おまけ
「千雪」
零夜に名前を呼ばれ、ん?と振り向く。
すると零夜がひざまずき、ポケットから白い小さな箱を私に差し出した。
「俺はずっとずっと、千雪を愛してる」
「え……」
「結婚しよう」
その言葉に、私は涙を流した。
彼の顔が涙で滲む。
「うん……!」
零夜が私をぎゅっと抱きしめた。私は声を上げて泣きながら、「零夜、大好き」と繰り返していた。
「はあっ!?」
リビングで真夏が声を上げた。
「結婚!?」
「うん」
「もしやあの石黒零夜って男とか!?」
「うん、当たり前じゃん」
ふぅ、と息をはき、自分の顔を見られたくなくて俯く。きっと今、私の頬は緩みきっているだろうから。
あ、そういえば、とあることを思い出し、顔を上げた。
「真夏、渡辺さんと付き合ったんだっけ?」
私は首を傾げた。
「あー、うん」
彼が私から視線をそらす。
照れてるのかな、と思った。
「おめでとう、……いずれ結婚する?」
「はあ!?」
また彼が声を上げた。
「いやっ、別に……!」
そうして真夏はリビングを飛び出した。
私は小さく笑い、左手の薬指を見た。
そこには零夜にもらった、白い光り輝くルビーのついた指輪。これを見ると、嬉しさが込み上げてくる。
「よかったね」
いつの間にか隣にいたお母さんが優しく笑った。
私も笑って「うん」と答える。
ああ、結婚式が楽しみ。
あの時は色々あったなあ、と高校時代を思い出した。あれから約七年の月日が経ち、私達は二十三歳になった。
あっという間だったような、長かったような七年だった。
本当に、零夜に会えてよかった。
零夜に会って、私は人を信じることができた。
今は一時期話していなかった渡辺さんとも仲良くしている。
夢みたい。
でもこれは現実で。
よかったな、と思う。
そして私は、家を出てある場所に向かう。
――高芽公園。
そこには、私の愛する人と葵月町の景色が広がっていた。
あとがき 2
『おまけ』をお読みいただき、ありがとうございます!
零夜のプロポーズシーンが書きたくなり、おまけを書かせていただきました。
あと、渡辺美月と真夏の関係があれから進んでいなかったのが気になってしまいまして……(小声)
これで本当に終わりかな、と思っております。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
本作、そして次作と、私——琴瀬咲和を、これからもよろしくお願いします。
次作『余命三ヶ月の私に、君がくれた夏』
↓
https://kakuyomu.jp/works/16817330659621687228
二千二十三年七月 琴瀬咲和
君の涙が落ちる前に 琴瀬咲和 @mirietto
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