性癖なのか!!『試してみよう』って言っているんです!!!!」


「シノブの【制服エプロン】か……【黒タイツエプロン】か……?

 確かに悩ましいな。

どっちだろうな……?

 いや……

俺はいったい、何を悩んでいるんだ??」


「しょ、しょしょしょしょ……

 少々おまちください……」


と言ったシノブは、目をぐるぐる回転させながら俺のバスルームに籠った。


 そのシノブの混乱っぷりに一抹の不安を感じたが……しかしそれは、良いエロい意味で俺の期待を裏切った。


何故なら……耳まで赤くして戻ってきたシノブのエプロンの下は、完全な全裸だったからだ。


 ピンクのエプロンの横にシノブの横乳がはみ出し、なだらかな曲線を描き、豊かな腰に繋がる。


鼠径部の端が可愛いピンクのフリルに彩られた様子は、あまりに背徳的で凄く……最高だった。


 横に広がったエプロンはシノブの腰を覆うが、しかしその下端からは彼女のみずみずしいまでの白い太腿が溢れる。


シノブの脚の輪郭は、跳ねるような曲線で膝とふくらはぎと足を繋いでいて……そしてさらに足の指までもが、先程できたばかりにツヤツヤだった。


エプロンの端から溢れるシノブの健康的な弾ける裸体を見た俺は、思わず息を呑んだ。


 そして恥ずかし気に俯いたシノブは、上目遣いで言う。


「あ、あらためて……

どうでしょうか……?

 私の……

エプロン姿……」


 その可愛すぎるシノブの表情で、俺は言ってしまう。


鼻の下を「新種の病気か?」ってぐらい伸ばして、言ってしまう。


「……きゃわいい……えろい……」


 頬を赤らめたままのシノブは、上目遣いのまま妖しく笑う。


「ふふ……ナユタさんの……

変態……♡」

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